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エベレイン買い物へ行く


 エベレインは寮舎の自室に居た。

 寝台の上で膝を抱え、耳を塞いでいる。なにも聴きたくない気分だった。

 〈口伝て鳥〉は、兄の代理の冢宰の言葉を伝えてきた。トナンラック王家はエベレインの行動を「知らなかった」ので、責任はない。援助はもうしないし、卒業しようとしまいと戻ってこなくていい、と。

 エベレインは家に見捨てられたのだ。


 エベレインはけれど、涙を流すことはなかった。どうせそんなことだろうと、心の片隅ではずっと解っていたのだ。

 トナンラック王家は、女性の立場が低い。王位を継ぐことは法典によってできないと定められ、あたらしい王の即位式以外の式典にも出席はできない。王位に近い王家の人間との接触にも制限があり、結婚後は王宮へ自由に出入りする権利さえ失う。その結婚さえ、自由にはできない。

 わたくしは恵まれていた、と、エベレインは思う。それだけ女性にとっては不自由な環境であるトナンラック王家だが、エベレインは錬金術の才を見せ、王女のなかでは破格の待遇をうけてきたのだ。

 ラツガイッシュにある魔法学校へはいり、ラツガイッシュのお偉方と縁を結ぶ為の駒にできそうだから、という理由でも、ほかの王女達がうけられない〈怒りの間〉での授業を、エベレインだけは外で聴くことをゆるされた。授業を盗みぎきする為に深緑の庭へ行けるのが、どれだけ嬉しかったろう。

 大貴族出身の気の弱い母が、エベレインの特別待遇の所為でほかの王夫人達から仲間外れにされていると知っても、エベレインは授業をこっそり聴く為に深緑の庭へ通い続けた。母が自分を誇りに思ってくれていると、そう考えていたからだ。母が病の治癒の為に実家へ戻っても、エベレインはひとりで勉強を続けた。母に誇らしく思ってほしい一心で。


 それが狂ったのは、意気揚々と魔法学校へ入学してからだ。

 同時に入学した侍女ふたりに、トナンラックの貴族令嬢達と、エベレインには味方が沢山居た。本格的に魔法や錬金術について研究し、優秀な成績を修めて母国へ戻り、父や兄の力になるのだと、エベレインは希望に胸ふくらませ、鼻息が荒かった。

 まず、出鼻をくじかれた。新入生のなかでも、試験で一番の成績だった者が、入学に際して演説を行うのが、魔法学校の伝統だ。エベレインは、おそらく男子生徒には負けるだろうから自分はそれをできない、と思っていた。

 実際のところ、エベレインは女子生徒に負けていた。メイノエ・フェアマティ、という、人参色の髪でそばかすだらけの、痩せて不器量な少女が、試験で二位と三位の生徒の点数を合わせても勝てない点数を叩き出していたのだ。

 エベレインは狼狽えたものの、きっと明瞭で素晴らしい演説をしてくれるに違いないと思っていた。それなのに、メイノエはおどおどと、小さくて高い声で、短い演説をした。エベレインは拍子抜けした。あれに負けたの? このわたくしが?


 エベレインはその晩、打ちのめされた。

 〈口伝て鳥〉で、兄から命ぜられたのだ。メイノエ・フェアマティを攻撃しろ、と。オークメイビッド王家のただひとりの王女、今までまともに式典にも出てこなかった、先代王のひとり娘。王宮で密かに大切に育まれた、フェアマティ家の宝。

 エベレインは、今まで感じたことのない感情を覚えていた。

 兄は淡々と、命じたとおりにしないなら援助を打ち切るし、今まで王家の金で与えたものはすべて返してもらうとエベレインを脅した。援助には、実家の母へのものも含まれている。エベレインは承諾した。


 侍女達も、それぞれの父から、様々のことを命ぜられていた。ある者はエベレインの美談を街中で振りまいたし、またある者はメイノエの悪行を噂した。そのどちらもが嘘だ。

 エベレインは、なにも悪気のないふうをして、授業の最中にメイノエがオークメイビッド王家の人間だといった。王女同士なかよくいたしましょう、と。

 オークメイビッドは、ラツガイッシュでは嫌われている。案の定、優秀な成績と完璧としかいいようのない調剤で、生徒達からも尊敬されていたメイノエは、その瞬間から孤立した。

 いや、ひとり、オークメイビッド人だろうと関係なく、メイノエと付き合い続けた者が居る。忌々しいフィルラム・トロエラだ。


 エベレインの母は音楽の才に優れ、少女の頃にはトナンラック一の〈氷箏〉の弾き手だと名高かった。それがきっかけで王宮へあがり、父の手がついたのだ。

 だが、エベレインには音楽に関する才は、まったくない。母のおなかのなかにいる頃から、その演奏を聴いていたのに、どんな楽器でも酷い音しか奏でられず、歌えば驚いた鳥が木から落ちて羽を折るありさまだ。

