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22 くたばれお父様

「男に興味無いリコが乙女ゲーなんて買ってきたから天変地異でも起こるかと思ったら、ハナの推しゲーのリメイクかあ」

「私が乙女ゲーやるのは天変地異に該当する事なの???」


 久々のオフにテレビの前に並んでいるのは東京幕府初代将軍猿華理子(りこ)と二代将軍猿華真理(まり)だ。真理は元々理子の友人だった人物が養嗣子として迎えられた形のため、年は2歳しか離れていない。


 起動しているゲームは『灼熱のリザレクション リバース』だ。『灼熱のリザレクション』のリメイク作品だが、ストーリーや設定、イラストが多数追加されボリュームが倍以上になっている。


「こーゆーのマリの方が詳しいでしょ、つきあってよ」

「はいはい」



 ★★★★★★★★★★★



 今日は馬車でバルク区域を案内してもらっている。


「あの馬が引っ張っている農具は何だ?」

「重量有輪犂という農具です。複数の板で土を効率良く深くまで耕せます」

「この鉄の管は……水道か?リューマ帝国にも鉛の管を使ったものがあると聞いたな」

「鉛の管を使った水道はリューマ帝国にもあるけど……鉛の毒を考えると新規に作るなら鉄管の方が良いわ。この水道のすごいところはそれだけじゃなくて、緩速濾過*と言ってね、板で区切って砂を敷いた溜め池を通してその下から貯水槽に繋ぐ事で、そこに住むスライムや小さな生き物にチフス等の流行り病の原因となる瘴気を取ってもらう事が出来るの。領民へのスプーンと弓型フォークの奨励と合わせて口から入る流行り病を大きく減らせるわ」

「後でその溜め池も見に行っていいか?あれは……鍛冶場だよな?随分大きいが」

「いいわ、見に行くわよ☆その鍛冶場は資本を投入して半国営化してるの。兵器やら水道やら何にでも使うから開発の要よ☆」


 あの騒動の後エルムント家について色々調べた為、パンジー嬢が何やら様々な事業を行って領地を発展させているという話は聞いていた。というより、その情報によってパンジー嬢に更に興味が湧いてエルムント領行きを決心したというのが正しい。

 聞いていたが……ここまで目覚ましいものとは思っていなかった!

 整備が進んだ街道や大規模な鍛冶場、斬新な技術。あちこちで子供だけでなく大人も混じって遊んでいる鋼の独楽や、途中で観た変わった筋書きの演劇。それらもパンジーとローズの発案によるものらしい。

 牧草やカブ等を挟んで地力を回復させる農法を普及させるため、種子の提供や作物の一括買い取り、耕作指導や補助金の供出まで行っているそうだ。


「随分と溜め込んでいるようだなあ?帳簿に妙なところがあったぞ」

「い、いえそれは……」

「地代緩和の告知も人頭税の撤廃も領民達は聞いてないと言うしなあ。私が告知し忘れたと思ったぞ?残念だったなあ私直々の調査じゃ賄賂も渡せなくて」

「ぐ……」

「言い訳はこの前監査したばかりの裁判所でたあっぷり聞いてやろう。()()()財を盗んだ罪は重いぞ?連れて行け!」


 多種の税緩和で経済発展を促すついでに、告知を怠った悪代官を一斉摘発で一石二鳥。収賄の摘発もおまけ付きだ。


「ポプラ帝国とも積極的に交易をしたいと考えているの。サリー、商会への口利きとポプラ硬貨の融通を頼めるかしら☆」

「それくらいなら今の僕でも出来る。是非協力させてくれ」


 通商へも販路の整備や税軽減で積極的に介入。

 商人ギルド**の担っていた品質保障や相互扶助等の義務を肩代わりする代わりに、半ば強制的に領内での価格、生産、流通への不介入を約束させた。本来そのような要求は経済を掌握する商人ギルドには通らないのだが……魅力的な品物や安価な品物を多数保有しているパンジー側はむしろ相手を選ぶ側であり、商人ギルドは条件を飲むしかなかった。

