表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/73

3.Interruption of conviction

 気が付けば俺は、部室の床に正座していた。いや、させられていた。


「さあ~て~?」


 眼前で腕組みしながら仁王立ちする夕月ゆづき。当然ながら制服をちゃんと着ている。けれど顔はまだ真っ赤なままだ。対照的に、部長は普段と変わらず落ち着き払っている。それはそれでどうかと思うが。


「乙女の着替えを覗いたこの変態、どうしてくれようかなー」

「ちょっと待てって。そもそもなんでここで着替えてたんだよ」


 いつからここは女子更衣室になったというのだ。


「ああ、それはね」


 部長はいつもの癖でストールをいじりながら、


「あれを運ぶのを手伝ってもらうために、体操服に着替えていたのよ」


 指さした先――部室の隅には、昨日までなかった小さめの白い箱。冷蔵庫だった。


「なんですか、あれ」

「用務員室のものを取り換えるらしくてね。処分する予定だったのをもらったのよ」

「いや、それをなんでこの部屋に置く必要が」

「それはもちろん、来るべき夏に備えて冷たいものを常備しておく必要があるからよ」


 はい?


「この間までは梅雨で涼しかったからいらなかったけれど、これからどんどん暑くなるじゃない? 依頼人に出す飲み物も冷たくしないと」


 自慢のおもちゃでも見せびらかすみたいに、己の理論を自慢げに話した。

 ほんと、この人は『諦め屋』のことに対しては行動力がすごいな。これを少しでも天文部本来の活動にも向けてくれればいいのに。そうすれば七海先生に変に心配されることもないだろうに。心底そう思った。


「大体、君が私のメッセージどおりにしてくれていたら、こんなことにはならなかったのよ?」

「そうだよ! ハルが悪いんだから!」


 夕月が再び憤慨ふんがいの声を上げ、話は俺への糾弾へと戻った。


「乙女を恥ずかしがらせた罪、どうやって償ってもらおうかな~?」

「待て、まずは弁護人をつけさせてくれ」


 怪しく目を光らせる夕月。後ろで部長はくすくす笑っているだけだ。完全に面白がってるなこの人。


「……あのー」

「ここでは私がほーりつだよ! ハルに弁明の権利はなし!」

「ひどすぎるだろそれ!」


 声高に主張したい。被告人にも人権を!


「あのー!」

「え」

「あ」


 と、声量の大きさの中に幾ばくかの心苦しさがこもった声に引き寄せられ、俺たちは一斉に入口の方を振り向いた。


「え……っと」


 開いたドアに立つのは、猫背気味の男子生徒。さっきの大きな声の主は彼のはずなのに、次に何を言うべきか逡巡している様子だ。


 が、彼はこちらに強張った顔を向けて、言った。


「お取込み中すみません。ここって『諦め屋』で合ってます、よね……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