 だが母は、エベレインにはお父さまが付けてくださった素晴らしい名前と、錬金術や魔法に関する輝かしい才があるのだから、それでいいと慰めてくれた。

 フィルラムにはどちらもがあった。錬金術や魔法に関する才も、音楽、特に歌の才も。


 エベレインは、手をおろす。誰かが自分のことを噂しているのが聴こえた。「エベレインったら、またみっともない歌で満足そうにしてる」

「あんなのを毎日聴かせれてたら耳が腐れちまうぜ」

「部屋から出てこなくなって丁度よかったわ」

 女子寮でどうして男子生徒の声が聴こえてきたのか、それを考える余裕はエベレインにはない。

 エベレインは無理矢理笑みをつくった。じわっとにじんできた涙を乱暴に拭う。泣くものですか。絶対に。あのふたりが居なくなったからって、わたくしには関係ない。


 でも、まわりはそう考えてはくれない。

 〈手紙の本〉の記録が絶え、捜索隊が派遣された段で、エベレイン達魔法学校の生徒にも、フィルラムとメイノエが失踪したことが報された。その日、その瞬間から、エベレインは同期生達に避けられている。侍女達でさえも、朝の支度と湯浴みの時以外は、部屋に近寄ってもこない。

 エベレインは不意に、笑いがこみあげるのを感じた。「わたくしに、なにができるというの……」

 エベレインはこの三年で、いやという程メイノエの錬金術の腕を見てきたし、フィルラムが年に四回は魔物戦に参加して戦っていることも知っている。メイノエに、もしかしたらフィルラムにも錬金術の腕で劣り、戦いなんてやったことのないわたくしが、いったいどうやったらあのふたりに害をなせるというのだろう。

 エベレインはいらだちのまま、寝台を殴った。


 三年間、エベレインはあのふたりに勝てたことがない。

 フィルラムには、音楽の才で負けている。実践的な魔法でも、そうだ。

 メイノエの調剤にかなう生徒は居ないし、上級課程の生徒がメイノエを引き合いに出されて説教されたと聴いた。一年で三大秘薬をすべてつくっている生徒が居るのに、上級課程へ進んでいるくせに情けない、と。

 メイノエはなんだって、器用に、そしてすばやくつくりだす。腹のたつことに。

 エベレインだって、〈魔法茶〉を生み出したのだ。

 それは、三回目の調剤実習での、イスキア先生の言葉がきっかけだった。その日の授業は、用意された材料や持ち寄った材料をつかって、自由に調剤をしてもよかった。

 その時先生が、三大秘薬のひとつ、妖精の呪い以外のすべての呪いと毒を解くという秘薬エグナラーシュについて、その成り立ちを説明した。ある錬金術士が、親友の母を毒から救う為に、七日かけてつくりあげたものだ、と。そういう思い遣りや、他人をおもんぱかる気持ちが、素晴らしい薬をつくりだすこともあるのだ、と。

 母、と聴いてエベレインは、数年前に王宮を去ってから手紙でしかやりとりをしていない母を、まぶたの裏に思い描いた。


 母は最後に見た時、とても痩せていた。食が細って、とうきび粉を四倍量の水で練って煮たものしか、口にできなくなっていたのだ。

 そういう、食が細った者、或いは固形物をのみこむことが難しい老人、母を亡くした乳飲み子などが、安く気軽に飲めて、滋養になるもの。そういうものをつくりたい。エベレインはそう思った。

 だから、普段捨てられてしまう、ユーシグの枝の芯や、スェフの皮と根、エフレク草のかたいところなどを、刻んで一度さっとゆがき、魔法で乾燥させてすり潰し、厚手の鍋で茶色くなるまで煎って、お湯で練って食べてみた。焦げ臭いし味はよくないしざらざらするが、飲み込む時に抵抗はない。これはいけそうだとエベレインは思った。

 そこで、安価で庶民でも沢山手にいれられるヴォルケ糖と、フロッセの蜜を加えて、なお煎ると、色が濃くなるにつれて甘くていい香りがしてきた。それを湯で練って飲むと、焦げ臭さが香ばしさに感じられ、味も格段によくなっていた。

 エベレインは嬉しくなって、先生にできあがったものを持っていった。先生は試してみて、エベレインを誉めてくれた。そんなことは初めてだったから、エベレインは有頂天だった。

 名前をつけるようにいわれ、普段捨てるようなものや、誰でも手にはいる材料からできているのに、不思議とおいしく、飲むと元気が出るから、〈魔法茶〉と名付けた。〈魔法茶〉のつくりかたは魔法学校へ奉じた。

