9.New clue
翌日の昼休み。購買から教室に戻る途中で声をかけられた。
「あ、宵山君」
高座だ。ガタイのいい見た目に反して申し訳なさそうにしている。
「どうかしたのか?」
「いや、その……依頼、どんな感じかなと思って」
結果報告にはまだ四日残されているが、やっぱり気になるのだろう。
「悪い。経過は話すなって部長に言われててさ」
天川先輩への聞き取りに失敗したこともあって、『諦め屋』の調査は暗礁に乗り上げていると言っても過言ではない。部長もさすがに「天川さん本人から聞く方法は考え直そう」と言っていた。
そんなわけで、今のところ不調です、なんて口が裂けても言えない。まして相手が依頼人となればなおさらだ。
わかりやすく残念がる高座は肩を落として、
「そっか……」
「ごめんな。でも色々動いてはいるから」
とりあえず、気休めだけ言っておく。これくらいなら問題ないだろう。
「あ、ありがとう」
「じゃあ俺、教室戻るから――」
「あっ、ちょっと待って」
もう話す内容もないし教室に戻ろうと足先に力を込めたところで、再び呼び止められた。
同じように何か言いたげだが、さっきとはまた違う気がする。すると、少し恥ずかしそうな表情を浮かべてから、
「あの、これ……」
一枚の紙を渡してきた。
「これは?」
「今日から、展覧会やってて。そこに僕と天川先輩の絵が展示されてるんだ。もしかしたら依頼の役に立つかもしれないと思って……」
「ああ、うん……」
「そ、それじゃ」
足早に離れていき、あっという間に姿が見えなくなった。そりゃそうだろう。恥ずかしいに決まってる。いくら依頼のためだからって。俺なら「自分の絵を見に来てくれ」なんて逆立ちしたって言えない。
展覧会、ね。
渡されたチラシに目を落とす。とりあえずスマホで写真を撮ってから、メッセージアプリで部長に送った。別段、黙っておく理由もない。
と、間髪を入れずにスマホが震える。部長からの返信だった。早すぎだろ。
『早速行きましょう。もちろん晴人くんも来るわよね?』
拒否権など、俺にあるはずがなかった。




