15 この使節ホンマ大丈夫か?
要塞都市ギネチア。城下町と工業地帯、そして水路と金属管の入り混じった、あまりに逆時代錯誤な光景。周辺国家の中世的世界観からかけ離れ過ぎているその光景が、ローズ達の眼下に広がっていた。
「ハハハ、どうだ少年!よく見えるか!」
「よく見えますけど、もう少し声を抑えていただけませんか……恥ずかしいので……」
「手厳しいな、ワハハ!」
ローズ達は、身体がデカければ声もデカい巨大ウンディーネのソフトハット*に乗せられていた。
バレットは、高所から見る物珍しい景色である事と、異質な都市風景である事のダブルパンチで大はしゃぎしていた。……そして、チャノキは、外の景色を見る事もせず何故か帽子の隅っこでうずくまっていた。
「チャノキさん、どうかしました?揺れで酔いましたか?」
「あ、違うの、心配しないで……」
「……?」
ローズは疑問を抱きつつも、景色の観察に戻っていった。
「いやあ、偶然にも行き先が同じだったとはな」
あの後、行き先を聞かれ王宮に向かう事を告げたら、巨大ウンディーネさんもその方角に向かう所だった事が判明した。向かう先が同じならと、帽子に乗って行く事を提案されたのだ。
「手間を取らせるのも悪いですから」と、最初は断ったのだが……子供三人程度の重量など帽子より軽いという説得とやたらしつこい謎の熱意にゴリ押されてしまい、最終的にはお言葉に甘えることになってしまった。
というかこの帽子、何故か乗せやすいように足場や手すりが整備されている。乗せ慣れているのだろうか……
「まあ、長旅で疲れていたので正直助かりましたけど……いいんですか?」
「?……何がだ?」
「貴国からの招待とはいえ、他国の使者に首都の詳細な構造を見せてしまっている事です。推測ですが……ウンディーネの遊泳能力を憂いていた事と王宮の方角に用事があった事、私達の存在を知っていた事と先程見せていただいた膂力と体格から推測するに、あなたは軍人か、もしくは軍に関わる立場の方なのではないですか?」
「……フフ……まあ、そんなところだな」
「……?」
何か隠し事をされたのは分かったが、それこそ軍の機密を無意味に深掘って揉め事の種を作るわけにもいかないので黙るしかない。
「ぐ、軍人っていうかこのかt」
「ゴホーン!!!!!あー、口に鳥が入ったー!!!!!」
「くしゃみの規模がデカくないですか!?」
チャノキの言及は大音量咳払いにより掻き消され、ローズとバレットの耳に入ることは無かった。そして言及するなという無言の圧を感じ取ったチャノキは、完全に押し黙ってしまった。
ローズの関心が、口にバードストライクというスケールのデカさ、そしてくしゃみの突風によるそこそこの被害に移った事で、チャノキが追及される事は無くなった。その事にチャノキは安堵しつつも、「なんであんな露骨な咳払いで誤魔化されてるの!?」と心の中で突っ込んでいた。
勿論、ローズは揉め事を起こさないため、敢えて隠された事項は追及しなかった……というわけでは、なかった。ローズはマジで普通に誤魔化されていた。妙な所でポンコツであった。
「少年、鋭いな」
「仮にも使節ですから!」
ドヤリングしているが、10秒前に誤魔化されたポンコツであった。この使節、チョロ過ぎである……
*ソフトハット……頭頂部が凹んだUFO型の帽子。別称中折れ帽。別の意味に聞こえて良くないと思います。
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