表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/73

A Secret Request

 いつだって、昨日のことのように思い出せる。


 降り注ぐ太陽光。地面から立ち上る熱。宙を舞う少しの砂埃。

 前を向けば、まっすぐなレーン。左右には競い合うライバル。

 身体を丸め、構える。数舜の沈黙を経て、乾いた音が響いた。


 腕を振り、地面を蹴る。

 必死に、必死に、必死に。走る。


 けれど私の身体は、追いつかない。こんなにも死力を尽くして前へと進んでいるのに。

 もう、ダメかもしれない。これで終わりかもしれない。毒みたいにじわじわと、頭の中に浸透していく、私の弱さ。


 そんなとき、いつも聞こえる、彼の声。どれだけ他の音がうるさくても、まるで隣にいるかのように、胸に直接響いてくる。


 頑張れ、と。

 諦めるな、と。


 たったひとりの声援で覆るほど、勝負の世界は甘くない。そんなことはわかっている。


 でも私にとっては、どんな食べ物よりもエネルギーになって。

 どんな技術よりも走るスピードを速くしてくれた。


 君は、気づいていないかもしれないけど。

 私にとっては、本当に大切で、支えになって、宝石みたいな宝物の、思い出。



「……」


 目を開けば、今日になる。すべての『昨日』はまぶたの裏から消え去って。


 代わりに映るのは、無機質な扉。

 見慣れたそれを開くと、


「……いらっしゃい」


 静かに私を迎える声。優しくも、残酷でもある声音。


「お邪魔、します」


 足を、踏み入れる。それが何を意味するかは、よくわかっている。


 大事に大事に抱えた宝石。私だけの、誰にも見せるつもりも、渡すつもりもないもの。


 それを、私は――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