表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/91

21話 鶴の剣聖

 入学式から数日後、今日は休日。やる事も無いし図書館からかき集めてきた魔導書でも読み漁ろうと思ったんだけど……


「ベルちゃん、今日、泊まりのお客さんが来るから」


 と、ホーネットさん。なんで普段は全くお客さん来ないくせに休日に限って……


「うおおぉ! 初めての客だあぁ!」


 興奮気味のグリペン、そういえば彼女がここに来てから初めてのお客様になるのか、まあ仕事は出来るし不安はないんだけど……


「気合入れていくぞ!!」


 この通り暑苦しいのでちょっと心配。


「頑張りましょうお姉様!」


 テルミナは別の意味で心配。


〜〜〜〜〜〜〜〜


 そうしてその日の夕方。そのお客様がやってきた。接客を担当するのはもちろん私。だってこの旅館で一番のベテランだし。


 まぁ……殆ど他の2人と仲居歴は一緒だけど……


「ようこそおいでくださいました、お客様」


「あ、うん」


 私は顔を上げる、これまた途轍も無い美人だなぁと感じた。


「……」


 綺麗な黒髪のツーサイドアップ、優しそうで何処か儚さを感じる顔立ち。そして……目立つ和服に腰にさした刀……え? 流行ってるの? この世界じゃ日本刀がブームなの?


 と、冗談はさておき、どうやら彼女は大和から来た人みたいだ、顔立ちも何処か日本人っぽいけど。あれ? でも大和は今鎖国状態のはずでは……?


「……ん? なに?」


「あ! いえなんでもありません! ようこそ海猫へ、私は仲居のベールクト、お客様のお世話をさせていただきます!」


 もう3回目だ、この手の対応には慣れてきた。


「では旅館のご案内をさせていただきますね」


「その前に、ここに神社があるって聞いたんだけど……」


 彼女が唐突にそんな事を言い出した。


「あぁ、はい、御座いますが」


 神社……間違いなく例の稲荷神社の事だろう。


「案内してくれるかな」


「わ、わかりました!」


 と、神社を案内する事になった私。案内する途中で「なんで旅館なのにメイド服?」と突っ込まれた。


 ……返す言葉もなかった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ふぅん……本当にあるんだ」


 綺麗な朱色の鳥居を見てそう呟く彼女。


「……ん、やっぱり故郷を思い出すな」


 寂しげな表情でボソリとそんな事を言った。


「失礼ですが、お客様は大和からこられた……」


 やはり聞かずにはいられなかった。


「んー、どうだろう、小さい頃に少し住んでただけなんだけど……」


 遠い目をする彼女。と、そこに神社の使いキツネっ娘さんが近づいて来た。


「……此奴、只者じゃないな」


 私の耳元で小声で呟くキツネさん。


「……え?」


 私も小声で返す。只者じゃないとはどういう事だろうか。


「感じぬのか? 此奴、かなりの剣客と見た。雰囲気でわかる」


 剣客……私は彼女の腰の刀を見てみた。まあそりゃ、あんな立派な刀を腰に下げてたら誰だってそう思うでしょ。


 彼女の腰の刀の鞘には見事な彼岸花らしき装飾が施されていた、芸術品みたいだ。


「……これが気になる?」


 刀を持ち上げ私にそう問いかけるお客様、まずい、気に障ってしまったか……


「あ、いや! すみません! 見事な代物だな、と……」


 すると彼女は優しげな笑みを見せ私の頭を撫でる。


「ありがとう、この娘も喜んでるよ」


 この娘? 刀の事だろうか……


「ところで、あなたも剣士だよね、雰囲気でわかるよ」


 な、なんでわかったのこの人。確かに私は桜と菫を愛用している、学園や外に出るときは身に付けてるけど流石にこういう接客の時は身に付かず、離れに置いといているんだけど……


「は、はい、でも剣士なんてものじゃ、最近偶然小刀2本を手に入れただけで……」


「へぇ、でもこの大陸で大和の刀を持っている人なんて殆ど居ないから嬉しいな、よかったら剣術教えてあげようか?」


 剣術の指南、願ってもない話だが……この人本当に何者……?


「あ、まずはお参りしてかなきゃね」



〜〜〜〜〜〜〜〜



 そうして、彼女は神社へのお参りを済ませ。旅館に入っていった。私は旅館の紹介を済ませ彼女を"椿"の部屋に案内。一仕事終えた私はホーネットさんの元を訪ねてみた。


「ホーネットさん、あのお客様は一体……」


 只者では無いのは分かるけど……


「あの人は"鶴の剣聖"って言って、東方剣術を極めた大陸一の剣聖様よ」


 え? いやいやとんでもない人じゃん、というか鶴の剣聖って……


「ほら、私の言った通りじゃったろ!」


 キツネさんが得意げにそう言う、この人旅館に出入りしてすっかりここの住人になってしまった。


「鶴の剣聖……英雄様の1人ですね」


 テルミナが私の言いたい事を言ってくれた。


 そう、魔族との戦争において活躍した5人の英雄のうちの1人。その中にそんな異名を持つ人物がいる。


「あれ? てことはもしかして……」


 あの人ラプターさんの知り合いなのかな?


 というか、この前のピクシーさんもホーネットさんの知り合いっぽかったし。


「この旅館……身内しか来てないじゃん……」



〜〜〜〜〜〜〜〜



 その後、剣聖さんはラプターさんに会いに行くといい旅館を出て行った、夜には戻ってくるとのこと、多分学園に行ったのであろう。


 そして宣言通り夜に戻ってきた彼女、ラプターさんとどんな話をしたのだろう、気になるけど流石にそこまで突っ込むわけにもいかない。


 剣聖さんは石造りの温泉を随分気に入ってくれた。そうして夕食。今回は例のブリみたいな魚を使いぶり大根を作ってみた。下処理したブリを大根と一緒に醤油で煮るお馴染みの料理。


 しかしこのブリみたいな魚、本当に万能……安いし、私達の食事にも欠かせないものになっていた。


 このブリ大根も剣聖さんには好評だった、故郷を思い出す味だそう。やはり大和ではお馴染みの料理だそうな。


 そうして食事も終わり。後片付けも終わり今日の私の仕事も終わり……あれ? もしかして今日働いてたの私だけ? グリペンは料理を手伝ってくれたけど、テルミナとか何もしてない……


 離れに行ったら案の定寝テルミナが気持ちよさそうに寝ていた、この娘はホント……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