 それで、多くのひとが〈魔法茶〉のつくりかたを知ることになるし、魔法学校は〈魔法茶〉を売って儲けるだろう。そして、「エベレイン・トナンラック」の名前が〈魔法茶〉の発明者として、学校の記録に残るのだ。なによりもそれが嬉しくて、エベレインは利益だのなんだのは考えていなかった。それに、〈魔法茶〉を学校が売れば、母のように痩せ衰えて、死ぬかもしれない状態になるような、不幸な女性が減る。

 エベレインは嬉しかった。次の日までは。

 翌日、朝はやくから学校は大騒ぎだった。この二百五十二年、誰も作製に成功していない秘薬エグナラーシュを、メイノエが完璧に再現したからだ。


 いや、完璧の上だった。エグナラーシュはその効き目はもとより、高価で手にいれにくい材料と、尋常ではないまだるこしさの調剤手順、そして精製にかかる日数でも有名なのだ。

 メイノエはそれを、さほど高価でないか、少々の苦労ですむ材料にかえ、手順を幾つか省き、調剤器具を自作して精製期間を短くした。

 メイノエは不世出の天才だったのだ。

 ひろく世間に行き渡るであろう秘薬エグナラーシュをつくりだしたメイノエを前に、誰も〈魔法茶〉のことなど気にかけない。エベレインの功績は一瞬で彼方へ消え去り、メイノエはその翌年の年始の式典に出席するよう先生達から説得されていた。


 そのメイノエに、わたくしがどうやって害をなすというの? お粗末なランツェの水薬?

 あの子は〈上級毒予防薬〉だって平然と調剤して、幾らでも持っている。それを()んでおけばなんの心配もないでしょう。〈上級毒予防薬〉で完全に予防できなくても、エグナラーシュがあるのだから。

「エベレインは汚いからな」

「どんな手をつかうか解らないよ、こわいこわい」

 エベレインは寝台から転げるように降りて、廊下側の扉を乱暴に開けた。

 廊下の様子を見るが、なにもない。誰も居ない。「にげあしのはやい……」

 エベレインは歯嚙みする。このところ、誰かが常に自分の噂をしているのだ。メイノエとフィルラムを行方不明にさせた、害をなした、と。そんなことはしていないし、できる筈もないのに。

 エベレインは、テーブルの上に放り出していた制服のマントをとって、羽織った。帽子はどこへやったろう?

 そうだわ。叩きつけてしまって、拾ってもいない。

 エベレインは、メイノエの兄との邂逅を思い出した。作りもののように綺麗な顔の、おそろしいひとだった。

 帽子をとりに行く必要はもう、ないだろう。二・三日すれば、自分はここを追い出される。生徒だけでなく教師も自分を疑っているから、きっと捕まる。

 エベレインはふらふらと、廊下へ出た。声が聴こえてくる。「衛兵隊を呼んだほうがいいんじゃないか」

「こいつ逃げるつもりだぜ」


 エベレインは栽培棟へ向かっていた。本来、試験で、ハーゼ苔を栽培しなければならないのだ。なにをやっているのだろう?

 母への援助も打ち切られる。その為にどんなことだってしたというのに。

 エベレインは栽培棟の扉を開けて、後悔した。振り向いた数名が、いやな顔をしたからだ。エベレインが挨拶をしようと息を吸いこむと、全員が顔を背けた。

 エベレインは顔を伏せ、自分に割り当てられた区画まで行った。こそこそとささやく声がする。「どの面下げて……」

「はずかしくないのかしら」

「聴こえたら俺達も消されちまうよ」

 エベレインは、すっかり黄色くなってしまったハーゼ苔に、水と申し訳程度の堆肥を与え、栽培棟から逃げ出した。自分を責める声が追いかけてくる。「逃げた」「あいつ図々しいんだよ」「前から嫌いだったのよね」「不細工で汚い色の髪」「贅沢好き」「市場でエベレインが買いものしてるところ見た?」「似合いもしないドレスを買ってた」「着れないくせに」


 わたくしだって頑張ったの。

 エベレインは門をぬけ、グルバーツェの街のなかをさまよっていた。耳を塞いでも声がする。エベレインを責める声だ。

「また市場でお買いものか? いいご身分だな?」

 違う。あれも殿下から命ぜられた。トナンラック王家は気前がいい羽振りがいいと、グルバーツェの人間から好かれるようにと。わたくしはあんなもの興味はない。似合わないのだって知ってる。

「メイノエを殺したかったんだろう」

 それはそうかもしれないけれど、そう思うのとやるのは違う。わたくしだって頑張っているのに、メイノエはわたくしが賞賛される機会を奪ったのよ。恨んでなにが悪いの。

「フィルラムに嫉妬していたくせに」

 そうよ、だって、あの子には歌の才が、わたくしにはないものがある、わたくしはお母さまから誉めてもらいたかった、一度でいいから。

「あ」

 耳を塞いで顔を伏せて、追ってくる声から逃げていたエベレインは、細い路地から出てきた馬車に気付かなかった。


 馬車はエベレインをはねず、すぐに停まった。停車する予定だったようで、無理な停まりかたでもなく、馬は落ち着いている。「大丈夫か、お嬢さん」

 御者がふたり飛び降りた。エベレインは驚いて、その場に座りこんでしまっていた。

 御者は、三十手前の、やつれた男と、二十歳そこそこの、目の大きい、子どもじみた顔の男だった。やつれたほうがエベレインへ手を伸ばしてくるが、エベレインは呆然としているだけだ。

