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12.In any way

「……まさか、部長がここまで調べてるなんて思いもしませんでした」


 何度もお辞儀する桜庭さくらば先輩が部室から出ていくのを見送ってから、俺は独り言のように言った。


 結局俺にできたのは、猫は逃げ出して野良猫みたいに彷徨ってどこかにいるだろうと、聞き込みして回ることだけだった。そこまでしか想像できなかった。だけど部長は、全く別の可能性を考えて行動していたということだ。そこまで考えていたことに関して、俺は素直に感服していた。


 が。


「あれは嘘よ」

「……え?」


 目の前が、一気に暗転したかのようだった。この人、今なんて言った?

 嘘?


「えっと……部長?」

「だから、さっき彼女に話した結論は、ぜんぶ嘘」


 ぴらり、とさっき持ち出したぼやけた写真を俺に見せてきて、


「これは、説得力を増すために私が用意した、いわゆる作り物」


 最近は普通のパソコンでもこれくらい簡単に作れるもの、と言って。


「じゃあ……本当は……」

「ええ。きっと彼女の飼い猫は、ソフィーはもうこの世にいないでしょうね」


 さらりと、部長は自分の推理を述べた。そのまま水が下へ下へ流れ落ちるように、言葉を続ける。


「あくまで状況証拠の域を出ないけれど、ほぼ確実だと私は思ってるわ。晴人くんも聞き込みをしてくれたし」

「それが、なんだっていうんですか」


 俺の聞き込みが、部長の推理を裏付けているとでもいうのか。

 すると、部長はカバンから以前借りてきたと言った猫雑誌を見せてきた。


「知ってる? 猫の行動範囲って、だいたい五百メートルくらいなの。猫がいなくなってすぐに桜庭さんが周囲を探したけど見つからない。しばらく経って晴人くんが探しても見つからない。そこから得られる結論は」

「桜庭先輩の飼い猫は……もう死んでる」

「そうよ」


 迷う間もなく、部長は肯定する。


 たしかにこの人の推理は理屈が通っている。俺だって同じ条件のもとで考えれば、そこに行きつくだろう。……でも。


「どうして嘘、言ったんですか? 猫は生きてるなんて」


 そこだけは、何をどう考えても理解ができなかった。


「部長だってわかったでしょ、桜庭先輩があの猫をどれだけ大事に思っていたか! そんなに諦めさせたいんですか!」

「……晴人はるとくん」


 問いただす俺の口調とは真逆。静かに、たしなめるように名前を呼び、こちらを向く。


「わかっていないようだから言っておくわ。『諦め屋』は、依頼人を諦めさせる手伝いをすることよ。推理して、真実を伝える探偵じゃないわ」

「……そんなこと、わかってます!」

「じゃあ、訊くけれど」


 すう、と目を細めて、


「仮に真実を話したとして、果たして彼女はちゃんと諦めることができたかしら? 自分の気持ちに、折り合いをつけることはできたかしら?」

「それは……」

「ここに来た以上、私はどんな方法でも諦めさせるわ。たとえそれが嘘であったとしても」


 窓を背に、太陽の光を背に、部長は言う。いつか『約束』をした時と同じ構図だった。けれど、薄暗い天気のせいで、できた影のせいで。彼女の表情は、感情は、全く読み取ることができない。


 それ以上、俺は部長にかける言葉を見つけることは、できなかった。

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