13.I never...
「あっ、宵山君」
桜庭先輩とばったり再会したのは、依頼を終えてから数日後のことだった。
「この間は、本当にありがとうね」
「い、いえいえ。俺は何もしてませんよ」
礼儀正しくお辞儀する先輩に、俺は慌てて返す。
そうだ、俺ができたことなんて、何一つないのだ。
そして、部長が行きついた結論を、この人に伝えてあげることもできない。
本当に、俺は無力だ。
「先輩は、これから部活ですか?」
「うん、やっと晴れたから。大会も近いし、練習しておかないと」
「そうですか」
「あっ、ごめんもう行かなきゃ。じゃあ、ありがとね」
ぱたぱたと、踵を返して小走りで去っていく。
小さくなっていく彼女が浮かべていたのは、紛れもなく笑顔だった。これで、夕月たちの心配もなくなって部活に取り組めるのだろう。
けどそれは、諦めたことによって取り戻したもの。
けどそれは、俺が諦めずにいることでは、決して取り戻せなかったもの。
それだけは、受け入れなくてはいけない事実なのだ。
帰り道、俺は少し寄り道をした。
駅前の、交差点にある電柱。
「よしっ」
そこに、一枚の紙を貼る。
俺は諦めない。
桜庭先輩のためにも。俺自身のためにも。
紙に書いた文章を見て、静かにそう思う。
そこには、こう書かれている。
猫を探しています。心当たりのある方は、連絡お待ちしてます。と。