(仮)ありとあらゆる属性を極めた私は異世界を生き抜きます! ~演技派社畜の勘違い冒険譚~
タイトルを思いついたので書いてたらこんな感じに。
どうしてこうなった…
「…………はっ!」
あれ?私、何でこんな所に寝てるの?
確か昨日は久しぶりに家に帰ってベットで寝たはず……
記憶が曖昧なのは、仕事の納期が迫っていたせいで1週間で7時間ほどしか眠れていなかったのが原因だろう。
今のご時世そんな会社ねーよと思うかもしれないが、実際にあるのだから仕方がない。
辞めたくても辞められない、それがブラック企業の恐ろしさである…
話が逸れたが、私は何故か牢屋に入れられていた。
テレビや絵でしか見たことは無いが、目の前には天井と床を貫く金属製の棒と錠前があるので間違いないだろう。
もしかして、帰る途中で何かトラブルを起こして警察のご厄介になったのだろうか?
分からない事だらけだが、記憶が無いのでしょうがない。
誰か人が来たら事情を説明しよう。
……………
…………………
……………………
「誰も来ないわね…」
感覚的に丸1日は経っているはずだが、一向に人が来る気配は無い。
先ほどからお腹が悲鳴を上げているから、せめて何か食べたいのだが…
そして更に丸1日ほど経過して漸く人が訪れた。
警察官が来たのかと思ったが、目の前の人物は鎧姿のコスプレをしていた。
顔立ちも外国人っぽいし、私が眠っている間に海外にでも運ばれたのかな?
「何で俺が担当なんだよ!?結婚したばかりだぞ!こんなの嫌がらせだろ!!」
目の前のコスプレイヤーは日本語が流暢だった。
きっと日本のアニメを見て頑張って勉強したのだろう。
……っと、そんな事はどうでも良いわ!
早くここから出して貰わないと!
「あの!?貴方がここの責任者ですか?」
「うわあ!しゃ、しゃべった!?」
酷い!人をまるで珍獣みたいに!
「私をここから出して下さい!私は何も悪い事なんてやってません!」
もし悪い事をやっていたとしても記憶が無いのでどうしようもない。
私は冤罪を主張した。
「た、隊長に……。隊長ーー!!」
男は叫びながら出ていった…
程なくして、さっきの男は別の男を連れて来た。
その男も鎧姿のコスプレをしている。
もしかして、私って何かのイベントに巻き込まれてるの?
私は学生時代にオタク文化をかじっていたから、彼らに合わせようと思えば合わせられる。
強制的に連れて来られて丸々2日放置という扱いは受けたが、五体満足で家に帰してくれるなら問題ない。
逆にその間にいっぱい眠れたので、今は気分爽快である。
どんなシチュエーションだと彼らは満足するだろうか?
せめて台本くらい用意しなさいよ。
私が悩んだ挙げ句に選んだのは……
「お前は何者だ?」
「私は神の御子。世界を安寧にするため遣わされました。先ずはそこの貴方」
「お、俺か?」
「そうです。早く愛する妻の元にお帰りなさい。貴方の妻は今夜何者かの毒牙にかかる恐れがあります。もしかしたら貴方をこの牢の見張りに推薦した者かもしれませんね。今ならまだ間に合います。貴方が今夜妻の側に居ればその者も手は出せないでしょう……」
「そ、そんな!ルーシーが!?隊長、お願いします!」
「ダグラス、落ち着け!この者は自称しているだけだ。それにお前を推してきたザックスはそんな奴ではないだろう?」
「いや!今思えばあいつは最初に妻に会った時から怪しかったんです!俺が少し目を離すといつの間にか妻の隣に居て話しかけてました!妻も俺の知り合いだからと我慢していたそうですが、怖がっていましたよ!あいつは今日は非番だし、俺は明日の夜まで帰れない。俺がここでぼーっと過ごしている間にルーシーが襲われでもしたら……。隊長、帰らせて下さい!命令違反でクビにして貰っても構いません!お願いします!!」
「……そうなのか。わ、分かった。そこまで言うなら2人付けてやるから、ザックスが来るかどうか潜伏して確認しろ。変な動きをしたら拘束して構わん!」
「隊長!ありがとうございます!」
そう言ってダグラスさんは飛び出して行った。
「さて、自称神の御子とやら。先程の発言が嘘である場合は、お前の立場が一気に悪くなるが構わんのだな」
私のアドリブにダグラスさん達は演技とは思えないほどの返しをしてくれた。
もしかして有名な劇団とかなのかしら。
でも、まだ続くみたいだから合わせるしかないわね。
「嘘とは異な事を。私はこれから起こる事象を伸べたに過ぎません。ですが貴方の対応であの者は救われ、不穏な者を裁けるのです。その英断を誇りなさい」
「ふん!口では何とでも言えるからな。まあ良い、後は結果次第だ。これでも食って待ってろ」
そう言って、私の食事を置いて隊長さんは出て行った。
もぐもぐ…
くず野菜のスープに固いパンを浸して食べる。
凄く凝った演出だけど、凄く不味いわ…
お腹も満たされたので、また眠っていると急に牢の松明に火が灯され叩き起こされた。
「御子様!ありがとうございます!お陰でルーシーを守る事が出来ました。本当にありがとうございます!!」
「良いのですよ。それより、礼はしっかりと対処なされた貴方の上司に述べなさい」
「隊長、ありがとうございます!」
「……本当に神の御子なのか?」
「貴方が疑うのも立場上当然でしょう。ですが私はこれからも世界の人々に神のお告げを伝えていかなければなりません。この場に留まってはその機会も失われます。貴方の英断を期待していますよ」
「……分かった。いや、承知致しました。自分の一存では決定出来ないので少々お待ち下さい!」
「隊長!俺も連れて行って下さい!この御方はもっと沢山の人々を救える御方だ!こんな所に閉じ込めておくなんて神への冒涜です!御子様、待っていて下さいね!」
そう言って2人は出て行った。
ダグラスさんの演技は世界でも通用する気がする。
さっきなんて本気で泣いて喜んでいる様に見えたわ。
これで終わりかな?
あ~でも、また明日から会社に行くとなると急に憂鬱になってきた。
初めてにしては上手く演技出来たと思うし、私をこの団体にスカウトしてくれたりはしないだろうか。
こうして無事に私は外に出ることが出来たのだが、まだ終わりでは無いみたいで、用意してあった旅の道具一式を受け取り、ダグラスさんに外門まで送って貰った。
途中街を歩いていると、昔の西洋風の建物が並んでおり更には獣人やらエルフやらドワーフなどのコスプレをした人達を見かけたが、まさかひとつの街を舞台として用意出来る程の団体だったとは……
何故、私がこんな所に呼ばれたのかは分からないが、求められる案件は死ぬ気でやるのがブラック企業の社畜である。
演技している時は案外楽しかったから、次は別の役でもやってみたいわね。
私は街から一歩を踏み出した。
その後、暫くして気付いたのだが。
なんと舞台は街だけじゃなくてひとつの国ごとだったわ!!
主人公の名前は…