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10.Next to her

 早速、という言葉通り、部長がさくさく予定を立てたので、展覧会に行くのは翌日の土曜日になった。その情熱を天文部本来の活動に向けてくれればいいのに。心底そう思ったが、言ったら言ったでロクなことにならないのは目に見えている。


 かくして土曜日、午後二時。駅前のロータリーで俺は一人立っている。


 夏本番が到来と言わんばかりに、太陽からは無数の光の矢が地面に絶えず降り注ぎ乱反射している。あらゆるものが光源になったみたいに白く輝き、世界の色を薄めている。

 額にじんわりと浮かんだ汗を拭っていると、小さい足音が一つ、俺の前で止まった。


「驚いたわ。晴人はるとくんが先に来てるなんて」

「会って一番に言うセリフがそれですか」


 部長の装いは、薄手の白いシャツに、藍色のロングスカート。シンプルな組み合わせでも着こなせているのは、素材たる部長本人が美人だからだろう。中身は置いといて。

 そして目を引いたのは、いつも見ているトレードマークたる首のストールだった。


「部長、この暑いのによくそれ巻いてきますね」


 見てるこっちが暑くなる。


「だって私、肌が弱いもの」


 部長はストールをいじって首の肌が露出しないよう気を遣う。だけどやっぱり暑いのか、頬は汗でしっとりとしていた。


「紫外線対策は万全よ。ちゃんと日焼け止めも塗ってきてるわ」


 たしかに白いシャツからのぞく白い肌は、日焼け止めでツヤを放っている。


「梅雨も明けて夏本番ですからね」

「ほんと、この季節は嫌よね。早く行きましょ」


 言うや否や、俺を置いて改札の方へ向かっていく。早く来たのは俺の方なんですけど。


 いいタイミングでやってきた電車に乗り込むと、運よく二人分の席が空いていたので並んで座る。休日ということもあって、座席はほぼ埋まっていた。家族連れ、老夫婦、制服姿の学生にいちゃつくカップル。傍から見れば、俺たちもカップルに見えたりするのかもしれない。

 けれど、カップルというには俺は部長のこと知らなさすぎる。私服姿なんて初めて見たし、肌が弱いことだって知らなかった。


「……」


 もっと知りたい――わけではないけど、なんとなく目線だけ隣に移す。ピンとのびた長いまつ毛。電車が揺れるたびに髪が撫でる頬は、ほんのりと赤みを帯びている。もしかしたら、少し化粧しているのかもしれない。


 ……きれいだな。


 ぷかり、とそんな感情が出てきた自分に驚く。これじゃあ本当に美人の先輩とデートしているみたいじゃないか。


「晴人君、さっきからこっち見てるけど、私の顔に何かついてる?」

「えっ? ああいや、別に」

「まさか、私に見とれてたとか?」

「そ、そんなわけないじゃないですか」


 声が大きくなりそうなのを慌てて抑えて否定する。俺の反応がよほど面白く見えたのか、部長はうれしそうに笑って、


「いいのよ? 諦めて私の美しさのとりこになっても」

「なりませんし、諦めません」


 というか自分で自分のことを美しいってよく言えるな。


「それにしても」


 このままだと部長に茶化されっぱなしになりそうな未来しか見えないので、話を本題に――今日の目的に戻す。


「絵を見たからって、天川先輩が退部する理由の手がかりとかつかめるんですかね」

「さあ、どうかしら」

「さあって……」


 早速行こうって息巻いてたのは部長じゃないですか。


「意外と本人と話をするよりも伝わってくるものはあるかもしれないじゃない? ほら、絵に込められたメッセージとか言うもの」

「それはわかりますけど」


 仮にメッセージが込められていたとしても、絵心がない俺には読み取れる自信なんてない。美術の授業もあまり得意ではないし。


 けれど、部長ならできるのかもしれない。

 この人はたぶん、俺なんかよりもずっと才能がある人だから。

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