2話 猫娘、攫われる
記憶を取り戻したって、特に世界が変わるなんて事はなかった。私の生活はいつも通り、狩をして食料や金を得て、薬を買って母の看病をする。
これが私の人生のルーティーンであった、辛い毎日ではあったが、決して絶望的なものではなかった。
だがそんなルーティーンは呆気なく崩れ去った。
「ごめん……なさい……」
十四歳の冬、母が息絶えた。最後まで謝り続けてた人だなぁと、冷静を保っていたつもりだったが目からは涙が止まらなかった。
母は村にある墓地に埋葬された、葬式なんて立派なものは出来ない、私は一人になった。
それから一年ちょっと、一人寂しく暮らす私に絶望的な出来事が起こった。
「ヒヒっ……お前さんがベールクトか?」
なんだこのキモいおっさんは、生理的嫌悪感しかないぞ。
「……は、はぁ」
私は警戒しつつ答える。
「おいお前ら! とっととコイツを捕まえろ!」
後ろから2人の男、私は羽交締めにされた。
「なっ……何するの!!」
私は叫ぶ、するとキモいおじさんは。
「悪いな……お前のオヤジさんのツケを回収しにきた……ヒヒっ」
そして私は村から呆気なく連れ去られた。
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父親のことは全く記憶にない、私は物心ついた頃から母親と2人暮らしだった。
母は父について全く語ろうとしなかった。まあ、その事から多分クズなんだろうなとは思っていたけど。
「……まさか、莫大な借金を残して消える程のクズだったなんて」
私は絶望のため息をつく。
私は今船に乗せられ何処かへ運ばれていた。船なんて聞こえがいいけど、あまりにもボロくて不衛生すぎる。
あの後ゴミみたいに汚い馬車で荷物の様に雑に運ばれた、山をいくつも超えた、次第に雪は消え緑も増えてきた。
そして今、私は馬車から船に載せ替えられ運搬されていた。
「うぃ〜ヒック……」
私が詰め込まれている部屋にガラの悪そうな男が入ってきた。
「おい……クソ猫!! 俺は賭けに負けてイラついてんだ!!! 蹴らせろ!!!!」
そしておもいっきり蹴られる、痛い、痛い、あまりにも理不尽だ。
航海中はこんな理不尽なことばかりに襲われたが、幸いにも性的な暴行はされなかった。「キズモノにしたら買い主に怒られる」とかなんとか、余りにも下世話な話だが、その方針に救われたとこもあるので文句は言えなかった。
その代わりに先ほどの様な理不尽な暴力の嵐にあった、お陰で私の身体はアザとキズだらけになった、キズモノにしたら怒られるんじゃないのか?
「お腹すいた……」
出港から1週間、地獄の様な日々が続いた。食料は与えられはしたが、量も少なく痛んでいたりで、まともな栄養が取れているとは思えなかった。
「なんで私がこんな目に……」
獣人の扱いが過酷なものであるのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。私が住んでいた北方ノースガリアは殆ど獣人しかいなかったから、こんな差別的で過酷な扱いは初めてであった。
「……ダメだ、すごく眠い」
このまま寝て、もう一生目を覚まさなければいいのに。そんな思いで私は目を瞑った。
だがその数時間後、私は叩き起こされ……
「オラっ! さっさと出ろ!」
どうやら目的の港町に着いた様だ。私は船から降り桟橋に立つ。
「……はぇ」
周りを見渡す、そこには賑やかしく、明るい雰囲気に包まれている港町であった。
この港町こそ、私がこれから長らく人生を過ごすことになる海都"ユリシア"であった。