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日記3


 わたしはメイノエ・フェアマティ。魔法学校の生徒で、三年の修了試験を控えています。

 (フィルラムちゃんが、思い付いたことを書く、って決まりにしようっていったので、そうします。それから、自己紹介も書くようにって。)




 わたしは、ラツガイッシュから、海を越えて西北にある、オークメイビッドという国から、この魔法学校までやってきました。


 フィルラムちゃんも、おうちのことを書いているし、わたしも書きます。わたしは、オークメイビッドの王家の娘、所謂、王女です。


 王女と聴いたら、どんな見た目を想像しますか?

 わたしは多分、そのどれよりも、不美人です。いつもおどおどしていて、ひととお喋りするのも苦手だし、すぐに顔が赤くなってしまって、オークメイビッドでもここでも、式典に出るのは可能な限り避けています。

 わたしみたいな、王女らしくない王女が居ると解ったら、オークメイビッドの価値が下がってしまいます。ただでさえ、戦をしない変な国だと思われているのに。戦をしないのは、いいことだと思うのですけれど。


 それに、今、わたしは、お父さまやお母さまからお金をもらわずに、ひとりで生きています。侍女もつれておらず、王家に相応しい格好もできません。

 だから、王女であることは、秘密です。オークメイビッドが、王女にそれらしい格好をさせることもできない貧しい国だ、と思われるのもいやだし、王女にお金もあげないで、冷たい、と、お父さま達が思われたら、もっといやですもの。


 王女だというのは秘密にする、という約束で、わたしは入学しました。でも、学校のひとがなにか間違って、同じ学年の一部の生徒にはそれが伝わってしまって

 あの。結構、いやなことなので、くわしくは書きません。でも、それから、わたしはずっと、ただのメイノエ・フェアマティです。ラツガイッシュのひとは、オークメイビッドの王家の名字なんて、普通知らないんです。




            なんだかいやな気持ち




 わたしは錬金術が好きです。お城の図書室で、錬金術の本を見付けて、夢中になりました。

 それまでは、魔法力があっても、治癒にしかつかえなくて、お父さま達を失望させるだけでいやだったけれど、魔法力があって嬉しくなりました。魔法学校にはいる条件に、魔法力があること、というのが、あるから。


 ええと、正確には、一定以上の魔法力を持つこと、です。人間はみんな、魔法力を内在しています。でないと、その魔法力に干渉して、病気や怪我を治すことができません。

 言葉は、正確を期さないと、だめです。


 わたしはすぐに、〈口伝て鳥〉で、魔法学校へ入学できないかを問い合わせました。

 それから、書庫と図書室中の錬金術の本を掻き集めて、読みました。読めば読む程、楽しいだけでなく、困っているひとを、特に魔法を気軽につかえないひと達を助けることができる技術だと思って、ますます錬金術が好きになりました。

 オークメイビッドは、無駄な戦をしないので、民が無用に命を落とす原因のほとんどは、魔物に襲われることと、病です。錬金術があれば、病による不意の死を、減らすことができる。そう思って、わたしはあの時有頂天でした。


 〈口伝て鳥〉を通じて、魔法学校が返事をくれたのは、三日後です。わたしの魔法力なら資格はあるけれど、口頭で試験を受けてもらうとのことでした。わたしは試験をうけ、通りました。


 大変なのは、お兄さまの説得でした。

 お兄さまは、わたしをはやく嫁がせたがっています。お気持ちは解ります。わたしとお兄さまは、王家に列なる者ですが、同じ両親から生まれたきょうだいではありません。義理の妹をお城にずっととどめておくと、お兄さまの不名誉になるでしょう。

 それに、錬金術というよく解らない技術の勉強で、王女を国外へ遣る、というのも、王家にとってははずかしいことだったのだと思います。なにより、お兄さまがわたしを追い出すみたいです。

 お兄さまの評判を落とすつもりではなかったのですけれど、結果的にそういうふうになってしまいました。だからわたしは、勉強して、錬金術をきちんと身につけて、オークメイビッドへ戻りたいのです。お兄さまの意地悪なんかじゃなかったと、みんなを納得させる為に。




 わたしの、死んでしまったお父さまは、先代のオークメイビッド王です。

 今のお父さまは、死んでしまったお父さまの、お父さまの、いとこの、子どもです。オークメイビッド王家は、王さまでも魔物退治にでかけるので、こんなふうに離れたところのひとが王位を継ぐことは、多くあります。

 わたしとお兄さまは、少ししか血がつながっていないけれど、お兄さまは優しいです。魔法学校も、危ないかもしれないと、心配してくれました。

 でも、オークメイビッドの民も、オークメイビッドと交流がある国のひと達も、お兄さまやお父さま達がわたしに優しいとは、知りません。

 特に、国外から見れば、変則的な王位の移動は、陰謀めいたものを感じるようです。そういうひとのなかでは、わたしは父母を殺され、親戚に王位を奪われた、悲劇の王女なのです。


 嘘ばかりがまかりとおっています。

 その嘘を信じていないひとは、わがままな王女が国外で遊びたいが為に魔法学校へ入学した、という嘘を信じています。

 でもいいかえせません。

 わたしは弱虫だから。




 試験に通ったら、上級課程へ進めます。

 お兄さまとは、〈口伝て鳥〉でお話ししました。わたしは、優しいお兄さまとでも、お話しするのは苦手で、泣いてしまったけれど、要望は伝えました。

 試験に通ったら、上級課程へ進みたい。試験がだめだったら、大人しくオークメイビッドへ帰る。

 わたしは、約束したつもりです。




 19:5:12

  ハーゼ苔の攪拌に時間をかけること、遠心分離機の掃除を怠らないこと






 試験がフィルラムちゃんと一緒で、よかった。

 今、馬車のなかです。グルバーツェでは、辻馬車が沢山あって、いろんなところへ運んでくれます。寝かせていたお酒を、灯籠亭という酒場へ持っていくところです。

 酒場といっても、いかがわしいところではないの。ご亭主も、奥さまも、きちんとしたかたです。お酒も、値切らずに買ってくれます。

 フィルラムちゃんとは、この後市場で合流します。


 後でフィルラムちゃんへ、直にいうだろうけれど、書いておきます。

 フィルラムちゃん、同じ試験で、嬉しい。エイフダーマ村のひと達の為に、頑張ろうね。わたしの治癒魔法と、フィルラムちゃんの魔物退治、それに錬金術があれば、きっと役に立てる。




 今日はここまで。お酒は無事に納品しました。〈無限の鞄〉の調整も完了。わたしとフィルラムちゃんの魔法力をしっかりなじませておいたので、わたし達以外はつかえません。




 これを読んでいるあなたへ。興味があるかもしれないから、書いておきますね。フィルラムちゃんはとっても可愛いです。それに勇敢で、魔物退治もお手のもの。こういうひとが王女だったらいいなって思うようなひとです。


 知りたい心は充たされた?


 おやすみなさい。


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