12話 スイカと魔法学園
結論から言えば、練習は成功した。お昼ご飯に例のメニューを出し、その後暫くして温泉に入ってもらった。
テルミナが少しドジをしたりしたけど、何とか私とホーネットさんでカバー。
「いや、今日は良い一日だったよ」
満足そうなラファールさん、彼女は今日一日しか休日が取れず、日帰りという形になった。
「せっかくの初めてのお客さんなのに……泊まっていって欲しかったです」
私はちょっとばかりの愚痴をこぼす。仕方のない事ではあるが、練習台というなら一泊して欲しかった……
「すまないな、こればっかりはどうしても、また今度泊まりに来るから」
私の頭を撫でるラファールさん、……くすぐったい。この人に頭を撫でられるとなんだか凄く落ち着く気がする。
「あ! ずるいです! 私も!」
と、何故かテルミナにも撫でられた。
「ちょっと……くすぐったいって!」
私は思わず二人の手を払い除けた……しまった、ラファールさんは客だし、失礼だったかな。と、彼女の表情を伺うが気にしている様子はなかった。
「ホーネット、二人ともいい娘だな」
ラファールさんは後ろにいたホーネットさんに声をかける。
「そうでしょそうでしょ〜」
何だかとても嬉しそうなホーネットさん。そうして初めての"お客さん"は満足そうに帰っていった。
「ありがとうございました! またお越しくださいませ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
だが結局、それから数日してもお客さんは来る事はなかった。まさしく閑古鳥が鳴くという状態。
「……はぁっ!」
私は今、例の日本庭園にいた。暇を持て余した私はラプターさんから貰った"桜"で剣術の練習をしていた。
練習といっても剣術の知識なんてないから何となくでしかないけど。
「ふぅ……」
私は練習を止め、チラリと"桜"を見てみた。やはり不思議なものだ、刀身がこんなにも美しい桜色をしているなんて。きっとかなりの名匠により打たれた刀に違いない。
私はそばに自生していたスイカらしきものをチラリと見た。時期外れだなと思った。多分名前は違うんだろうけど見た目は確実にスイカであった。
「よいしょ……」
私はその実を茎から切り取り手に持つ、小ぶりながら詰まっている感じがした。それを真上に放り投げた。
「でゃっつ!!」
“桜”を振りかざす、スパン! と軽快な音とともにスイカは真っ二つになった。私はそれをさらに半分にし、スイカ汁でヌルヌルになった“桜”を綺麗に拭き、スイカの切り身にかぶりついた。
「うっま……」
めっちゃ美味かった、でもこんな事に“桜”を使っているのラプターさんに見られたらしばき回されるかな……名匠さんもごめんなさい。
「すぅ……すぅ……」
チラリと離れの縁側を見てみる、テルミナが気持ちよさそうに寝ていた。呑気なものだが、暇なんだし責める謂れもないだろう。
私は事前に調理場から持ってきていたお皿にスイカの切り身を一つのせ彼女のそばに置いておいた。あと虫が寄ってこないように網のカバーを被せておいた、これ倉庫にあって、綺麗にして保管していたやつだけど……なんて名前だっけ?
私はスイカを食べながら、庭園の端に行く。庭園には一部、塀が途切れ腰くらいまでの高さの柵になっている箇所がある。此処からは海都が見回せるちょっとした展望台みたいになっていて、とても眺めがいい。
「結構な好立地だよなぁここ……」
海都は坂にある都市だ。麓の部分に港や市場があり、そこから上がっていくように家屋などが建てられている。“海猫”は結構高い場所に位置しており、この街に来た時ラプターさんに連れてこられた例の展望台と同じくらい眺めがいい。
「部屋からも綺麗に街が見渡せるし……SNS映え間違いなしなんだけどなぁ」
あ、この世界にはそんなものないか。実にもったいない、SNSでこの絶景をアップすれば大絶賛間違いなしだろうに。
「……あの建物なんだろ?」
ふと私は後ろを振り返りここより高い位置にある立派な建物を見てみる。
「お城……?」
この街に来てからもずっと気になっていた、随分と格式高い建物に感じる。
「あれはホワイトリリィ女子魔法学園よ」
いつの間にかそばにいたホーネットさん、彼女の手にはスイカの切り身。音が全くしなかった……この人ほんと何者?
「えっと……魔法学園ですか?」
ホワイトリリィ……聞いたことがある、確か歴史の古い魔法学園、海都にあったのか。
ってか、学校なのにあんな立派な城みたいな建物って。きっと、とてつもなく優秀な学校なのだろう。
「私もあそこの卒業生なの、懐かしいわねぇ……」
学園を遠い目で眺めるホーネットさん。あそこはホーネットさんの母校であったのか。
「……ベルちゃん、魔法が使えるわよね? それも治癒魔法が」
「ああ、はい…………え?」
……って、え? ええええぇぇぇ!!! 気がつかれてたの!?
私は驚愕したけど、よくよく考えたらこの人とんでもない魔女だったっけ、なら気が付かれてもおかしくないか……
すると、ホーネットさんは私の肩にポンと手を置き、真面目な表情で私を見つめる。
「ベルちゃん、あなた……ここで働きながら、あそこの学園にも通いなさい」
「……え?」
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「こんなものかな……」
私は綺麗になった稲荷神社を見てそう呟く。実は“海猫”の敷地には小さな稲荷神社が存在していた。きっと遠い異国の地で心寂しくしていた大商人とやらがこの地に建てたものなんだろう。しかしながらここも放置気味であったため、旅館と共に修復を行なった場所でもある。
「さて、次は玄関先の掃除か……」
稲荷神社の掃除を終えた後私は玄関先に移動し箒で掃き掃除を始めた。
「学園か……」
私は玄関先を箒で掃きながらそう零した。ふと遠くに目をやる、ここからもあの学校は見える。
「私には縁の無いものだと思ってたけど……」
あの後、ホーネットさんは「いく気があるなら今度ある入学試験を受けてみなさい」と残しその場を去っていった。
正直私は自分が持つ治癒魔法というものについて、あまりいい印象を持っていなかった。こんな特別な魔法を持っているなんて知れ渡ったら、どんな目に合うのか分かったもんじゃない。
治癒魔法を使えるのは本当にごく一部の人達だけらしい、特別な力を持つ聖女さまとか、あとホーネットさんみたいに規格外の魔女とか……
ふと空を見上げる、すっかり日も落ちてきた。
「結局今日も誰も来なかったなぁ……折角料理のレパートリーを増やしたのに……」
というのも、この数日でいくつか新しい料理を作れるようになっていた。私もただ単に暇を持て余していたわけではないのだ。
「もし、そこの仔猫さん」
と、突然声をかけられた、私は声がした方向に向く。そこにいたのは綺麗な女の人であった。
「えっと……」
なんだか凄く神秘的な雰囲気が漂っている人だなぁ……と感じた。一体何者なんだろうか。
「女将さんはいらっしゃるかしら?」




