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日記6


 今日は快晴。いい気分。


 でも、体があちこち痛い。馬車の床って、思っている以上にかたい。ひと晩ぐっすり眠ったら、体ががちがちにかたまっちゃった。その上、〈厄除けの蝶〉がどうしてだかふたつとも落ちちゃってて、朝はやくから魔物と戦闘。ついてない。

 ま、総合的に見れば、いい朝。魔物ったって、単なるうさぎ。魔法はつかうけど、あいつら攻撃があたりさえすればなんとでもなる。

 メイノエは魔物でも、戦いたがらない。臆病だっていわれることもあるけど、違う。メイノエはどんな理由でも、命が失われることがつらいんだ。それが魔物であっても。


 だから、馬車のなかに隠れててもらった。彼女、でも、強いとは思うのよね。魔法力だって、攻撃に転用できなくもないと思う。


 本人に攻撃用の魔法をつかう意思がないんだもの、やっぱりだめかな。

 それにメイノエは、治癒魔法で充分戦闘に貢献してくれてる。わたしも、あれくらい上手に治癒魔法をつかえたらな。


 朝ご飯おいしかった! メイノエの料理はいつだっておいしいけど、こんな草原のどまんなかでもおいしいなんてね。

 干しくだものと、チーズでしょ。あと、その辺で摘んできた草と干し野菜のスープ。メイノエのスープって、お塩がきいてておいしい。

 それに、御者さんがグリュシュタックを見付けてくれたの。甘酸っぱくっておいしかったー。わたしは皮をむいて捨てちゃうんだけど、メイノエは皮の近くのちょっと渋いところもおいしいっていうのよね。お酒を造る時も皮ごといれるらしい。

 種は回収して、洗って乾かして、保存。メイノエが薬をつくる時につかうから。それに油がとれるんだって。

 昨夜干しておいた服をたたんでしまいこんで、出発! 単調な揺れが眠りを誘うのよね。


 錆落としの薬は巧くいったかな。一応。〈錆取り〉のつもりなんだけど、あれみたいに簡単に落ちないから、まだ、単なる錆落としの薬。

 メイノエは、〈厄除けの蝶〉をつくってる。完成したものも持ってきてるけど、追加が必要になった時の為に、材料も持ってたんだって。メイノエは器用だから、多少揺れててもすいすい縫っていく。フクザツな模様をぬいとるでしょ? あれも平然。

 凄いねっていったら、酔い止めを()んでるからだって。それだけじゃないよね。メイノエはいつだって、なんだってできる。

 メイノエにできないことって、ない気がするな。

 ああ、ひとを傷付けるとか、魔物を殺すとかはできない。優しい子なの。




 魔物って、可愛いやつも居るよね。むにょむにょしたのとか。あいつ、なんて名前だっけ。

 あ、スフェアルだ。そうそう。丸くてむにょむにょしてて、刃ものが効きにくいから冒険者はいやがるんだ。切れないけど、とげとげしたもので攻撃すると逃げてく。

 殺すと、水みたいになって消えちゃうんだけど、あれも材料になる。メイノエがつかってるもの。

 スフェアル、可愛いから殺したくないって、メイノエ哀しそうだったな。あいつらってたいした悪さしないの。体当たりしてきたら痛いけど、それくらい。だから




 お昼は、綺麗な湖の傍で。

 ほかにも冒険者とか、行商人が沢山居て、市場みたいになってた。わたし達も買いものしたし、持ちものを売ったよ。メイノエが沢山持ってたお塩とか、薬とか、わたしがつくった錆落としの薬もね。

 買ったのは、わたしは鉄鉱石とか、くず鉄とか。メイノエは、動物や魔物の、価値のない骨とか、植物の皮とか茎とか葉っぱとか。そんなものなににつかうの? って、みんな不思議そうだった。

 でも、これが錬金術よね?

 価値のないものやありふれたものを、役に立つ素晴らしいものにかえる。


 メイノエは困ったみたいに笑って、なにも喋らなかった。

 メイノエがもう少しだけ、わたしに対するみたいに、みんなにも喋ったらいいのにな。




 イスキア先生読んでるんでしょう?


 メイノエには叱られそうだけど、書いちゃいます。


 エベレインってとってもやなやつです。一年の時からずーっと、メイノエにいやがらせしてる。とりまきも、侍女達も、一緒になって。

 なにもしてないじゃないって思いました? 先生。

 そうですね。彼女達今はなにもしてないわ。そんなぼろを出す筈ないじゃない。


 入学したての頃、メイノエがオークメイビッドの王女だって、しかも王位を継ぐ権利があるって知って、エベレインは嫉妬した。だって、トナンラックは女王をたてたことがないもの。

 自分はどうあがいたってなれない女王に、メイノエはなれるかもしれない。エベレインはそれが我慢ならなかったのよ。


 だから最初から、メイノエに対して高圧的で、メイノエがなにかしようとすると邪魔してた。

 ああいうのって、先生は見てても解らないんでしょうね。みんなは解ってる。材料を横取りしたり、課題を横取りしたり。小国の王女が出しゃばるなって! トナンラックよりもオークメイビッドのほうが大きな国なのに。

 でもそれは最初だけ。どれだけ邪魔してもメイノエの成績は落ちなかった。その後エベレイン達がやったことは簡単。メイノエを無視した。

 単純でしょ。


 ああいうのって気分が悪い。

 エベレインは偉そうなのよね。なににつけ。別にあの子が偉い訳じゃないのに。トナンラック出身の子達が逆らえないのは解るけど、それ以外は黙ってることないじゃない。


 先生になにかしてくれとはいいません。エベレインは、今回も留年なら、トナンラックへ帰るだろうし。

 でもエベレインがメイノエを執拗に攻撃してきた所為で、メイノエはどんどん控えめになっていってる。わたしはそれが悔しい。


 メイノエにもっと自信を持ってほしい。もう立派な錬金術士なんだから。


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