 反面手工業ギルド**とは積極的に接近。教育と技術供与を餌に労働力を集め、工業生産を更に大規模化させた。憎き商人ギルドの不介入が約束されているのも大きかった。


「この平地は何だ?あそこにあるのは……げえっ、爆撃機とやらか」

「これは安定した助走と着陸の為の道よ☆訓練次第少しずつ操縦手を増やすわ。勿論、動力部や全体の組み立ては私達が担当して極秘にしてるから他所には真似出来ないわよ☆」

「帝国の判断は正解だったな……」


 念話水晶を共振石と組み合わせて超小型化した通信機とやらも詳細な製法は極秘にされている。爆撃機と併せてこれだけでも軍事的優位性は相当のものだが、これだけで済むとは到底思えない。

 関係悪化を即座に阻止した帝国の判断は賢明だった。


「これを全部二人でやったとはなあ!現地に赴いての指導も積極的にやったと聞いてるぞ」

「いえ、私は相談に付き合ったのが主で、実際の交渉や雑務はパンジー様が大半を占めています。指導力も行動力もお見事でした」

「ええ、私は見てるだけでしたがパンジー様の働きっぷりはとても精力的な物でした」

「ふっふーん☆すごいでしょ☆私も博識なサリーには自慢しがいがあるわ☆」

「本当に興味を尽きさせてくれない奴だ。跡継ぎの座ももう惜しくも何ともないな……」

「あら、でも爵位はしっかり吸収させてもらうわ☆」

「ちゃっかりしてやがる」



 ★★★★★★★★★★★



「他人に聞かれる恐れのないここで言いたい事があります。パンジー様、御父上にお気を付け下さい。何やら企んでいる気配がします」


 馬車でバレットがそう告げてきた。開発や改革の成果が現れ始めてからパンジーの父親であるイヴァン・エルムント伯爵の態度が妙に好意的になったのだが、平民ながら政治的機微に目敏いバレットはしっかり企みに勘づいていた。

 そもそも実の娘を片田舎の屋敷に置いて放置していたというのに今更もいいところだ。伯爵邸に戻らないか、という提案をまだ改革が中途だと突っぱねたばかりなのだ。大方バルク区域の評判によって、重税な上治安も悪い直轄領の悪評がより高まるのが気に食わないのだろう。


「ええ、私も気付いているわ。お父様に愛着も無いし、いずれ潰す」


 そうあっさりと言い放ったパンジーに車内は騒然とし……なかった。


「……まあ、やるならしっかりやれよ?しっぺ返しを喰らわんようにな」


 権力争いに疲れた、サリー。


「平民家庭だっていなくても収入以外はどうにかなりますしねえ。貴族家なら収入も変わりませんし、尚更ですね」


 孤児のローズ。


「子供にすら憎まれるならそれは教育の出来なかった親か保護の出来なかった親が悪いんですよ」


 親をその手で殺した、バレット。ちょっと恨みが強めなようだ。

 親の愛をまともに受けた者はこの空間にいなかった。

*緩速濾過……1時間に10〜20cmという超低速の流速で砂層を通し、微生物の膜や水棲生物の働きで浄水を行う浄水法。勿論前世ではスライムはいない。

現在先進国で主流である砂と凝集剤を用いた急速濾過と比較すると、広大な面積と時間を要する、生物を利用するため高濃度汚染や高濁度、水質変化に弱い等の欠点があり先進国での採用は少ないが、管理の容易さや薬品が不要な事、細菌除去率を含む高品質な浄水の確保しやすさから発展途上国では採用率が高い。

**ギルド……実際に中世に存在した、同業者同士の自治組織。

相互扶助や営業・流通の融通・人材の斡旋・教育・品質管理等を担う代わりに、価格の談合や販売統制、政治介入を行い利益を吊り上げる独占組織。

認可外の商売敵に対して政治的圧力をかけたり特権的な流通を行ったりと強権的な性質が目立つ。

大商人によって買い叩かれやすい手工業ギルドは商人ギルドを敵視している。


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[一言] 排除確定の父親ェ……
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