15話 3人目の仲居はドラゴン娘
「んっー……!」
いつものように心地の良いチュンチュン音で起床する私、テルミナが私に抱きついて寝ていた、これもいつも通り。
私の1日はこうして始まる。昨日は変なお嬢様に絡まれたり大変だったなぁ……でも、きっと今日もいつものように暇して終わるんだろうな。
うんうん、何事もいつも通りが一番一番。
「ベルちゃん、起きてる?」
ホーネットさんの声。
「は、はい! 起きてます!」
ガラリと障子が開けられる、一体どうしたんだろうか。まだ始業時間には早いはずだけど……
「どうしたんですか、ホーネットさん」
「テルミナちゃんは……まだ寝てるのね、実は二人に伝えておきたいことがあって」
テルミナの様子を伺いながらそう言うホーネットさん。何故だか彼女は疲れた様子であった。
「実は、今日ここに新しい娘が来ることになるの」
新しい娘……? 仲居が増えるのだろうか。ただでさえ暇なのに増やす余裕あるのかな……
「実はもうウチに来ててね」
え、随分と急な話だ。
「入ってきていいわよグリペンちゃん」
ホーネットさんが名前を呼ぶ。グリペン……一体どんな娘なんだろうか。
暫く間が空いた後、一人の女の子が部屋に入ってきた。
「私がグリペン・スカーレットグリフォン! よろしく!!」
なんだかやたらテンションが高い、朝からこのテンションはちょっとキツい……にしても竜人族なのにグリフォンとは、紛らわしい名字だが……確か北の大陸にある地方の名前だったかな……
スカーレットグリフォン王国は北の大陸北西端に存在する竜人族の国、あれ? 国の名前と同じ名字? まさかね…………?
彼女は私より背が大きめであった、燃えるような紅色の髪を後ろ一本のお下げで纏めた髪型、顔立ちは非常に整っていて美少女という言葉がふさわしいと思った。そして……特徴的な頭のツノと大きいドラゴンのような尻尾。
竜人族、ドラゴンの血を受け継ぐ種族で戦闘力の高い武人の種族として知られている。
「あ……はい、私はベールクトです、よろしくお願いします」
「ふにゃ……だれですかぁ」
いつの間にか起き上がっていたテルミナが寝ぼけ眼を擦りながら言葉を発する。
「あ……えっと、この人はグリペンさん、今日からここで働く人だよ」
「よろしく!!」
元気よく挨拶するグリペン、テルミナはそれにテンション低めで自分の名を名乗りそのまま布団にかぶって再び寝てしまった。
「これで仲居さんも3人、ベルちゃんを安心して学園に送り出せるわね!」
ホーネットさんがそんな事を言った。
「えっと……私まだ学園に行くって決めてないんですけど」
なんだかすっかり進学する事が前提になってるような気がする。
「……ベルちゃん、あなたの力は特別なの、力の使い方を学ぶべきよ」
ホーネットさんは真剣な表情で私を見つめる。
「ベル! なんだかよくわからないけど学校に行ってる間の事は私に任せて!」
早速、私の事を愛称で呼ぶグリペン。なんだか馴れ馴れしいなこの人……
「……わかりました、ホーネットさんにそこまで言われたら、でもそもそも私あの学園の試験に受かる気がしないんですけど」
実を言うと学園に興味があったのは事実、だけど私があんな凄そうな学園に入れるなんて自信はなかった。
私、この先大丈夫かな……
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グリペンさんは実に優秀で、飲み込みが早かった。ただ……
「ふに゛ゃ゛!! な、何するんですか!」
「んー……かわいい尻尾ね」
私の尻尾をモフモフ撫で撫でするグリペンさん。尻尾はやめてほしい、敏感なので。
「えいっ!」
と、彼女はいきなり後ろから私に抱きついてきた。
「ベル、あなたちゃんと食べてるの?」
私の身体をサワサワしてくる、実にこそばゆい……!
と、こんな感じでやたらボディータッチしたりして、なんかとても距離が近い。竜人族の人ってこんなにフレンドリーな性格なのだろうか。
ちなみに、その事でテルミナとは衝突しまくり、二人はかなり相性が悪そうだ……
はぁ、先がおもいやられる……
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「ベルちゃん、いい? 魔法を使うにはイメージが大事なの」
ホーネットさんが真剣な表情でアドバイスをしてくれる。私は今、1週間に控えている魔法学園の入試対策のレクチャーをホーネットさんにしてもらっていた。
ホワイトリリィ女子魔法学園は種族に関わらず広く門戸を開いている。その為、私のような獣人でも試験を受けることができる。
入試の内容は、この世界での一般的な常識を図る筆記試験と魔法適性を図る実技試験の2つがある。
試験自体はそれ程難しいものではないらしい、ホワイトリリィ学園は入るのはそう難しくはないが卒業が難しいというタイプと聞いた。
「こうですか? えいっ!」
テルミナが見様見真似で魔法を使おうとする、この娘、私が学園の入試を受けると聞くと「私もお供します!」と言ってきた。まあ予想はできたけど……
「二人とも、筆記試験の方は問題なさそうね……」
手元にある紙をパラパラとめくり、そう呟くホーネットさん。
実は私はその手の類には自信があった、病弱だった母に勉強を教えてもらっていたし、家にはあの魔術書以外にも教養になりそうな本がいくつかあった。
ほんと、なんであんな貧乏な家にそんな本が何冊もあったのか。今でも謎だ……
テルミナは……言うまでもない、元王家と言うこともあり幼い頃よりしっかりとした教育を受けていたようである。この娘、本当イメージと違うっていうか……
「あとは魔法適性試験ね……」
私たちを見てそう呟くホーネットさん。
あと1週間、果たして間に合うのだろうか……