 やつれた御者は、心配そうにして、エベレインの腕をとって無理矢理立たせる。

「悪い、脅かしたな」

 エベレインは俯いて、答えない。御者は困った顔で、エベレインを近くの店の前までつれていった。「おかみさん」

 御者が声をかけると、なかからむすっと不満そうな顔の女性が出てくる。

「おかみさん、悪いけどこの子、ちょっと見ててくれないか。はねそうになっちまって」

 いいながら、御者は半銀貨を2枚、おかみに握らせた。おかみはそれでも不機嫌そうなまま、けれどエベレインの腕をとり、店のなかへ引っ張り込む。

 エベレインは椅子に座らされた。どうやら、酒場らしい。昼日中だが、酒を吞んで談笑している冒険者達が居る。エベレインは耳を塞ぐ。まだあの声がする。

 テーブルに、〈魔法茶〉のはいったマグが置かれた。その皮肉に、エベレインは微笑む。


 おかみは治癒魔法をつかえ、エベレインにそれをかけてくれたが、特に変化はなかった。〈魔法茶〉を飲むようにいわれ、エベレインはマグを両手で持つ。

 ここのはフロッセの蜜が多い。甘すぎるわ。

 しばらくすると、御者がひとり戻ってきた。やつれたほうだ。エベレインが〈魔法茶〉をあまり飲んでいないので、心配そうに隣に座る。

「なあ、魔法学校の生徒さん、それを飲んだら魔法学校まで送ってやるよ」

 エベレインは答えない。ただ俯いている。

 御者は溜め息を吐いて、エベレインのせなかを軽く叩いた。

「悪かった。速度は落としてたが、こわい思いをしたろう。どうもこのところ、仕事に身がはいらねえで……しばらく休んだほうがいいかもな」

 〈魔法茶〉をすすり、エベレインは甘みを嚥み下す。


 御者は、ジャンドァルとなのった。エクレン商会という貸し馬車屋の人間だそうだ。荷運びをしている途中に、厄介なトナンラックの王女を跳ね殺しそうになった。

「俺は田舎から出てきたんだ。戦で生まれ故郷がむちゃくちゃになっちまって」

 聴きもしないのに、ジャンドァルは喋る。エベレインは自分を罵る声と、ジャンドァルとの声を、なんとかききわけている。

「まったく酷い話だよ。真夜中にカイザナーグから奇襲をかけられて、それっきりさ。母さんと弟を馬車にのせて、隣近所のじいさんばあさんものってもらってさ、俺と兄貴で必死で馬にむちうって、命からがら逃げてきて……まあ、その後いろんな村や街を転転としてから、グルバーツェに来た」

 ジャンドァルの声は少しうわずったような音程だが、落ち着いている。きっと伸びのいい歌声だわ、と、エベレインは思う。

「お嬢さん、よそのひとだろう」

 エベレインはジャンドァルを見る。かすかに頷いて、目を逸らした。ジャンドァルは安心したように頷く。

「国許を離れて、家族と会えずに勉学にはげむっていうのは、つらいこともあるよな。俺はばかだから解らねえけど、魔法学校は厳しいから退学も多いし、大変なんだって?」

 エベレインは応じない。たしかに大変なことも多くあったが、母の為であればそんなことなんでもなかった。

「俺も、家族が一緒じゃなかったら、こんな騒がしくて、ごろつきも多い街、いやだぜ」

 なら出ていけばいいのに。わたくしと違って自由なのだから。

「でも、治癒院はしっかりしてるし、その〈魔法茶〉みたいに、魔法学校の恩恵にもあずかれる。俺はさ、〈魔法茶〉をつくったっていう生徒さんには、本当に感謝してるんだ。伏せがちだった弟が、これで元気になって、今じゃ一緒に働いてる。さっき、居たろ」

 子どもっぽい顔の御者のことらしい。そういえば、面差しが似ている。

 エベレインは〈魔法茶〉をすする。冷えてしまうと、甘みは気にならなかった。

「だから、あんたも、沢山勉強して、役に立つものどんどんつくってくれよ。魔法学校に受かるくらい、賢いんだから」


 どこへ行こうとしていたのか訊かれ、エベレインは市場と答えた。嘘なのに、エベレインがまともに喋ったので、ジャンドァルは喜んだようだった。

 ジャンドァルは、エベレインを市場まで送るといってきた。エベレインは断る手立てを思い付かず、ジャンドァルに手をひかれて外へ出た。〈魔法茶〉は飲み干している。おかみは、おつりだと、四分銀貨を30枚程度ジャンドァルへ返していた。

