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10話 準備は完了!

「ふぅ……」


 パタリ、と客室の襖を閉める。彼女はあの後、定食のお代わりを要求。たらふく食べたあと眠ってしまった。実にわかりやすい娘だ。


「……」


 ペロンと自分の服を捲る。私の下腹部には綺麗な緑色を放つ派手な紋様が浮かび上がっていた。先程の治癒魔法を使用した時の粒子と全く同じ色の紋様……



 私が治癒魔法を使えるようになったのは、母が亡くなってしばらくの事だった。


 家を整理していたら、貧しい私の家にはそぐわない高そうな本を見つけた。大陸共通言語で書かれたその本、読み書きは母から教わっていたので暇潰しに読んでみたんだけど……

 

 そこには失われた治癒魔法についての記述が存在した。魔術書なんて初めて見たからワクワクした、それで見様見真似で書かれている事を真似したら……



 だけど、そもそも、この世界において、魔法というものは簡単に扱える様になるものではない。素質を持つ者が、努力を重ねて一人前の魔法使いになれる。そう言った世界だ。


 海都にもそういった素質を持つ者を集め魔法使いを育てる学校があるらしい。


 素質を持つもの……ホーネットさんの様な人物だろう。あの人は規格外の魔法を何度も披露して、旅館の修復をあっという間に終わらせた。


 その上消失魔術(ロストテクノロジー)であるはずの治癒魔法まで使ってみせた。


 身体を確認、海都に連れてかれる途中で受けた傷や、先日チンピラに絡まれた時のアザは粗方ホーネットさんが治してくれた。


 私が治癒魔法を使えるようになったのは今でも謎だ、何で失われた魔法を……私ってもしかして才能ある?



 私は再び紋様に目を向ける、紋様は徐々に光を失い、やがて消えていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「私の名前はテルミナートル・スノーラビット!! サウスロスト地方出身です!!」


 彼女は元気よく挨拶する。サウスロスト地方……聞いたことがある、たしか私が住んでいたノースガリアと同じ大陸に存在する地方だったような気がする……


「おい待て……今スノーラビットって言ったか?」


 ラプターさんが彼女の苗字に反応する。そうしてなにやらホーネットさんとコソコソ話をし始めた。なにか心当たりがある名前なのだろうか。


「えっと……テルミナートルは……」


 結局何で行き倒れていたのか聞こうとしたが。


「私のことはテルミナとお呼びくださいお姉様! 親しい者は皆そう呼びます!」


 と、うさ耳をぴょこぴょこしながらそう言う彼女。


「……テルミナちゃん、随分とベルちゃんと仲良くなったみたいねぇ」


 ホーネットさんが私達を見ながら微笑ましそうにそう言った。


「私とお姉様は運命共同体なんです!」


 テルミナは私に引っ付きながら嬉しそうにニコニコする。どうやら随分とテルミナには好かれてしまったようだ。


「はぁ……で、結局何で生き倒れていたの?」


 私はテルミナに聞いてみた、すると彼女は「うーん……」と唸りながら首を傾げた。


「……正直あんまり覚えてないというか、住むところを失い彷徨い歩き続けてたらあそこに倒れてました」


 何とアバウトな。


「お前の名字、聞き覚えがある……お前まさか"あの"スノーラビット家の者か?」


 "あの"?何か含みを持った言い方だが、有名な家なのだろうか。


「……あ、はい、一応そうなりますね」


 頷くテルミナ。私はラプターさんに「スノーラビット家って?」と聞いてみた。


「サウスロストにはかつて兎族の王国が存在した、帝国に併合され今は存在しないがな」


 説明を始めるラプターさん、曰くスノーラビット家はサウスロストの王家だったらしい……って事は、テルミナは亡国のお姫様って事!?


 私はテルミナをチラリと見てみる。私よりも小柄な身体……私は彼女の綺麗な水色の髪を撫でてみる。長めの髪を左右のシニヨンで纏めた可愛らしい髪型だ。


「あっ……お姉様ぁ……♡」


 ……どう考えてもそうは見えない。


「うーん……色々と気になる点が多すぎるが……その、身内の者は……」


「母と暮らしていましたがその母も病で亡くなり……」


 天涯孤独、なのか……私と同じだ、私はたまらずテルを抱きしめた。


「あっ……お姉様大胆♡」


 ……同情した私が馬鹿だった。


 すると珍しく先程から大人しくしていたホーネットさんが口を開いた。


「テルミナちゃんは、ベルちゃんと一緒にいたいのよね? なら海猫にいてベルちゃんと一緒に仲居さんをすればいいんじゃない」


 優しげな目で私たち二人を見るホーネットさん。テルミナは「はい!」と元気よく返事をした。いや、即答していいのかテルミナよ……



 そうして、海猫に2人目の仲居が誕生したのであった……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「これで、海猫には三人の従業員が揃った、旅館も綺麗になって提供する料理も完成した!」


 ラプターさんは誇らしげに叫ぶ、いや貴女なにもしてないでしょ、何でそんな胸張ってるんですか。


 ちなみにラプターさん、先程まで完成した料理を食べられなかったとかで、凄くキレちらかしてた、宥めるのにすごく大変だった……


「開業の準備は整ったわけね」


 ホーネットさんが落ち着いた様子でそう言った。


 そうだ……もうやるべき事は全て済ませた、じゃあついに営業が始まるのか。と、私はワクワクしたような、緊張したような気分になる。


「仲居さんってなんですかぁ?」


 テルミナの質問、私は軽く説明をしてあげた。するとテルミナは、「お姉様と一緒に働けるなんて感激です!!」と、ウキウキした様子でそう言った。


「じゃあ頑張れよ、女将!」


 と、ラプターさんがホーネットさんの肩をポンと叩きそう言った。


「はぁ……気が重いわね」


 ため息をつき、弱音を吐くホーネットさん。


「オカミって何ですか?」


 テルミナが尋ねる。私は簡単に「経営者の事だよ」と教えてあげた。いや、私も自信ないけど多分そうだと思う。


 というか分かってはいたけどラプターさん、ここの経営を担当するつもりはないのか……


「そして仲居二人!、ベルは兼料理人! この旅館も形になってきたな!」


 アンタも何か手伝えよ……と言葉が口から出かかったけど無理矢理押し込んだ。




「じゃあ早速……明日から開業だ!!」

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