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日記1


 ええっと。


 なんて書いたらいいのかな。この部分も、先生に読まれるんだし、ちゃんと書きたいんだけど。


 そうね。


 これから試験がある。試験へ向かう。

 今朝、わたし達は先生に呼び出されて、この〈手紙の本〉の片割れをもらった。これは、対になる本に、こちらに書いたことがうかびあがるっていう魔法の本。試験の進捗を逐一報せる為のもの。最近開発されたんだよ。貴重なものだから絶対になくさないよーにっ!! って、先生に念押しされちゃった。


 緊張しちゃう。わたし、こういうの苦手なんだよね。


 試験の期限は一年。

 内容は、エイフダーマっていう、グルバーツェから北東へ、歩きで二十日かかる村へ行って、最低でも三月(みつき)、村を助けること。えっと、魔法や錬金術をつかわなくても、村のひとに感謝されればいいんだって。だから、村の一員になって働いてこいってことだと思う。勿論つかってもいいんだけど。

 もうひとつの試験は、エイフダーマの〈常若の桃〉、そのなかでも特に薬効の高い、〈枝付き〉を手にいれること。薬の材料として有名だよね。

 それで薬をつくれっていわれたら困るけど、桃を手にいれるのなら簡単かな。だって、一年もあるんだし。


 やだ、わたし喋りながら書いてたみたい。メイノエから、簡単じゃないよっていわれちゃった。




 とにかく、試験はそういう内容。

 だから、わたし達がまずやらなくちゃいけないのは、準備。よね。

 用意しないといけないものは、きがえ、武器(道中、魔物が出るからね)、日持ちする食べもの、お菓子、薬や金属の材料。それに、お金。

 エイフダーマはティアッハメイブとの国境(くにざかい)にあるから、あっちからの商人も沢山来る。メイノエがつくる薬や、わたしが得意な金属の材料が乏しくなったからって、何度もグルバーツェへ戻る訳にいかないし、ティアッハメイブのお金も要る。

 鉄を鍛冶座へ持っていこう。今ある分を売ってしまえば、そこそこのお金になる。酒場で簡単な依頼がないかも見ておかなくちゃ。そっちで鉄の調達を依頼してるひとが居てくれたらいいんだけど。単に、鍛冶座や武器屋さんへ持ちこむよりも、割高な場合が多いから。

 メイノエは学校へ、薬を沢山持ってくみたい。彼女の薬は効きがいいから、学校でひきとってもらえる。凄い値段で売れるんだよ。学校はそれを、授業とか、生徒が実験中に怪我した時なんかにつかってる。あと、他国の王族や貴族へ売ったりね。


 勿論、効果の高い薬は、わたし達で両替商へ持ちこむこともある。さっきもメイノエは、学校である程度売ったら、残りは両替商で売るんだっていってた。

 両替商へ売れば、やっぱり値は張るけど、ほら。「イッパンにリュウツウする」。

 メイノエは、錬金術はもっと身近になるべきだと考えてる。効果の高い薬を、一般市民が簡単に買えるような、そういう世のなかになってほしいんだって。つまり、病気で薬が買えずに死んじゃうひとが出る世のなかが、嫌いなの。

 彼女凄く優しいんだよ。そうなったら儲けが減っちゃうのにいいのってつい、意地悪なこと訊いちゃったけど、そうしたら髪とか肌が綺麗になる薬で儲けるって冗談めかしていってた。

 でも、本気みたい。病気で死ぬかもしれないって時に、髪とか肌に気を遣ってられないけど、元気なら興味がわくもんね。わたしも昔、はやり病で




 関係ないこと、書いてる?


 これは一時的な報告だし、どうせ後できちんとまとめるんだから、とりあえずあったことを色々書いちゃお。そのほうが手落ちが少ない気がするもの。

 わたしそそっかしいから、これは関係ないとかこれが関係あるとか勝手に決めて、それがあってるのって半分くらいなんだよね。どうでもいいって自分で判断しないようにしよう。これも大切なことでしょ?

 先生も、「肩肘張らずに起こったことや考えたことを書いておくよう」っておっしゃってたもん。友達に手紙を書くようなつもりで、とも、ね。


 これだから留年しちゃうのよね。学ばないなあ。




 自己紹介でもしておこう。イスキア先生以外も読むかもしれないし。だってこれ、試験記録としても、〈手紙の本〉の使用記録としても、残すんだよね。試験に〈手紙の本〉が本格的に導入された初めての年ってことで、記録を参照するひとも多いんじゃない? だったら、後輩達が読むかもしれないんだし、それくらいの説明はしておくべきでしょ(後輩思いなワタクシ)。


 ああ、イスキア先生っていうのは、わたし達の指導を担当してる先生。美人で、賢くて、優しいんだけど、片付けが苦手で部屋が汚い(先生ゴメンナサイ!!)

 片付けは、いっつもメイノエが手伝ってる。さっきから何度も出てくる、メイノエについて、気になる?

 メイノエっていうのは、わたしと同室の女の子。わたしのひとつ下で、十五歳。人参みたいな色の、ふわふわでさらさらの綺麗な髪をしてて、うらやましい。わたしがそういっても、メイノエははずかしそうにしちゃう。

 この本はメイノエもつかうから、後で読んだら彼女赤面しそうだけど、書いておくね。メイノエは可愛い。ほっぺがふくふくしてて、大きな紺碧の目をしてて。それって、海の色よね。




 自己紹介だった。すぐに関係ないことを書いちゃうんだから。

 でも、書かなきゃいけないことはひとつ減ったでしょ? わたしが余計なお喋りが好きだってこと。




 わたしの名前は、フィルラム・トロエラ。




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