2.Unexpected accident
「そろそろちゃんとした活動、しておかないと」
十分以上におよぶ七海先生の熱いトークからやっと解放された後。部室に向かいながら俺はつぶやいた。
今はまだ七海先生を誤魔化せているからいいとしても、いつまでも活動成果がないのを隠し通せる気がしない。せめて何か形にしておかないと。
だけど、部長があの調子じゃあな……。
あの人が真面目に天文部の活動に取り組む様子が、どうがんばっても想像できない。だがしかし、部長にも参加してもらわないことには部としての体裁を保てない。となると。
やっぱり、『約束』で俺が勝つしかないよな。
結局はそこに収束する。『諦め屋』の活動を終わらせるためにも、天文部のあるべき形を取り戻すためにも、それは必要で、達成しないといけない条件。
俺が勝てば部長も大人しく天文部の一員として一緒に活動してくれるだろう。それこそ初めて会った屋上の時みたいに、一緒に天体観測だってしてくれるはずだ。
そうとも。部長だって夜に屋上で星を見るくらいには星を好きなんだから、あとは俺が勝つだけでいい。
「ん?」
と、部室を目前にしたところでポケットが震える。スマホのメッセージアプリに新着メッセージが入っていた。
「部長……?」
『悪いけど、部室に来るのもう少し後にしてもらえない?』
「は?」
『どういうことですか?』
『いいから、諦めて適当に時間をつぶしておいて』
「……」
文字を打つ手が止まる。あまりに一方的で、ちょっとイラッとした。
それに、この文章……諦めて、って書いてあるな。まさか、これで俺を諦めさせようとしてるんじゃあ。
そんな危機感が頭に浮かんだ俺は、部室に行くスピードを速めた。これで俺が部長の返事が来るまで待ちぼうけて、俺の負け、なんてかっこ悪いにもほどがある。
考えているうちに、部室の前までやってこれた。部長がどういうつもりでこのメッセージを送ってきたのかはわからないけど、まだ『約束』は途中だ。部長に従う必要はないのだ。
「部長、どういうつもりかは知りませんけど――」
問いただそう、そう思って勢いよく扉を開くと、
「えっ……?」
「ん?」
「……」
目の前の光景に、硬直した。というか状況を脳内で処理できずにフリーズした。
室内にいたのは、部長と夕月。そこまではいい。
が。
二人とも、下着姿だった。
普段の部室の風景よりも、肌色が占める割合が大きい。おかしいな、視力は落ちてないはずなんだけど。
夕月が身に着けていたのは、リボンのあしらわれたピンクのかわいらしいデザインの下着。前にチラ見したのとは違うやつだな。隣にいる部長のは……無地の黒。彼女の白い肌のおかげで、やけに映える。さすが年上、大人っぽいのをつけてるんだな。
「えーっと……」
「……っっ」
目をぱちくりさせながら、俺の存在を認識する夕月。途端に、顔が茹でだこみたいに赤くなる。
「ハルの……バカァ――――――ッ!!」
世界中に響くんじゃないかというほどの、夕月の怒号。
というか、現状を飲み込めずに思考停止していても、眼前の映像は視神経を経由して脳にと届くんだな。人体って不思議だな、まったく。
なんてことを考えたのが最後。
そこから数分間のことは、よく覚えていない。