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22話 私の故郷

「はぁ〜……気持ちいいにゃ……」


 やっぱり温泉っていいよね、いくら入っても飽きないというか……


 私は今、"海猫"の温泉に入っている。こうして仕事終わりは私たちも入っていいことになっている。普段私たちがお手入れしてる場所だしこれくらいの役得があってもいいよね。


「……綺麗な景色」


 ここから眺める夜景は別格だ、実は浴場からも海都の景色が見られる。少し高台に位置しているので、他から覗かれる心配もあまりなくのんびり景色を楽しめる。


「うおぉ! 風呂だ!」


 浴場に勢いよく入ってきたグリペン、そのまま……


 ドッボーン!!


 と、飛び込む。


「グリペン! 飛び込みプールじゃないんだから! あと湯船に入る前はちゃんと身体を流してから……!」


「硬いこと言うなよ〜ほれほれ」


 私の身体に抱きついてくるグリペン。


「ん〜相変わらず育ってないな〜」


 なんと失礼な、こう見えてもちゃんと成長しているんだぞ……多分。


「やめっ! 抱きつくな!」


 相変わらず距離が近い。


「はいはい……んーっ、それにしてもここから見える夜空は綺麗だねぇ、故郷(こきょう)を思い出すよ」


 大きく伸びをしてそんなことを呟く彼女。故郷……スカーレットグリフォン王国の事であろうか。


「グリペンの故郷ってどんな所?」


 私は何となく彼女に聞いてみた。


「んー? いい所だよ、住みやすいし、ベルも一度来てみなよ、絶対に気に入ってくれるから!」


 スカーレットグリフォン王国は自然豊かな国であると聞いた事がある。


「ベルの故郷は?」


 そう聞かれて、一瞬迷った。私の故郷……この世界ならノースガリアの田舎村、前世なら日本……東京の街……


「……ベル?」


 と、ちょっと寂しそうな表情が出てしまったみたいだ。


「いや、うん……良いところだよ、どっちも」


「どっちも?」


 不思議そうな顔をするグリペン、私は空を見上げる、満天の星空だ。


 東京にはもう帰れない、世界が違うし。でも……この世界で母と過ごしたノースガリアの村は間違いなくこの空で繋がってる。


「故郷か……」


 私の住んでいた家はどうなっているのであろうか。母の墓も放ったらかしにしたままだ。


「はぁ……」


 ちょっぴりセンチメンタルな気分になった私であった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 そうして、翌日。


「……これ、何処で手に入れたの?」


 私の"桜"と"菫"を見つめ私にそう問いかける剣聖さん。


「えっと、話すと長くなると言うか……」


 一つはラプターさんにポンと渡され、もう一つは神社のキツネっ娘に押し付けられた。


 うん、なんともまあ雑な入手の仕方であろうか。運命もクソもないな……


「この()達からは、"彼岸花"と同じ匂いがするね」


 そうして剣聖さんは自分の腰の太刀を抜いてみせた。


「す、凄い……真っ赤……」


 "彼岸花"と呼ばれたその太刀の刀身はその名前通り、綺麗な赤色をしていた。なんだか見ているだけで吸い込まれそうだ。


「この娘はね、ちょっと特殊な妖刀なんだよ」


 よ、妖刀?


「その娘たちも抜いてみなよ」


「え? は、はい」


 剣聖さんの言う通り"桜"と"菫"を鞘から抜いてみる。すると、その2本は剣聖さんの太刀と共鳴するかのようにそれぞれの色に輝き出した。


「普段も綺麗だけど、今はそれ以上に凄い……」


 キラキラと宝石の様に輝き出す、こんな事初めてだ。これって……共鳴してる?


「やっぱり、同じみたいだね」


 そして、剣聖さんは詳しく説明してくれた。


 曰く、これらの刀はある有名な刀鍛冶により打たれたもので特殊な魔力が込められている妖刀だそう。


「この娘たちは強い魔力に惹かれるんだよ」


 魔力に惹かれる……雑だと思っていた入手の方法が一気に運命的なものに思えてきた。


「そんないわく付きのものだったなんて……」


 私はこの小刀たちに選ばれたって事なのか。


「まあそんな珍しい話じゃないけどね、この大陸でなら魔女(ウィッチ)とかが使う高位の魔法具とかは同じく使用者の魔力に惹かれるし、それの刀バージョンって感じかな」


 魔法具は魔力に惹かれる……ありがちな話だが、それと同じ事がこの刀たちにも起きてるってことか……


 だからこそ、魔法の媒介にもしやすかった。色々気になっていた部分がわかってきた。



 そんなこんなで、ようやくこの小刀たちについて少しだけ知ることができた私であった。



〜〜〜〜〜〜〜



「あの、色々貴重なお話ありがとうございました!」


 私は剣聖さんに頭を下げる。


「こっちこそ、故郷を思い出す良い旅館だったよ」


「……私も一度大和に行ってみたいです」


 元の世界の日本には戻れないけど。大和という国なら同じ空気を味わえると思う。同じ和の心を持つ国なのであろうから。


「気になるの?」


「……はい、私のもう一つの故郷みたいなものですから! ……多分」


 剣聖さんは「ふふっ、なにそれ」と、なんだか優しげな雰囲気で笑ってくれた。


「……ホーネット、ラプターによろしく言っておいて」


 剣聖さんは隣にいたホーネットさんにそう告げる。うーん、ラプターさんと剣聖さん、2人の力関係が気になるけど……


「はい、鶴の剣聖(ジュラーヴリク)様」


 一瞬、聞き慣れない単語が聞こえた。剣聖さんの本名であろうか。


「じゃあ、私は行くね、ホーネットに仔猫ちゃん、バイバイ」


「はい! ありがとうございました! またのお越しをお待ちしています!」



 そうして剣聖さんは去っていった。





 あ、剣術教えてもらってない……

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