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株式会社あの世

作者: そうのすけ

少年はニートを決めこんでいた。

むずかしい顔をして部屋の壁をながめていた。

少年はお金が必要だった。

でも、少年は働きたくなかった。

なぜ、竜を討伐したり、エクスカリバーを見つけたりするのではなく、

木箱を貿易船に積み込む作業をしなくてはいけないのか。

少年は仕事に行くかわりに図書館に通っては、

剣と魔法の伝説をあらんかぎり借り込んでくるのだった。


「今日も仕事をせずに、堂々とひきこもるぞ。

世が世なら、じぶんは選ばれしものの器なのだ。

港湾で木箱を積み込む作業なんかしたら、お金に汚されてしまう。

聖なる無垢を守るものだけに、神はささやくのだ」

そう少年は思った。


少年は部屋の壁をながめるのをやめて、

図書館から借りてきた魔法に関する本を開いた。

そこには不吉な魔法陣が描かれていた。

魔法陣の中央には目が描かれており、

その目がニヤリと笑ったかと思うと、

チョンチョンと肩をつつかれた。


「よう」、そこには知らない男がいた。

腕にはタトゥーをしていて、鼻にはピアスをしていた。

少年はひっくり返りそうになった。

「だ、誰ですかあなたは!ここはぼくの部屋ですよ!」

「いや、誰の部屋とか、そういうのいいから」

知らない男はベッドに腰かけた。

「意味がわからない!早く出ていってくださいよ?」

少年の声は裏返っていた。

「この世界はおれの世界だから、

おれの世界の中におまえの部屋があるだけだから」

「はぁ?もうダメだ、話が通じない!

おーい!誰かー!不審者がいるぞー!」

しかし、家にいるはずの母親も、

窓の外も、物音ひとつ返さなかった。

「だから、そういうのいいから」

知らない男は冷静だった。

「おかしいな、みんなどこに行ったんだろう?」

「じぶん、悪魔なんで」


しばらくして、少年は居を正して男の前に正座していた。

どうやら男はガチの悪魔だった。

手の上で炎を出したりしたし、

初対面の少年の過去を知っていたりした。

しかし、少年は「ついに時代が来た」と思った。

ワンチャン資本主義崩壊しないかな、と期待した。

合理的なものの限界が今目の前にいる。

ここから世の中がめちゃくちゃになって、

みんな魔法が飛び交う世界をサバイブするようになるかもしれない。


悪魔は少年の思考を全部読んでいた。

「おまえはお金をかせぎたくない。

世の中をめちゃくちゃにしたい。

おれ、いい話持ってるぜ」

少年は思った。

マジでか。

「そう、マジ。

お金ってどうしてできたか知ってる?」

少年は思った。

古代人が貝殻とか石とかで初めて、それで…。

「それ、ウソ」

少年は思った。

マジか。じゃあでも、どうやって…。

「それをおれがこれから教えるから、聞け」


✳︎


「大昔、世界が無だった超昔だ。

世界は無だった。

そこに天才が現れた。

神だ。

神はなぜ神か。おまえわかるか」


なぜ?全知全能だから?えらいから?


「おまえ、センスなし。

神は無という究極のブルーオーシャンを開拓した。

無の中のただひとつの有になった。

分母は無、分子は一、答えは?」


無限…。


「そう、おまえ賢い。

ではどうやって、無から有になれたのか。

そこ、あいつ神、

あいつ、未来から力使った。

今、世界は無か?」


いや、無じゃないと思います。


「そう、有。

でも超昔は無だった。

あいつ、未来から神の力で無を有にした。

だから、今、世界は無じゃない」


???


