12 自分のせいじゃないみたいにローズは言ってるけどローズも四割くらい悪いと思う
「さ、少し休んだら気を取り直してウンディーネ王の王宮に向かいましょうか。ずいぶん時間を取られてしまいました」
ウンディーネ王の王宮は、ゲネチアの首都たるギネチアのさらに中央に存在する。
ウンディーネの王は、あくまでウンディーネのみを統べる立場である。他種族の者に対しての強制権は、保有していない。名目上は多種族からなる共和制国家であるゲネチアにおいて、絶対的な最高権力者の立場に立っている訳ではない……とされていた。
……しかし、ウンディーネはゲネチアの軍事と産業両面において最重要種族であった。水源も掌握されている以上、ウンディーネとの対立がすなわち種族全体の危機に直結しうる事を各種族の長たちはよく理解していた。
「それにしても、まだ距離もあるのに随分大きな王宮ですねえ……それも、首都そのものが要塞だなんて」
水上都市であるギネチアは、壁、段差、砲台が至る所に設置されており、都市そのものが巨大な要塞都市として作り上げられていた。
中心にある王宮をこれでもかと防護する、強大な王権による首都の頑強な要塞化。特に、不思議な所がある話ではない。……ここゲネチアが、一人の王を頂点とした君主制国家たる「王国」では無く、数多の種族の代表達による合議によって成り立っているはずの「共和国」である、という事を除けば。
この巨大で堅固な王宮が、国家の頂点たる君主の王宮でなければ、一体何だと言うのだ。
「共和しているようには……とても見えないんですけどねえ」
ローズの抱いた疑問は至極真っ当なものであった。ゴブリンやエルフといったウンディーネより数の多い種族達の長ですら、このような豪勢な居城を持っている訳ではなかった。というより、このような巨大な建築物は、この王宮と、ある遺跡を除いてゲネチアにそもそも存在していなかった。
種族の長たちは、精々、武器や財宝、文献といった種族としての財産を長の責任において預かっておく貯蔵庫と、種族の代表として恥ずかしくない程度のささやかな私邸を持っているに過ぎなかったのだ。
それに対して、首都の中央に巨大な王宮を持ち、それを取り囲む要塞都市を持つウンディーネ。これを見て、種族間の平等な合議が成り立っているとは、到底思えないだろう。
「あ、あはは……」
ゲネチア国民として実情を知っているチャノキは苦笑いするしかなかった。
蒸気機関成立後のゲネチアは、各種族の長たちがウンディーネの顔色(水色)ばかりを伺うようになってしまい、共和制はほとんど形骸化してしまっていた。
名目上はまだ共和制を維持しており、他国にもそう言い張ってはいるものの、ゲネチアの政治体制の実態は共和制として定義されうるものとは大きくかけ離れていた。
ウンディーネこそが事実上の王。他の全ての種族の命運は、ウンディーネ達の匙加減一つ次第。それが、ゲネチア共和国の真の実態であった。
ウンディーネが温厚な種族である事が、共和制が完全崩壊しないただ一つの理由であった……
「は、離せクソババア!!!鬼婆!若作り!加齢臭がきつい!」
「はなせー!!!」
……ん?何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「……さっきの子達の声じゃない?」
そうチャノキさんが推測する。言われてみれば、この生意気な感触の声はさっきのウンディーネの子供達っぽい。
「見に行ってみます?すぐ近くみたいですし」
「え、嫌ですよ。面倒臭いです」
「即答!?」
バレットさんが提案してきたけど、面倒臭かったので即座に断った。
「大方、さっきみたいにしょうもない悪戯をまたした結果、大人に捕まって叱られている……どうせそのあたりでしょう。構う程の事項ではありませんので」
「えー、でもー!」
バレットさんは不満そうにしている。
「面白そうだからってあらゆる物事に首を突っ込みに行かないでくださいね?」
「ぎくぅ!!!」
「えっ、そんな理由なの……」
いつの時代であろうとも、物語の主人公は野次馬根性の世話焼きお節介と相場が決まっている物だけど……ちょっとバレットさんは野次馬要素が強過ぎる。
「べ、べつに叱られている所を見て爆笑したいわけでは……」
「うわっ!」
「うわっ!!」
ズザーッ!!!
「一瞬で距離を取らないでください!」
思わずバックステップしてしまった。チャノキさんは私の倍の距離引いてた。
ええ……この主人公腹黒過ぎる……
「教育を間違えたんでしょうか……それともお嬢様の影響で……ブツブツ……ブツブツ……」
原作のバレットさんは、幼少期ではないとはいえ腹黒要素は特になかったはずだ。それを、こんなに腹黒にしてしまった……?ごめん、シナリオライターさん……
「えっ、お嬢様って当主様だよね、その人もこんななの……」
「お嬢様がディ◯ルガでバレットさんがパ◯キアって感じですね。それぞれギ◯ティナとダー◯ライを取り込んで邪悪になりました」
「よく分かんない例えだけど碌な事なさそうなのだけは分かったよ……」
今明かされる衝撃の事実に、チャノキさんゲッソリ。
「……あれ?」
「どうしました?」
「声、近付いてきてません?」
言われてみると、騒がしい声はさっきより大きく聞こえてきている。相変わらず「離せババアー!!!」「おにちくー!!!」とか騒いでいるままだ。というか……騒いでる時間長くない?
「確かに……」
「面倒が向こうからやってきた……」
バレットさんを引きずってさっさと逃げようとする。しかし、物凄い力で踏ん張られてしまって動けなかった。こ、こいつ……
仕方がないので、面倒事に備えて構えを取った。
「おや、ウンディーネでもドワーフでもなくて人間とゴブリンかい?」
声のした方向の脇道からあるウンディーネが一格出てきた。子供達の「離せー!!!」という声は聞こえるが、姿は見えない。
そのウンディーネの姿を見た私達は……一斉に固まってしまった。口がアングリと開き、アホ面を晒してしまう。
「こいつらが逃げてたから、悪戯のしっぺ返しでも喰らったんだろうと思って逃げてた方向の反対方向に連れてきたんだが……聞いてはいたが、本当にちびっこい使節団達だあね」
そう言うと、そのウンディーネは手のひらを裏返し、右手に持っていたそれを見せてきた。さっきの子供達が、彼女の指に摘ままれてジタバタもがきながらぶら下がっていた。
そのウンディーネの左手は脇道の住居の屋根を掴んでいる。そこそこ幅がありそんなに窮屈な脇道ではないというのに、彼女一格の通行でその脇道は完全に塞がってしまっていた。
彼女の体からは沢山の水滴が滴り落ち、立っている場所に水たまりが出来ている。もちろん、一般的なウンディーネの場合、そんな事は起こらない。そんなに水分を常時失っていれば、すぐにそのゼリーのような肉体がしぼんでしまうだろう。精々、足の下が湿るくらいだ。
使節団の存在をなぜ知っているのか、その子供達と知り合いなのか……後から考えてみれば、色々聞くべき事はあったのだろう。しかし、初見で抱いた感想が、その疑問を掻き消してしまった。
「で、で……」
「ん?」
「「「でっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?!?」」」
そのウンディーネは、脇道の三階建ての建物ですら優に見下ろす、巨大過ぎる体軀を持っていた。身長10mはあろう理不尽過ぎる体軀を持つ、あまりに巨大なウンディーネが、そこに立っていた。
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