 エベレインは、ジャンドァルにひっぱられて歩いていた。ジャンドァルはまったく、女性の扱いというものが解っておらず、エベレインが小走りになっていることに気付かない。「俺な、この間酷い失敗をしちまったんだ」

「……失敗?」

「ああ。とりかえしのつかないような失敗さ」

 ジャンドァルは黙りこむ。結局、どんな失敗なのかを話すことはない。

「だから、お嬢さんが困ってたり、沈んだ様子だったら、放っておけないんだ。二度と失敗をしたくないんだよ」

 このひとは、やりなおせるひとだわ、と、エベレインは思う。失敗を失敗と認め、自分を省み、行動を修正できる。わたくしはそれができない。

 エベレインはジャンドァルのうなじの辺りを見ながら、涙をこらえていた。


 市場は今日もにぎわっていて、エベレインは顔を伏せて歩いた、誰かが自分のことを噂している、その声が聴こえる。「まあ、図々しい子が来たよ」

「同じ志を持っている生徒を殺した王女だ」

「ひとごろし」

 エベレインはぼんやりと宙を見る。ジャンドァルがその手を強くひっぱった。

「お嬢さん?」

 エベレインはジャンドァルの顔に焦点を合わせた。「なあ、よっぽどこわい思いをさせたらしいな」

「……いいえ」

 か細い声が出た。エベレインは瞬く。目に溜まった涙が、幾らかこぼれ、ジャンドァルが動揺した。

「お嬢さん」

「あなたの所為では……ありませんわ。わたくし、今までひとに意地悪ばかりしてきたから、……悪口をいわれても、仕方のないことです」

「悪口?」

 エベレインはジャンドァルから目を逸らし、ヴォルケ糖の塊を売っている店を見る。ヴォルケ糖は、綿のような形状をしている。グルバーツェ近くの川をさかのぼり、王冠の森と呼ばれる森まで行けば、年柄年中幾らでもとれるものだ。魔物と戦う自信があれば、子どもでも採りに行ける。だから、値段はとても安い。


 ジャンドァルがエベレインのてをひっぱり、その辺の樽に座らせた。〈魔法茶〉の店だ。ジャンドァルは、木製のマグに二杯、〈魔法茶〉を買い、片方をエベレインへおしつける。

「なあ」

 ジャンドァルは座らず、エベレインの隣へ立っている。「どんな理由でも、俺は悪口ってのは嫌いだぜ」

「……わたくしに非がありますわ」

「だとしてもだ。裁くのは衛兵隊か、議会か、さもなきゃ神さまだ。あんたを嫌ってるんなら、悪口をいうんじゃなく、単に離れていればいい。だろう?」

 エベレインはジャンドァルを見上げる。

「わたくしがしたことを知らないからいえるのです」

「そうか? お嬢さん、こうやって自由にうろつけるんなら、捕まるようなまねはしてないってことだろう。そもそも、俺に裁く権利はない。俺以外にもな」

 エベレインは息を吸い、反論しようとしたが、やめた。

 しばらく黙って、〈魔法茶〉を飲む。ジャンドァルも〈魔法茶〉をすすって、満足そうに頷いた。

「なあ、俺だって、後悔してることはあるし、やりなおせるならやりなおしたい」

「……ええ」

「でも、それは無理だ。だから、これからは後悔しないようにする。それしかないんじゃないか」

 エベレインは目を伏せた。

 ジャンドァルはまったく関係ない人間なのに、エベレインはつい、こぼす。

「でも、とりかえしがつかなくて、……わたくしはもう、なにもかもおしまいなのです。母に報いることができなく……」

 咽が詰まった。ジャンドァルはエベレインと目を合わせようと、屈み込む。「お嬢さん? お母さんがどうかしたのか?」

「……わたくし、父と兄から捨てられましたの。役に立たなかったから」

 〈魔法茶〉をぐっと咽へ流し込む。「だから、母も、もう……お金がなくなるのです」

 ジャンドァルは怒ったようだった。エベレインがそう認識した時、衛兵隊が馬を走らせてやってきた。


「フィルラムちゃん達が戻ってきたよ!」

 衛兵隊が市場を走り抜け、それを追うようにやってきたぽっちゃりした女性が、そう喚いた。そのまま泣き崩れている。「兄さん達で見付けたんだって! よかった、よかったよお!」

