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日記5


 雨です。


 馬車のなかです。フィルラムちゃんは眠ってしまいました。〈いつもの燭台〉を持ってきて正解でした。馬車の振動があっても、きちんとつかえるみたい。




 今朝、フィルラムちゃんの悲鳴で目が覚めました。試験に出発する日なのに雨だー、って。

 フィルラムちゃんは、二年の修了試験で傘がお題になって以来、雨に苦手意識を持っているみたいです。今のフィルラムちゃんだったら、ちゃんとした傘くらいつくれるのに。

 雨だからって、馬車も頼んでしまったし、グルバーツェを出るしかありません。わたし達は身支度を調えて、寮を出ました。朝ご飯を、市場のすぐ傍にある、踊る獺亭で食べると、フィルラムちゃんは機嫌を持ち直しました。


 湿気で髪の毛が絡みます。

 櫛を忘れたみたい。




 捜したら出てきたので、髪をといて、結び直しました。


 お酒の配達のことを伝え忘れていたので、灯籠亭へ行って、戻りました。馬車は学校前まで迎えに来てくれました。不完全な〈無限の鞄〉だけでは心許ないので、小さなつづらに薬材などを詰めて、ひとつ持っていきます。馬車の使用は制限されていませんし、お金をつかってはいけないともいわれていません。

 いいですよね、先生。


 つづらは御者さんが運んでくれました。魔法学校の生徒さんは、妙なものを持ち歩くね、と、笑われました。でも、意地悪な笑いではありません。

 あの街のひとは、魔法学校を誇りに思っているのに、その生徒をからかうのが大好きなのです。いやな気持ちはしないけれど、上手に返すこともできなくて、わたしはただ頷きました。

 わたし達と、つづらは、馬車にのって、グルバーツェを出ました。


 もうそろそろお昼かしら。ご飯は、市場で買った、ゆでたまごとりんごのサンドウィッチです。酔い止めを()んだので、馬車は揺れるけれど、平気です。

 フィルラムちゃんはまだ寝ています。昨夜遅くまでお喋りしていたから、疲れているみたい。

 冒険者を何人か雇っておくべきだったかしら。少し不安です。


 つづらは、小さくて、体に括り付けて持ち運べるものです。

 エイフダーマ村は、東の丘陵地帯を越えたところにあります。道がでこぼこしていて、馬車だと途中までしか行けないのです。馬なら大丈夫だけれど、フィルラムちゃんは馬にはのれないので、暫く歩きます。

 途中に、村ともいえないくらいの小さな集落があるそうで、馬車はそこまでです。御者さんが、そこまでしか馬車で行けない、とおっしゃるので。でも、その次の集落に着いたら、そこからはまた馬車にのれます。道の状態がよくなるのだそうです。

 そのふたつの集落でも、怪我人や病のひとを治癒して、エイフダーマ村へ向かう予定です。フィルラムちゃんは賛成してくれました。自分はその間、集落中の刃ものを研いでまわる、といっていました。


 お昼です。雨は少し弱まりました。フィルラムちゃんが、おなかすいたー! と元気よく起きて、馬車を停めました。御者さんも一緒にご飯です。わたしは黙っていました。大きな口を開けてサンドウィッチをかじるのは、なんだかはずかしくて、でもおなかがすいていたので食べました。

 食後に、お茶を飲みました。〈いつもの燭台〉の性能をたしかめる為でもあります。巧く行きました。それに、泥のまざったお水を綺麗にするお薬も、巧くいっていて、よかった。ほっとしています。もう少し改善できそうだけれど。




 12:4:6:22

  ヴェルス草をハーゼ苔へ置き換え

  エーバーの角の粉末を省く。


  浄水剤でいいかしら




 フィルラムちゃんは、錆落としのお薬の調剤です。ライン草を刻むと包丁がつるつるになると笑っていました。

 ライン草は潰したほうが沢山汁をとれるのだけれど、先生があまりフィルラムちゃんを助けるようなことばかりいうものではないとおっしゃったので、今度は教えませんでした。

 フィルラムちゃんだったらきっと、それくらい気付きます。でも、教科書にそれくらい、書いてくれたらいいのに。

 魔法学校でつかう教科書は、そういう細かい部分を省いてあります。だから、留年するひとが多いのではないかしら。


 馬車は一定の速度で進んでいます。お馬さんは疲れないのかしら?


 休憩です。用足しをしたり、お水を飲んだりしました。お馬さんも休憩で、お塩をなめていました。お水は傍の川で飲むそうです。折角なので、わたし達も川の水を汲みました。

 そういえば、雨がやんでいますね。小石が沢山転がっているところで、ぬかるみなんかもありませんでした。

 川の傍には、馬をつれたひとが沢山居ました。皆さん、どこかの街からどこかの街へ、また村から村へ、移動しているひと達です。

 フィルラムちゃんが、馬にのれなくってごめんねとしょんぼりしていましたけれど、仕方ありません。馬はダエメク樹の葉を食べたがるので、ノーシュベル村では飼いたくても飼えないのでしょう。

 そんなようなことをいったら、フィルラムちゃん驚いていました。知らなかったんですって。お家のかたは教えてくれなかったのかしら。


 川の水はつぼにいれて、〈無限の鞄〉のなかです。飲む為なら、革袋でもいいのですが、お薬をつくる為だと影響があります。つぼならあまり影響がないので、いいのです。

 馬車へ戻る道中、小石を沢山拾いました。


 村や街まで行けなかったので、野営です。〈厄除けの蝶〉をふたつ、飛ばしておきました。明日の朝まで、もつでしょう。


 服をかえて、ふたりで並んでお洗濯しました。川の近くでよかった。御者さんはきがえないのかしら。


 綺麗になった服は、よくしぼって、フィルラムちゃんの〈乾燥剤〉で軽く乾かしました。完全には乾かないので、後は干しておきます。馬車のなかに紐をかけて、そこへ吊しました。御者さんはお外でおやすみになるそうです。

 それから、はやめの夕ご飯にしました。焼いたチーズと、ビスケット、干したくだものです。食べたら治癒魔法をかけて、寝る支度です。御者さんにも治癒魔法をかけました。虫歯の予防です。

 おやすみなさい、あなた。




 物音で目が覚めました。フィルラムちゃんは寝ています。お外の御者さんも寝ているみたい。

 〈厄除けの蝶〉は、まだひらひら舞っています。悪いものではないでしょう。少なくとも、魔物では。それに魔物だって、悪いものばかりとは

 様子を見てこようかしら。


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