13.I realize...
ゴールしたまではよかったが、直後俺は転んで地面に倒れこんでいた。
「はあっ……はあっ……」
呼吸がおかしい。まるで水中にいるみたいに、空気を肺に取り入れられない。身体もうまく動かせない。
勝負は――どうなった?
最後の方は一心不乱に前しか見ていなかった。
考えようとするけど、酸素不足で脳まで行き渡らない。
意識が遠くのいていきそうだ。なんて思っていると、
「俺の負けだよ」
太陽を隠すように昴が俺の前に立ち、手を差し伸べてきた。多少息は上がっているものの、呼吸の乱れ具合は俺とはまるで違う。
「昴。お前……」
手加減したのか、と訊こうとしたところで、
「全力だったよ」
考えを読んだみたいに答えてくる。
「嘘じゃない。全力で走ったよ」
「そうは言ったって……」
俺みたいなやつが陸上部に走って勝てるわけない。文化部で体育の授業くらいしかまともに運動していない俺が、手加減でもされなきゃ勝てる道理はない。
「そっか、晴人には言ってなかったっけ」
昴は頬をかきながら、
「俺、専門は砲丸投げなんだよ」
「え?」
「だから走るのは専門外……っていうか正直得意じゃないな」
「なんだよそれ」
ってことは、最初から勘違いしていたのか。まったく勝ち目のない勝負を俺にさせることで潔く諦めさせようとしているわけじゃなかったのか。
「あ、言っとくけど、東雲先輩が気になるっていうのも本当だからな?」
念押しする昴の頬が少しだけ赤いのを見れば、それも嘘ではないことはわかる。
「そうかよ」
言って俺は昴の手を取り、立ち上がる。身体が軋んだままだが、呼吸はだいぶ落ち着いた。
「ばーか」
「夕月」
いつの間にか近くに立っている幼なじみ。
「ばーか」
投げ捨てるようにもう一度、言う。たった一言、だけど、そこにはたくさんの意味が込められているような気がした。
「ごめん」
だから、俺はこんな返し方しかできなかった。
「いいよ別に」
「でも、ごめん」
俺を昴と勝負させたこと。その結果がどうなるのか、夕月はわかっていたはずだ。自分にとって現実であることも。
「いいってば」
「私は、諦めないだけだもん」
そう言ってくれる彼女に、俺は救われた気がした。
「それで、どうなの?」
夕月は訊いてくる。「何が」というのは訊くまでもない。
「ああ」
俺が気づいたもの。俺の、本当の気持ち。
「俺は、あの人のことが――」