「フィルラムちゃん生きてたのか!」

「ああよかった!」

 市場中が沸き立った。エベレインはぽかんと口を開けて、その騒ぎを見ている。フィルラム達が……生きていた。戻ってきた。

 ジャンドァルが飛び跳ねた。木製のマグが落ち、ぱんと音を立ててばらばらになる。

 ジャンドァルはとても喜んでいるらしい。エベレインを抱え上げ、楽しそうにまわる。

「やった! あのふたりなら見付け出すと思ってたんだ!」

「ジャンドァルさま?」

 ジャンドァルはエベレインをぎゅっと抱きしめる。エベレインの手からもマグが落ちたが、今度は無事だった。

 ジャンドァルはエベレインを抱えたまま、走り出す。どうやら、魔法学校へ向かっているらしい。


 エベレインはジャンドァルの首に腕をまわし、振り落とされたいようにしがみついていた。ジャンドァルは表情がまったく変わってしまっている。やつれた印象はもうなくて、ひたすらに嬉しそうだった。

 市場から魔法学校までは遠くない。ジャンドァルは息も切らさずに魔法学校の門の前まで至り、そこに集まった、少々くたびれた格好の子どもや老人達のなかに加わった。

 教会で世話されているひと達だわ、とエベレインは気付く。年に三回、エベレインは教会へ寄付に行っている。母がそういったことを好むから、その真似だ。母の真似だなんて、幼子のようではずかしく、侍女達にはないしょにしている。

 エベレインが目を白黒させていると、歓声が聴こえてきた。それは段々と、近付いてくる。「フィルラムちゃん!」

「メイノエ嬢!」

 エベレインは目を瞠る。葦毛の馬と鹿毛の馬がゆっくり歩いてきていて、それぞれにフィルラムとメイノエが横座りしている。

 フィルラムを抱えるようにして馬にまたがっているのは、メイノエの美しい兄だ。右目に黒い布の覆いを掛けている。怪我をしたのだろう。魔物と戦ったのかもしれない。

 遠慮がちにメイノエを支えているのは、フィルラムの弟だ。顔が赤くなっている。この前見た時とは、見違えるほどしっかりした顔付きになっていた。

 フィルラムとメイノエはといえば、特に変化はないようだった。メイノエの髪が短くなっているが、おそらく薬をつくるのにつかったのだろう。兄が怪我をしたのを、そうやって救ったのではないかしらと、エベレインは思う。自分だったら、兄が怪我をしても、喜んで助けるだろうか?

「フィルラム嬢、メイノエ嬢!」

 ジャンドァルが叫んだ。エベレインはぼんやりしている。あの声は小さくなっているが、まだ聴こえていた。

 馬上の四人がこちらを見、そのうちふたりがきょとんとした。


「エベレイン!」

 メイノエが今まで聴いたことのないような大きな声を出し、ぱっと馬を飛び降りる。フィルラムの弟もそうした。近くに居た人間に手綱を任せている。

 ふたりは揃って走ってくると、メイノエが泣きそうな顔でエベレインの手をとった。「ごめんね、エベレイン」

 エベレインは口をあんぐりと開ける。どうしてこの子が謝っているの?

 フィルラムの弟は、なにかを手で払うような仕種をした。「なんだ、こいつら」

「妖精さんです。ティノーヴァさんにも見えるんですね」

「あ? 妖精?」

 フィルラムの弟はいやそうな顔をして、両手をエベレインのまわりでぱたぱたさせる。メイノエが強い調子でいった。

「エベレインから離れてください。ねえ、エベレイン、わたしは無事だしフィルラムちゃんもなんともないわ。あなたの所為でもないの」

「め……メイノエ。なにをいってるの……」

 エベレインは浅く、息をする。メイノエがなにかいい、ジャンドァルが頷く。フィルラムの弟は、羽虫を手で追い払おうとするみたいな動きを繰り返している。「あっち行け」

「メイノエ」

 エベレインは震える声を出した。フィルラムと、メイノエの兄も、下馬してこちらへやってくる。エベレインはフィルラムを見る。自分にない、豊かな歌の才と、明るさを持っている少女を。

 メイノエを見た。錬金術の不世出の天才を。

「あの……ご、ごめんなさい、わたくし……あなた達に意地悪ばかりしてきたわ……」

 メイノエとフィルラムが頷いた。「もういいの」

「そうだよ。エベレインの話は、アーヴ達から聴いたから」

 その時、エベレインはたしかに、小さな叫び声を聴いた。




 エベレインは緊張と亢奮とで歩けず、ジャンドァルが特別に魔法学校の寮舎へはいることをゆるされた。ジャンドァルは、フィルラム達がおいはぎに襲われた時に、御者をしていたらしい。ふたりにしきりに謝り、ゆるされていた。

