25話 2人の姉
「私、ラーストチカ・ファルクラムはいかなる時も、誓約妹のベールクトと苦楽や困難を共にし、魔法、魔術の発展の為、我が妹にこの身を捧げる事をここに誓います」
誓約の言葉、私も後に続く。
「……私、ベールクトはいかなる時も誓約姉のラーストチカ・ファルクラムと苦楽や困難を共にし……えっと、魔法、魔術の発展の為に、私の姉に身を捧げる事をここに誓いまひゅ……」
そして、互いに誓約指輪を交換した。
誓約指輪……普通は学園が用意しているものを使うらしい。私が渡す物もそれだ。
しかしチカさんが用意してきたものは、彼女が自分で作成したものであるらしく、小さくカットされたスカイブルーの魔力結晶が台座にはめられていた。
私の指にチカさんがその指輪をはめた。するとそれは青々しい光を湛え輝き出す。
「……っ」
そして私の足元に同じく青々しい魔法陣が現れる。
「私にも」
手を差し出すチカさん。私は彼女の左手の指に指輪をはめる。すると彼女の足元に同じく青々とした魔法陣が現れる。
しばらくすると誓約指輪の輝きも魔法陣も消える。
「これで誓約完了ね、後で学園に誓約届を提出しなきゃ」
終わったのか……なんとも不思議な気持ちだ。
「あ、私のことはこれからチカ姉と呼びなさい、いいわね?」
チカさん、もといチカ姉が私の手をとる。
「……んー、ベルちゃん何か物足りなさそう。キスとかした方が良かった?」
「〜〜ッッ! な、何言ってるんですか!?」
〜〜〜〜〜〜〜〜
なんか、ものすごく流されてるような気がする。結局、決闘の後チカ姉にほぼ強引に誓約させられた。
ミラージュ生徒会長はそのまま何処かに行ってしまった、私と誓約する気はないみたいだ。
「……あの、なんで私なんか?」
私はチカ姉に聞いてみた。正直この人は凄い。生徒会長とほぼ同格の実力を持ち、間違いなくこの学園の生徒の中では一番か二番に強い人であろう。
そんな人がなぜ私を?
「んー、一目惚れ?」
からかわれてるのかな……
「真面目に答えてください……ひゃん!」
首筋に違和感、その場所を見るとチカ姉の尻尾の先端でさわさわされていた。
「ちょ……なにを!」
「んー、私は結構本気なんだけどなぁ」
私にグイッと迫るチカ姉。
「離れてください!」
と、そこにテルミナの声。彼女は私達2人の間に割り込んだ。
「誓約姉妹といえど、あくまで学園での下級生上級生の関係! 本物の妹である私の目が黒いうちは……」
チカ姉に抗議するテルミナ。
「妹? ベルちゃんの? じゃあアナタも私と誓約する?」
「誰が!」
ギャーギャーと騒ぐテルミナ。
「はぁ……」
私の周りにはどうしてこうも変人が集まるのだろうか。
〜〜〜〜〜〜〜
その後、チカ姉から解放された私はテルミナと共に学園の大図書館に向かった。借りていた魔導書を返却する為だ。
「ねぇ! ベールクトさん、あのファルクラム様と誓約したって本当!?」
途中、同じクラスの娘達に囲まれ質問攻めに合う。
「あぁ……うん」
もうこの話題は学園中に広まっているらしい、チカ姉はかなりの有名人で変人。
そんな人と誓約をした私もかなりの注目の的になっているようだ。
「誓約指輪見せてー!」
クラスメイトからの要求、私は左手の指輪を見せる。
「凄い!!」「きゃー!」
彼女らは興奮気味ではしゃぐ。暫く質問攻めが続き、ようやく解放された私たち。
「むーっ! お姉様は私の姉なのに……」
不満げなテルミナ。
そうして私達は大図書館にたどり着く。魔導書を返却し、何かまた参考になる本がないか探しているとテルミナとはぐれてしまった。
「また……本当ここって迷いやすい……」
大図書館をさまよい歩いてると、前に生徒会長を見かけた小さな書架がある部屋の前にたどり着いた。
「ここって……」
私はチラリと部屋を覗いてみた。すると案の定、生徒会長がいた。
「……来ましたわね、入ってきなさい」
……! 気が付かれてた。
私は恐る恐る部屋の中に入る。
「……受け取りなさい」
生徒会長が親指で何かを弾いた。私は慌ててそれをキャッチする。
「こ、これ……」
手を広げてその物体を見てみる。指輪だ、綺麗な赤色をした魔力結晶の装飾が施されている。
「誓約指輪? ……あの、もしかして」
生徒会長も私と誓約をする気なのだろうか。というかこれも学園支給の指輪とデザインが違う、オリジナルのものだろうか。
「……不本意ですが、あの決闘で学内には私がアナタと誓約するという話が広がってしまいました」
大きく溜息をする生徒会長。
「撤回するのも面倒なので、このまま誓約をしてしまいます」
生徒会長、てっきり誓約する気なんかないとばかり……
「……不本意! 本当に不本意ですわ!」
何故かそこを強調する彼女。
「オホン……じゃあ始めますわよ、こっちにきなさい」
私は生徒会長の元に行き、懐から学園から支給された誓約指輪を取り出す、ラプターさんからはチカ姉用と生徒会長用の2つを受け取っていたのだ。
「ワタクシ、ミラージュ・バイオレットはいかなる時も、誓約妹のベールクトと苦楽や困難を共にし、魔法、魔術の発展の為、我が妹にこの身を捧げる事をここに誓います」
誓約の言葉。私もそれに続き誓約の言葉を述べた。
そして指輪を交わす、チカ姉の時とは違い赤い輝きが指輪と魔法陣から生まれる。
これで、誓約は完了。
「いいこと! ワタクシの妹になったからには……今期中には菫組に上がっていただきますわよ!」
……いや、無茶でしょ。
「それからっ……私の事は、ミラ姉様と呼びなさい!」
こうして、私に2人目の姉が誕生した。




