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18話 大和からの使い狐

 入学試験の1週間後、私とテルミナはいつも通り"海猫"での仕事をこなしていた、仕事と言っても特にやる事は無いけど。旅館の掃除くらい?


「お姉様! 素敵です! 似合ってます!」


「そ、そう?」


 私は自分の身につけている制服を見る。綺麗な薄ピンクの桜色を基調とした、可愛らしいデザインの制服だ。


「にしても……スカート丈短い、絶対デザイナーの趣味でしょこれ……」


 フリルのついたミニスカートはホーネットさん制作の給仕服並みに丈が短かった。


「それ私がデザインしたのよ〜!」


 私たちの事を見守っていたホーネットさんがそう言った、いやマジですか……卒業生なのは知っていたけど。


「……でも桜色なんだよなぁ」


 桜色ってすごく派手で目立つ。こんな露骨に最下層クラスとわかる制服を着せられるとは。というか私はやたらこの色と縁があるなぁ……そのうち海猫の敷地内からニョキニョキ桜の木が生えてきたりして。


「ふんっ! いいもん!! 私桜色大好きだし!! かわいい色じゃん!! バーカバーカ!!」



はぁ……仕事しよ……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 最近私はある一つの料理をマスターした。それはいなり寿司である。前世でお婆ちゃんの大好物だったので作り方まで知っていて、再現したくなった。


 小学生の時の夏休みの自由研究で一から手作りしたんだよね、懐かしいなぁ……


 まずいなり寿司に必須である油揚げ、そんなものはこの大陸には流通していない、多分大和に行けば手に入るんだろうけど。


 で、油揚げの原材料って何かというと……豆腐である、あれを薄切りにして油で揚げるのだ。もちろん豆腐なんかも流通していない、一から作るしかない。


 ただ、これらが完成すれば旅館で出す料理の幅がさらに広がると考える私はチャレンジしてみた。


 豆腐の原材料は大豆である、大豆を豆乳にし、にがりと言われる成分を加え固めて作る。


 にがりって何か? まあ簡単に言えば海水を蒸発させて塩を作る際に出来るものだ。これはこの世界ではポーションなどで使うらしく、薬屋から南方のとても綺麗な海から作り上げられたにがりを入手。


 これで材料は整った。何度か失敗したが、しっかりとした木綿豆腐を作成、それを薄切りにし油で揚げ油揚げの完成。


 そうして甘く煮た油揚げに事前に用意した酢飯を詰め……完成!


 え? 何でここまで必死になっていなり寿司を作ったかって? そりゃ……



「稲荷神社に供えるのはいなり寿司だよねぇ……」


 私は"海猫"内にあるとても小さな稲荷神社を見つめながらそう呟く。入り口の鳥居、狐の像。


「ん〜……やっぱり神社を見ると心が落ち着く、日本人の血ってやつかな……」


 やっぱり、大和……一度行ってみたいなぁ……


 私はいなり寿司を供え、神社から出て海猫に戻ろうとする。だがその時、ふと後ろから気配を感じた。


「……?」


 私は後ろを振り返る、そこには…………


「ふぅん……まあまあじゃの〜」


 私より小柄な女の子が供えたいなり寿司をムシャムシャと食べていた!


「え、ちょ、誰……?」


 彼女の頭には私のようなケモミミ、そしてボリュームのある尻尾、一瞬私と同じ獣人なのかと思ったけど……彼女は特徴的な巫女服のようなものを着ていた。


「誰とは失礼な! 私はこの神社の使い狐で、大和に居られるうか様の眷属である!」


 怒り出す彼女。


「はぁぁ…………うかしゃまぁ、私はこのような遠い異国の地に一人寂しく……シクシク」


 そして泣き出す彼女、情緒不安定だなぁ。


 彼女の話を聞くに、うか様とは大和にいる穀物の女神で、稲荷神社はその女神様を祀る神社との事。そして彼女はこの地の稲荷神社を守護る為に派遣された眷属だそうな。


「あのクソ商人! ここを放ったらかしにして!!」


 どうやら、"海猫"を建てた商人に御立腹なよう、そうして彼女はスーッと近寄ってきた。


「ふむ、お前気に入ったぞ! 野良猫にしてはいいやつだ! ここの手入れも良くしてくれてるしな! 私の(しもべ)にしてやろう!!」


 と、突然の僕宣言。


「え……? いや、いいです」


 そうして私はその場を立ち去ろうとする。だってなんか面倒臭そうだったし……


「待て待て待て……お主にこれをやろう!」



 私の前に回り込んで、私を呼び止める彼女。そうして何かを差し出してきた。私はそれを受け取る。


「これは……」


 それは見事な小刀であった。桜と同じくらいのサイズ……私はそれ鞘から抜いてみた。すると中から綺麗な紫色した刀身が現れる。吸い込まれる様な感覚を覚える、凄く美しい…………


「……っ」


 その時、身につけている桜が若干熱を持った様な気がした。この小刀と惹かれあっている? 私はそっと桜に触れてみた、暖かい。


「これは……?」


 私が彼女に尋ねる、すると彼女は勿体ぶる様な仕草を見せた。


「これはだな……(すみれ)という特殊な小刀らしい、昔ある人物に頼まれてな、いつかこの海都に“呪い”を背負った仔猫が迷い込んでくるから渡してほしいとな」


 えっと、もしかしてずっと私のこと待っていたのか? というか、私がここに来るって予言されていた……?


「詳しいことは言えんが…………とにかくそれを受け取ったからにはお前はこの神社にお使えしろ!! 雑用係! 掃除に供物も忘れるな!!!」


 そうしてスゥーっと姿を消す彼女。


「なんだったの…………?」


 菫を握りながら呆然とする私、何だか色々気になることばかり言っていたけど。



 何がともあれ、どうやら海猫になんとも不思議な住人が増えた様です…………

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