表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/91

11話 "海猫"オープン

 翌日、鳥のチュンチュンという可愛らしいさえずりで私は目を覚ました。


「すぅ……」


 隣にはテルミナ、実に心地良さそうな寝息を立てている。ってかこの娘、隣の布団にいたはずなのにいつの間にか私の布団に入ってきてるし……


 テルミナは私の住む離れで一緒に暮らす事になった。私だけの城は呆気なく崩壊してしまった。


 私は布団から出て立ち上がり、何の気無しに側に置いてあった姿見をちらりと見た。


 ……相変わらず不思議なものだ、獣人と言ってもその実、殆ど人間と変わらない。全身に獣のような毛が生えてるわけでもない。ただ人間と違うのは動物的な耳と尻尾があるだけ。


 私は自分の耳と尻尾をサワサワして確認、そしてチラリと、寝ているテルミナの長めなうさ耳を見る。


 これがあるだけなのに随分と差別的な扱いをされる、なんとも残酷な世界だ。


「はぁ……」


 私は落ち込んだ気分を変えようと、障子を開けて縁側に座り庭園を眺めた。ここも最初は随分と荒れ放題だったが私とホーネットさんの努力で何とか回復。


 ……ただ、日本庭園というよりなんだか色々な要素が混じったファンタジックな庭園になってしまった。


 なんか色々派手な色の花が生えてるし……あそこに転がってるのって、スイカ? 何故かスイカが自生していた。シュールな光景だ。



 今日から営業が始まる、切り替えていかなければ……! 私は立ち上がり部屋に入り、私の"戦闘服"を手に取った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「テルミナちゃん似合ってるわよ〜!」


 ホーネットさんが目を輝かせながらそう言った。私はテルミナを見る、彼女は何とも可愛らしい和服を着ていた、ピンク色の可愛らしい和服だ。実に似合ってる。


「うんうん似合ってる……で、私の分は?」


 私はホーネットさんに尋ねる。すると彼女は申し訳なさそうに。


「ごめんね〜ベルちゃんの分はないのよ……」


え?いやいやいや。


「じゃあ私は……ずっとこの給仕服のままですか!?」


 私は給仕服のスカートの裾を摘みながら抗議、するとテルミナが。


「その服もとても可愛くて似合ってますよお姉様! お姉様とお揃いでないのは心苦しいですが、この組み合わせも悪くありません!」


 そういう問題か、もういくら言っても仕方なさそうだし、諦めるか……


 結局、私のこの旅館での制服は"これ"に決まってしまった。



「それじゃ、一応最後に色々確認しておきましょうか」


 ホーネットさんは手元にあるメモを見ながらそう言った。ちなみにホーネットさんも立派な洋装の服だった。私を含めたこの三人の服装、なんというシュールな組み合わせであろうか。


「食材は仕入れてあります、旅館も綺麗にしました、浴場の準備も出来てます」


 私が必要な事を思い出して、ホーネットさんに告げる。


 ちなみにここの浴場、ちゃんとした温泉だった。地下からお湯を汲み上げるやつ、この設備もホーネットさんが魔法で修復した。


 つまりここは立派な温泉旅館というわけだ。


「一応準備はできてるわね、それじゃ頑張っていきましょう二人とも!」


 そうして"海猫"はオープンしたのであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「客が……来ない!」


 私はフロントの受付に項垂れていた。


「暇ですね〜」


 テルミナは隣で椅子に座り足をパタパタさせながらそう呟く。


「まさか宣伝も何もしてないとは……」


 そう、何とラプターさん。ここが開業するという事を何処にも宣伝してなかった。そりゃ来ないわな……


 と、その時。ガラリと入り口の扉が開く。


「あ、いらっしゃいませ!」


「ああ、来てやったぞ」


 入ってきたのは聖騎士のラファールさんだった。


「ラプターからここが今日オープンと聞いてな……どうせ客なんざ来ないだろうから、と、あいつに練習台を頼まれた」


 練習台、たしかに接客の練習は大事だ。ってかラプターさん、客来ない前提だったのか……


「すみませんわざわざ……ご迷惑をおかけします」


 私はラファールさんに感謝と手間をかけさせるお詫びをした。


「いや構わないよ、私も大和風の宿とやらが気になってたからな」


 私はラファールさんのそばに行く。


「手荷物をお預かりします……ていうかラファールさん今日もその服なんですか? 鎧とか着ないんですか?」


 彼女は格式高そうで、豪華な制服を着ていた。これは帝国聖騎士連合の制服であろうか。


「おいおい、聖騎士が常に鎧を身に纏っていると思ったら大間違いだぞ?」


 まあ確かに……四六時中鎧を付けていたら生活が大変だ。


「おや、そちらの()は? 初めて見るが……」


 彼女はそばにいたテルミナに反応する、そう言えば初対面であったか。


「はい! 私は兎族のテルミナートル! お姉様と一緒にこちらで働かせてもらうことになりました!」


 元気よく自己紹介するテルミナ、私は彼女に二階の客室に行き準備をするように伝えると彼女はパタパタと二階に上がっていった。


「えっと……じゃあまずこの"海猫"のご案内から」


「ああ、頼む」



 その後、私はラファールさんに"海猫"の案内をした、浴場や宴会場、庭園など。特に石造りの大和風な浴場は珍しかったようで興味深そうにしていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「こちらが客室“牡丹”となります」


 私とラファールさんは二階の客室前にいた、ちなみにこの牡丹という名前。私が付けた、何というか旅館の部屋って花の名前からとっているようなイメージだったので二階三階の部屋の名前は全てそれに倣っている。


 ガラリと襖を開ける、だが部屋の中には……


「すう……すう……」


 テルミナが布団の上で気持ちよさそうに寝ていた!



「テルミナー!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