19.Close to the end
「今回はお手柄だったわね」
部室に戻ってから、部長は言った。
「ようやく晴人くんも『諦め屋』としてやっていく気持ちになったってことかしら?」
「ぜんぜん違います」
俺は即座に否定する。
「そりゃあ天川先輩の退部理由を聞いて、美術部が廃部になるのは仕方ないって思いましたけど……ふたりが大事に思ってることは、諦めずに済みましたから」
お互いがお互いを大切に思っていること。それを伝えあわなければ、ふたりは織姫と彦星にすらなれなかった。
「むしろ俺は、今回の件で実感しました。大切なことはやっぱり、諦めない方がいいって」
諦めさせるために嘘を言ったり、ただ事実を伝えたりするだけよりもよっぽど依頼人のためになる。部長だって、目の前であのふたりを見ていたんだから少しはそう思ってくれているんじゃないか。
「そう……」
密かに期待はしているけど、部長は力なく相槌をうつだけで、果たしてどう感じているかはわからない。
部室は夕焼けで真っ赤に染まっていて、部長も窓際に立っている。なんだか『約束』をしたときと似ているな、なんて感想がぼんやりと浮かんだ。
諦めないと、生きていけない――。あの時部長はそう言った。あれからまだ二、三か月しか経っていないけど、部長は考えを未だ変えていないのだろうか。あるいは俺の考え方は、変わったのだろうか。
「もうすぐ夏休みね」
静かに、部長が言う。ただの世間話であると同時に、『約束』の期限が近づいてきていると告げているようにも聞こえた。
結局、俺はまだ部長のことを何も知らない。
だから、俺は「はい」と答えることしかできなかった。