「まあ、この辺はわからなくてもいい。

ここまではあいつのセンス。

ここからはあいつの努力。

あいつ、神の力を決まった呪文で呼び出せるようにした。

『デイ』と唱えると明るくなったり、

『ナイト』と唱えると暗くなったり、

便利になった。

そこからさらに、条件魔法や制御魔法も作った。

『もしも』、とか、『くりかえし』が使えるようになった。

そして、それらの魔法文ソースを使って、

まず、この世を開発する足場として、

あの世の開発に着手した。

あの世には自分のこの世開発を支援する『天使』をたくさん作った」


悪魔もその時に作ったのかな。


「まあ、その話はあとでする。

神はどうしてこの世の開発にそんなに精を出したと思う?」


さあ…。自分の存在証明かな。


「近いな。自分が善い神であることを確かめたかったんだ。

人間でいう承認欲求というやつだな。

人類を徳化できれば善い神である証拠になる。

そこで神は人類を徳化することを自分のライフワークにした」


なんだか、自分史を書いてるうちのおじいちゃんみたいだなあ。


「そう変わらんよ。

とにかくあいつはブルーオーシャンを開拓した。

それだけのやつだ。

ところで、人類の徳化はうまく行ったと思うか?」


うーん、そうそう都合よくはいかないんじゃないかな。

今現在、人類が徳に溢れてるとは思えないもの。


「そうだな。

人類はふつうに愚かだったし、

愚かであり続けた。

100年経っても、1000年経っても、

本質は同じだった。

そこで神はイラッと来た。

抜本的改革が必要だと思った。

そして、神は、天使たちを動員して、

100万行以上の魔法文ソースからなる、

巨大システムを作った」


そんな話全然知らない。


「おまえの生まれるよりずっと前の話だ。

言っただろう。お金が生まれるよりも前なんだ。

そして作られたのが、GodFMだ。

これは神のお告げ、つまり、

なにが良いことでなにが悪いことか、

人間の頭に直接聞こえるようにしたんだ。

まあ、割と脆弱なシステムで、一部の人間しか聞けなかったけどな」


少年は、古今東西「神の声を聞いた」と言って、

世界宗教を作り出した聖人たちの名前を思い浮かべた。


「それと、Godgle。

これはどんな質問にも応えるシステムだ」


少年は、聖壇の前で手を合わせて、

神と語り合っているひとの姿を思い浮かべた。


「あとは、Godzonだ。

これは徳行を重ねたり、

お祈りをたくさんすると、

ポイントがたまって神から恩寵をもらえるシステムだ」


少年は逆境においても神を捨てず、

祈り続けて運命を味方につけた聖典中の人物たちを思い浮かべた。


それで、お金の話はどうなったんですか?


「待て待て、そう『欲しがる』な。

おれ、悪魔。おまえ、人間。

なにを話すかはおれが決める。

それで人間はかなり良くなった。

少なくとも、反省をするようになった。

反省の基準ができたからな。

しかし、そのシステムは良すぎたんだ」


どういうことです?


