26話 フェスティバル!
学園に入学してからしばらく経った。剣聖さんが泊まりに来たり、私に2人の姉ができたり、それについて質問攻めにあったり、最初は慌しかったが徐々に学園生活も落ち着いてきた。
変わったことといえばチカ姉に演劇部に入るよう頼まれたりした。
この学園は一般の学校と同じくクラブ活動が盛んである。私も何処かに入ろうか悩んでいたんだけど、チカ姉に自分が所属する演劇部に入るよう頼み込まれた。
演劇部と言っても殆ど名ばかり。部員はチカ姉しかおらず、あまり活動もしていない。
チカ姉曰く、今期中に部員が入らなければ廃部、とミラ姉様から通告を受けていたらしい。
隠れ家的な存在である部室を、どうしても守りたかったとの事。
そんなこんなで充実していく学園生活。一方"海猫"の方も変化が出てきた。
ここ最近、ポツポツとお客様が来る様になっていた。といっても五日に一人とかその程度だけど……
それでも殆ど来なかった時期に比べたらマシだ。
そうして半月ほど過ぎ……
「海都もずいぶん賑やかになってきたわね〜」
休日。私とホーネットさん、グリペンはいつもの様に食材の調達に出ていた。
「もうそろそろ"星空祭"だからな!」
興奮気味にそう叫ぶグリペン。
"星空祭"
それは春も終わりのこの時期、大陸各地で開かれるお祭りのことである。星空祭の起源は古い、そもそもこのお祭りの誕生には"星空"という、お伽噺が関わっているらしい。
遠い昔のこと、この世界とは別の世界。その世界は争いで壊れかけていました。
そこで、その世界に住む人々は大きな舟をつくり、星の海へ旅立ちました。
長い時が流れ、人々は新しい世界に辿り着きました。
それこそ、私達の住むユリシーズ、この世界なのです。
これが"星空"、大陸に住む人なら誰もが知っている様な話だ……まあ、なんともメルヘンな話である。
で、ちょうど最後の部分。この世界を見つけたのが、今くらいの季節だと言い伝えられている。なので、この世界の人々はこのお伽噺にちなんで、その季節に合わせてお祭りを開くのだ。
「学園の方も準備が進んでます、旅館もそこそこ人が来る様になったし賑やかになってきましたね……」
そう、その星祭りに合わせ学園でも学園祭みたいなものが開かれる。
「懐かしいわねぇ……学園祭」
遠い目で空を見上げるホーネットさん。
「ベルのクラスは何かするのか?」
と、グリペン。
「んー……一年生は基本何もしないからなぁ」
そう、何か出し物をしたりするのは基本的に二、三年生だけなのだ。入学したての一年生にいきなり大きな行事を任せるのは酷だ、という理由からそういう事になっているらしい。
「だから結構一年生は暇だったり……」
「ならその分"海猫"の仕事を頑張れ!」
私の肩をポンと叩くグリペン。いやまあそのつもりだけどさ。
と、その時。遠くに見知った顔が見えた。あれは……
「ラファールさん!」
私は彼女に駆け寄る。帝国聖騎士連合のラファールさん、海猫のお客様第一号でもある。
「ん、やあベル」
振り向くラファールさん。彼女のエメラルドブルーのサイドテールがふわりと揺れる。
「あの、この間は"海猫"をご利用いただきありがとうございました!」
私はラファールさんに改めてお礼を言った。
「いやいや……別にお礼を言われる様なことは……」
「ファルったら照れちゃって〜!」
ホーネットさんもこちらに来る。彼女のラファールさんへの対応は相変わらずだ。
「ホーネット、あまり揶揄わないでくれ、おや? そちらの娘は……」
グリペンの方を向く彼女、そういえば初対面だったか。
「私はグリペン! 海猫の3人目の仲居だ!」
名乗る彼女。
「ふむ、新入りが入ったと聞いてはいたが……」
「ふふん、この娘も可愛いでしょ〜」
何故か満足げな様子のホーネットさん。
「ラファールさんは何を?」
私は彼女に聞いてみた。見たところ帝国聖騎士連合の制服姿っぽい、仕事中なのであろうか。
「いや、鶴の剣聖さんに渡すものがあってな、今あの人の所に向かう途中だったんだ」
ん? "鶴の剣聖"って……
「あ、あの人まだ海都にいるんですか!?」
衝撃の事実、てっきりもう何処かに行ってしまったのかと。
「ああ、今も海都に滞在中だが……」
「あれ? 言ってなかったかしら?」
と、ホーネットさん。いや初耳なんですが……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やあ、また会ったね」
軽いノリな剣聖さん。あの後、私はホーネットさん、グリペンと別れ、ラファールさんとともに彼女が滞在しているという宿屋に来ていた。
「あの……なんで他の宿屋に?」
「んー……せっかく海都に来たんだし、色々な場所に泊まってみたくてね、でもやっぱりベルちゃんの場所が一番いいなぁ」
窓から外を眺めながらそんな事を呟く彼女。
「よし、決めた! これからはずっと海猫にいよう……」
えぇ、冗談だよね?
「はぁ……鶴の剣聖さん、冗談はそれくらいで」
ラファールさんが前に出る。
「頼まれていた例のものです」
彼女は何か書類のような物を剣聖さんに手渡した。
「ありがとう、ふむふむ……」
私はなんとなく、その場にいていいのか微妙な気分になりソワソワしていた。
「あ、ベルちゃん、これ気になるよね、実は最近海都で不審者が……」
「ちょ、なに一般人に話そうとしてるんですか! ベル! 今のは忘れろ!」
……剣聖さん、口が軽いってレベルじゃないな。
「あはは、ごめんごめん……あ、そうだベルちゃん、剣術教えるって約束してたね、これからまた暫く海猫に滞在するから少しなら教えてあげられるよ」
「ほ、本当ですか!?」
それは願ってもない話、てっきりすっぽかされたものとばかり。というよりさっきの話本気だったのか。
「よーし、そうと決まったらさっさと海猫に戻るぞー、ほらラファール、ベルちゃん行くよ!」
そうして、"海猫"にまた1人お客様が増えたのであった。