 エベレインの部屋まで、五人は来た。エベレインは寝台に横になっても、胸がどきどきするし、気分が悪く、少しだけ吐いた。

 メイノエの薬を()み、フィルラムにせなかを撫でてもらうと、多少落ち着いた。エベレインはたまらず、ぐすぐすと鼻を鳴らして泣く。

「わたくし……あなた達が死んでしまっているのではないかって……」

「ぴんぴんしてるから、泣かないでよ」

「ごめんね、エベレイン」

 また、メイノエは謝る。訳が解らなくて、エベレインは叫ぶようにいう。

「どうして謝るの? それはわたくしがやるべきことだわ! だって、あなたたちにいやなことばかり」

「でも、反省してるでしょう?」

 メイノエは優しく微笑む。なんだか随分、綺麗に見えた。

「反省?」

「そうじゃなくちゃ、罪悪感の妖精さんに気にいられないわ」

 罪悪感。

 フィルラムの弟が呆れ顔になった。

「ああ、あいつら罪悪感の妖精なのか。相当煩かったぜ」

「ええ」

 メイノエはフィルラムの弟へ、優しい微笑みを向けて頷いた。フィルラムの弟はぼうっとそれを見ている。「罪悪感の強いひとにとりついて、耳許でずっとささやくんです。そのひとが心の奥で考えていることを、ずっと」

「栄誉の妖精の弟達だな」

 メイノエの兄が、美しい唇を動かしてそういう。メイノエがもう一度頷く。

「あの子達は、妖精さんのなかでも特に厄介なんです。気にいったひとを自分達の仲間にしようとして、衰弱させて……最後には殺してしまいます。だから、エベレインには、自分が悪い訳ではないんだって、解ってもらう必要がありました」

「成程……」

 メイノエが振り向いた。屈託のない笑みだ。エベレインはそれを、あっけにとられて見ている。

「だから、あなたは悪くないのよ、エベレイン。御者さんもです」

「あ……すまなかったな、お嬢さん達」

「だからもういいんだってば。わたし達、こうなるのが運命だったみたいだからね」

 フィルラムが軽くいいはなつ。それぞれの兄と弟は、くすっと笑った。


 フィルラムはエベレインの部屋のどこに何があるか、敏感に察知したようで、マグを見付け出して〈魔法茶〉をいれた。メイノエの鞄から、〈魔法茶〉の袋が出てきて、エベレインはびくつく。

「ああ、そうだ」

 フィルラムの弟がエベレインを見た。「あんたに礼があったんだ」

「わ、わたくしに?」

「ああ。〈魔法茶〉を考え出したのはあんたなんだってな。おかげで、俺はかなり助かった。ありがとうよ」

 ジャンドァルがぽかんと口を開ける。エベレインも似たようなものだ。

 治癒魔法をつかえる先生と、イスキア先生が駈けこんできたけれど、メイノエの兄が低声(こごえ)でなにかいって追い返した。

 机の上に置いてある〈口伝て鳥〉が、きりきりと鳴いた。エベレインはびくっとして、耳を塞ぐ。

 メイノエの兄が〈口伝て鳥〉を見た。フィルラムがそれを指さす。「エベレイン?」

「多分……殿下からだわ」

「殿下って、お兄さん?」

 頷く。エベレインは必死に涙をこらえる。「は、母のことだと思う。わたくしは、縁を切られたから、母もそうなるだろうし、だから、母の面倒を見ろと、……」

 アーヴァンナッハとフィルラムが、目でひとを殺せそうな表情をうかべた。メイノエとティノーヴァは、驚いた様子だ。

 フィルラムが〈口伝て鳥〉のくちばしをこじ開けた。声がする。

「エベレインもと王女、殿下からの伝言です。もと第四夫人は間もなく生家を追い出され」

「ちょっとあんた、黙りなさい」

 フィルラムが脅しつけた。冢宰が一瞬黙る。「エベレインもと王女ではないのか? 無礼な口をきくのは誰だ」

「無礼とはききずてならぬな」アーヴァンナッハが〈口伝て鳥〉の傍で、笑うような声を出した。「我が妹、メイノエ・フェアマティの親友である女性を侮辱するとは、ヤーデ冢宰、悔やむことになるぞ」

 冢宰が黙った。アーヴァンナッハの声を知っているのだ。

 アーヴァンナッハは淡々としていた。

「我が妹に対する数々の無礼、どうもありがとうとシャンデ殿下に伝えてほしい。それから、実の妹や父の妻に対しての無礼はいずれその身に跳ね返るぞうすのろ、と」

「う」

「わたしや妹はオークメイビッドの一部だし、わたし達を害したのだからトナンラックに攻め込んでやってもいい。妹は素晴らしい錬金術士なので、トナンラックの国民全員が三百回は死ぬ量の毒くらい持っている。今からそちらへうかがってもいい」

「な、なにをおっしゃるのですかアーヴァンナッハ殿下? エベレインはすでにもと王女、我が国とはなんの関わりも!」

「さようなことは()()()

