シャラエーグ
シャラエーグは自分の死期を解っていた。
シャラエーグであれば解る。
これまでの代がわりは、覚えている。
代がわりの期限の、半年前までに、人間がやってくる。ラツガイッシュという、人間の国を、治めている者達が。
必要なのは、「夢見る者」、「乙女」、そして歌だ。
楽譜はある。
シャラエーグは、最初のシャラエーグの記憶を掘り起こす。
それはなんでもない、ただの妖精だった。ただ魔法力への干渉が得意なだけの、ひとりの妖精だ。
その妖精はシャラエーグといった。
シャラエーグは人間の乙女と恋に落ちた。
子どもができた。
シャラエーグは乙女を妖精にしようとしたが、巧く行かなかった。
シャラエーグは天啓を得た。
シャラエーグは、誓いで自分を括った。
生き続け、乙女の子孫をまもり続ける。
そのかわりに、三百年に一度、自分の魂を再生させてくれと。
シャラエーグは自分をつくりかえた。乙女と、乙女の義理の兄である、魔法力に充ちた夢見る若者の力を借りて。
誓いはその通りになった。
シャラエーグは誓いによって大きな力を得た。
世界中の魔法の源になったのだ。
シャラエーグによって、魔法力は世界に充ちた。
約束はまもられた。ふたりの子ども達は、人間と妖精に分かれ、人間はふたつの国をつくり、妖精はここに集落を築いた。
シャラエーグは代がわりの時にだけ、人間になった自分と乙女の子孫を見た。
代がわりは、三百年に一度だ。
それが遅れれば、魔法力に影響が出る。世界の均衡が崩れる。
代がわりが遅れれば、シャラエーグは代がわりに必要な魔法力を維持できない。
それを補う為に、自分の子ども達を傷付けなくてはならなくなる。
シャラエーグでない妖精は、魔法力の性質が違いすぎて、代用できない。ほかの妖精達と交配を繰り返し、魂がうすまったからだ。
シャラエーグの代用にできる魔法力は、その魂を濃く維持している、ふたつの王家だけ。
片方がなくなったなど、知らなかった。
子ども達が死んでいたなんてとシャラエーグは哀しんだのだ。
ティノーヴァの目では意味がない。
シャラエーグはふうっと息を吐く。
「ごめん。それはできない」
「何故だ」
「それでは、意味がないから」
「意味?」
「シャラエーグの魂と、巧くなじまない」
メイノエ、愛しい乙女にそっくりのメイノエが、か細い声でいった。「フェアマティ家は、シャラエーグさんの子孫なんです」
「ああ、そうか、それでか。それで、アーヴもあんたも、かがやくように美しいのか」
シャラエーグは目を開けていない。だが見ている。
ティノーヴァは本心からいったようだ。
ティノーヴァの目ならかわりになるのでは?
ティノーヴァは魔法力に乏しい。生きていけるぎりぎりだ。だが、その目は正確に、アーヴァンナッハとメイノエの魔法力を見ている。
シャラエーグはしっかりと、ティノーヴァを見た。




