3.Break in the rainy
珍しく、晴れていた。
しとしと降り続いていた雨は昼過ぎには止み、雨続きだったのが嘘のように夕日が辺り一面をオレンジ一色に染めあげている。
だけど、あちこちに雨の余韻は残っていて、路面にはジュースを盛大にこぼしたみたいに大きなシミがいくつもできているし、空気は水分をたっぷり含んでじっとりとしている。
ともあれ、久しぶりの晴天。それはつまり天文部員である俺にとって、絶好の活動日和。
だというのに。
俺は住宅街のど真ん中にいた。
学校近くの、迷路にも似たその場所を歩き回っていると、人影を視界に捉える。ラフな格好にぎっしりと詰まったビニール袋。どうやら買い物帰りの主婦のようだ。
ゆっくりと歩いている彼女に、
「あの、すみません」
「はい?」
怪訝な表情を浮かべてくる主婦に、俺は手に持った一枚の写真を見せ、あることを訊いた。
しかし。
「うーん、ごめんなさいね」
そう言って、申し訳なさそうな顔をして、主婦は首を横に数回振る。
まあ、こんな風に謝罪が返ってくるのは予想していた。なにせ、このやりとりは今日一日ですでに十回を超えているから。
会釈をして主婦と別れ、再び歩き始める。制服はいつの間にか、路面に見えるシミと
同じように汗ばんでいて、少し気持ち悪い。
ふと空を見上げれば、西の空の雲間にぼんやりとした輝き。金星だ。もう少し日が沈めば、宵の明星と呼ばれるようになる。
せっかく久しぶりに晴れたんだから、学校の屋上で金星の観測でもしたかったなあ。
なんてことをぼんやりと考えていても、俺の身体は屋上じゃなくて住宅街にあるし、やっていることは天文部本来の活動とは一ミリもかすっていない。
なにやってるんだ、俺。
ため息をついて、右手に握られた一枚の写真を見る。でかでかと写っているのは、むすっとした表情の、毛並みのいい猫。
始まりは昨日の放課後。その時のことを頭の片隅で思い出しながら、俺は再び迷路の中を歩き始めた。