「王子自ら法を破る気か!」

「それもよいかもしれぬな」

 冢宰が今度こそ絶句した。


 メイノエが苦しそうに、口許をおさえている。笑わないようにしているらしい。ティノーヴァも同じようなものだった。

 アーヴァンナッハがやわらかくいう。

「しかし……考えぬでもない。エベレイン王女は兄にいわれるままやっただけとのこと。その上、彼女は〈魔法茶〉という素晴らしい発明をした錬金術士で、妹とも友人だ。エベレイン王女に免じてゆるしてやってもいい。直ちに王女の生母を保護し、無事にラツガイッシュまで届けると約束するならな」

「……そ」

「さもなくば、トナンラックが三百回滅びる。どちらにするか選び給え」

「で、殿下にうかがって参ります!」

 アーヴァンナッハが〈口伝て鳥〉のくちばしを閉じた。たえきれなくなったか、ティノーヴァがふきだして笑う。アーヴァンナッハがそれに近寄っていって、ティノーヴァの頭を軽く撫でた。

「あんた、いい役者になれるぜ、アーヴ」

「そうか。では、都に王立劇場を建てるよう父に進言しよう。ただし歌劇専用にする。主演は君だ」

 げっとティノーヴァが呻き、フィルラムが大笑いした。


 〈口伝て鳥〉はまた、きりきりと鳴き、今度は兄の声がした。「アーヴァンナッハ殿下」

「やあまぬけのシャンデ。妹に害をなす人間につける尊称はない。それにその耳障りな声も聴きたくはないから、用件をいう。エベレイン王女の生母を無事にラツガイッシュまでおくりとどけよ。さもなくば」

「承知いたしました、ですから戦などは」

「そう怯えることもないでしょう、エベレインのお兄さん」フィルラムが横から口をはさむ。アーヴァンナッハは微笑んで、停めない。「アーヴは大勢の魔物相手にふた晩戦い抜く()()の強さでしかないし、メイノエだってネアッシュをほんのひと振りで殺しちゃうような()()毒しか持っていないわ。トナンラックは武で鳴らすお国ですもの、それくらいなんでもないでしょう?」

 兄が息をのんだのを、エベレインは初めて聴いた。

 フィルラムが吐き捨てる。「エベレインがいい子でよかったわね。そうじゃなくちゃトナンラックは滅んでたかもしれないんだから、あんたに似ても似つかない優しい妹に感謝しなさいよ!」

 アーヴァンナッハが〈口伝て鳥〉のくちばしを閉じた。


 男性達が出ていく。ジャンドァルは、見舞に来るといってくれた。アーヴァンナッハとティノーヴァは、議会に話があるそうだ。

 メイノエが真っ白いお香を焚いて、フィルラムが枕をふくらませてくれた。エベレインは横になる。

「ねえ、フィルラム、メイノエ……」

「もう謝るのはなしよ」

「でも」

「本当にいいの。あの妖精さんは、心の底から反省しているひとが大好きなのよ。御者さんにもふたり、くっついてたけど、残念そうに離れていくところだったわ」

 メイノエにはなにが見えているのだろう。こういう不思議な子だから、特別な薬をつくれるのだろうか。

 いいえ、と、エベレインは自分に反論した。それは違う。メイノエは努力して、薬を、道具を、つくってきた。エグラナーシュだって、努力なしでつくれるものではない。メイノエをまねてもつくれなかった生徒は大勢居る。

 わたくしだって、別の道があったのよね。

 お香は、しっとりと雨に濡れたヴァイデの葉のような、いい香りがした。

「エベレイン、あんたは基礎的なことは完璧にできてるよ。もっとしっかり勉強すれば、上級課程にだっていけると思う」

「ねえ、エベレイン、一緒に酒場へ行って、お薬を売ったりしましょう。お母さまとふたりなら、それでなんとかなるわ」

「ふたりとも、どうして優しくしてくれるの?」

 ふたりは顔を見合わせ、微笑んだ。「それが気分がいいから、だよ」

「わざわざ意地の悪いことをしたって、仕方ないでしょう?」

 エベレインは寸の間考え、頷いた。兄のいいつけとはいえ、成績のいいメイノエや歌のうまいフィルラムを羨み、嫉妬して、意地の悪いことをしていた。でも、それをしたからってなににもならないし、気分もよくない。

 ごめんなさいともう一度いうと、ふたりはくすっとして、エベレインの手を握る。「起きたら、きっといい報せがあるよ」

「エベレイン、妖精さん達が騒がしくて、寝ていないでしょう。ぐっすりおやすみなさい」

 母は大丈夫だろうか。来てくれる?

 エベレインは目を閉じて、深呼吸する。声はもうしない。眠って、起きたら、少しはいい気分になれるだろうか。フィルラムとメイノエに、きちんと恩返しできるくらいには。



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[気になる点] エベレインに、もしかしたらフィルラムにも錬金術の腕で劣り、戦いなんてやったことのないわたくしが、いったいどうやったらあのふたりに害をなせるというのだろう。 ここの「エベレイン」はもし…
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