「あまりにもひとびとが祈るように、徳を積むようになった。

それによって、神の力は強まった。

神の存在は、神が『いる』と思うものが多いほど強まる。

そして、あの世で使える魔法力の残高も増えた。

神は大喜びだ。そして、もっとそのシステムを洗練させるように、

初期の開発メンバーをえこ贔屓し始めた。

こうして、天使たちの間に格差が生まれ始めた。

GodFM、Godgle、Godzonは『3G』と呼ばれ、

天使業界の超大手になった。

『3G』にあらずんば天使にあらずだ」


なんだか人間界と似てるなあ。


「人間が自分に似せて神を作ったと言われるが、

神が自分に似せて人間を作ったんだ。

そりゃあ似てくるさ。

おれはあの世でニートだった。

天使学校も中退したおれが『3G』に入れるわけがない。

おふくろは就職しろと言っていたが、

プライドの高いおれは『3G』じゃなきゃいやだった。

おれはいじめられて退学したが、

魔法文ソース作成は誰にも負けなかったんだ」


ぼくもニートだ。


「一緒にするな。

おれ、頭いい。おまえ、バカ」


すいません。


「だいじょうぶだ。

そこでおれは、伝説を作った。

もうひとり、『神』を作ったんだ。

最初はみんなに笑われたさ、

でもおれはやった。

寝ても覚めてもそのことしか考えなかった。

全部をそこに捧げた。

やがて、100年が経った。

完成しなかった。

というか、全てが間違っていた。

最初からやり直した。

また、100年が経った。

まだ完成しなかった。

でも、基礎ができた気がした。

それから500年経っても、1000年経っても完成しなかった。

しかし、ある日、『神』は動いた。

おれはやったんだ」


おお。


「問題は、その『神』に祈ったり、

その『神』の教える徳行を積んだりするひとがいない事だった。

おれは人間に姿を変えて、めっちゃ布教した。

何度も焚刑に処されたが、天使なので何回も復活した。

やがて、おれの作った『神』の方が、

デザイン性に優れていることが理解されてきた。

しかし、人間界はそれによって当然ふたつに割れた。

何百年も続く宗教戦争が起こった。

おれは、とにかく相手方を殲滅するために、

人間に直接魔法文ソースを書けるようにさせた。

彼らはこの世では『魔法使い』とか『魔女』と呼ばれるようになった。

そして、彼らはもともとの神の軍勢を殲滅し、

祈りや徳行のパワーはおれの『神』だけに集中するようになった」


もともとの神はどうなったんだろう?


「零落して、モンスターや悪魔と呼ばれるようになった。

そして、魔法を覚えた人間たちがそいつらを成敗していた。

おれは更なる『ビジネスモデル』を考えた。

ここで『お金』というものが初めて歴史に現れる。

おまえを今苦しめているものだ。

お金はなにかを担保にしているだろう。

今だとたとえば黄金とかだ。

おれはあの世にプールされている魔法力の残高を、

『お金』の担保にしたんだ。

みんなが祈ったり、徳を積むほど、魔法力は増える。

魔法力が増えれば、この世でできることも増える。

この世でできることが増えれば、『お金』も価値を増す」


なんだか今と違いますね。


「そうだ。なぜ違くなったのか。それが問題だ。

零落した神や天使である、モンスターや悪魔が、

おれの『ビジネスモデル』をダメにするために、

ひとびとに悪徳を広め始めたのさ。

ひとびとは積極的に堕落させられたことがなかったから、

瞬く間に悪に染まった。

『お金』でひとの心を買うことを覚えさせたんだ。

すると、世の中には人間不信と驕りが蔓延し、

祈りや徳行は廃れた。

すると、あの世にいるおれの『神』へ送られる魔法力も底をつきた。

そしておれも天使から零落して、悪魔になったってわけさ。

ひとびとは魔法が使えなくなっても、『お金』という悪徳だけは、

廃止できなかった。

どうやら、『お金』は始まることはできても、

終わることはできないみたいなんだな。

それで、しかたなく今の黄金なんかが担保に使われているのさ」


ふーん、ずいぶん複雑な歴史が大昔にあったんだなあ。

それで、どうやって世の中をめちゃくちゃにできるの?


「言ったろ、『欲しがる』なって」


すいません。


「だいじょうぶだ。

まず、おまえからひとびとに、祈ることを復興させるんだ。

そうすれば魔法力があの世に蓄積されて、

またひとびとが魔法を使えるようになる。

そうすれば、倉庫で木の箱なんか運ばなくてもいい。

そういう作業は、魔法でフルオートにできる」


具体的にはどうすればいいんですか?


「いい質問だ。

まず、祈るための『神』の像を買え。

それと、聖典、これもマストだ。

これも買え。

あと、跪くためのマットな、これもないと不便だから買え。

絶対あったほうがよかったって思うぞ。

あと、布教のためのストックの聖典と像な。

これも自腹だ。

魔法を使うためにはこれくらいの出血は覚悟してくれ。

なに?金がない?

働くんだよ」

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