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20 かわいさで負けてる気がするぞこのやろう

 占領したトーグ城周辺の領地はエルムント本家に奉呈した。

 直接の部下ではないエルムント兵を一時的に借りて占領したというのもあるが、パンジー様曰く占領統治が面倒なのが一番の理由だ。そもそも、開発が進んできた現居住地バルクでの権益を頑強にしてもらった方が都合が良い。

 というわけで、替わりにバルクでより自由に動けるようにしてほしいと提案したパンジー様は、晴れてエルムント伯爵領バルク区域の正式地頭となった。

 そこそこ広い領地だが、獲得した領土の方が大きいのであっさり認められた。幼い地頭であり不安の声も上がったが、山火事での功績やここ最近の発展の成果もあり歓迎の声が勝った。

 これでより改革を進めやすくなるだろう。



 ★★★★★★★★★★★



 白い馬車が屋敷の前に着いた。来た!


 ガッ


 ドンガラガッシャーン!(昭和)


 駆け出したパンジー様は私の出した足に引っかかって盛大に転んだ。


「何すんのよローズ!私の頑丈さじゃなかったら怪我してたわよ!」

「こんなのに引っかかる程気を抜かないで下さいよ。そんな格好で皇太子をお出迎えするおつもりですか?」


 お嬢様は寝巻きのまま皇太子をお出迎えしようとしていた。

 寝巻きのまま執務するズボラさはもう諦めたからいいとして……着替えも忘れて駆け出すなど浮き足立ち過ぎだ!


「危ない危ない☆」

「もうちょっと危機感持ってくださいよ……」


 事実上の人質外交とはいえ、皇太子を無碍に扱えるはずもない。帝国側は対外的にお互い聞こえが良いようにと、なんとパンジー様の婚約者として皇太子を迎え入れる事を提案してきた。

 こちら側としてもその案は悪くなかった。人質外交はオブラートに包むものだ、基本中の基本である。


 お嬢様はすぐさまその案に乗った。それはもう物凄い勢いで、魔導爆撃機について熱く語ってバレットさんに飽きられた時ぐらいの勢いで!

 皇太子の保有している侯爵爵位を取り込めるのもあるが……


「だって攻略対象よ!ワクワクするなって方が無理だわ!」


 今にも駆け出しそうなので寝巻きの裾を踏んづけて止める。


「攻略対象って事は破滅フラグにも関わってくるんですよ……」


 そう、サリックス・ウィロー皇太子は『灼熱のリザレクション』の攻略対象の一人であった!爆撃してる時は気付かなかったから、降伏してきた時に初めて気付いたのだった。

 お嬢様は好奇心丸出しで婚約案に乗ったのだった。


「というかそれならウォルさんもでしょうが」

「ずっと護衛してもらってて幼馴染みたいなものだからそんな感じがしないわ」


 かわいそう(小学生並の感想)


「こうりゃくたいしょう?はめつふらぐ?」

「何でもないわ☆」「何でもないです」


 ミス破滅フラグ(持ってくる側)ことバレットさんに聞かれたが誤魔化す。

 さっきの小足をスルーするあたりだいぶパンジー様の扱いに慣れてきたようである、感心感心。


 リスクヘッジより好奇心を優先してくるお嬢様をどうにかしてくれ!と頼みたいとも思ったが、バレットさんもパンジー様と同じタイプの、基本的に好奇心で突っ走る人間なのでやめた。

 下手に任せたら余計悪化する気がする。はあ……



 ★★★★★★★★★★★



「待たせたな。慌ただしい訪問で済まない。サリックス・ウィローだ」


 馬車を降りた皇太子が名乗る。その格好を見て出迎えた皆が驚いた。()()()()()()()()()()()()


「いえいえ。ポプラ帝国サリックス・ウィロー第二皇太子殿下、よくぞいらっしゃいました。エルムント家長女、パンジー・エルムントでございます」


 お嬢様が猫をかぶ……恭しく挨拶する。普段の悪童振りを見ているだけに渋い表情をせざるを得ない。あっバレットさんも同じような顔してる!


「やめてくれ。形こそ婚約者だが、僕は人質だ」

「気にして言わなかったのを本人が言いますぅ!?」


 お嬢様にそんな気遣い出来たんだと更に渋い表情になった。あっバレットさんも同じような顔してる!


「敬語もいらない、呼び名もサリックスでいい。使いの者たちも、僕の扱いはパンジー嬢より下でいい。それに……緑の竜からあんな口上言ったやつに敬語付けられると……寒気がする……」

「では……サリックス、よろしく☆」

「こちらこそよろしく、パンジー!」


 あれっバレットさんなんでムスッとしてるの?さっきまで渋過ぎてピク◯ブになりそうな表情してたのに……


「失礼でない様でしたら、そのお姿の理由を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」


 だいぶ強引に話に割り込んでいった……いかにも話題を中断させたい感じで……何故……?


「ああ、僕のこの格好か?そういえばパンジーは驚かなかったな。聞いていたのか?」

「婚約者の事は調べて当然よ☆未来の旦那様☆」


 嘘こけ調子に乗るな!攻略対象だから知ってただけでしょ!


「我が皇家にはある伝承があってな」


 皇太子は、勿論飛びっきり豪華な御召し物をしていた。

 人質送りとはいえ、王族が婚約者の家へ同居しに向かう晴れ着なのだから当然だ。


 それが煌びやかな蒼と金色のドレスである事を除けば。


「赤髪の幼い男子は悪魔に攫われると言い伝えられているんだ。だから女装してる」


 前髪をおかっぱに切り揃えた紅く長いサラサラの美髪、9歳の年齢よりもさらに幼く見えるのに長い睫毛と血色豊かな唇が色気を醸し出す魔性の童顔、パッチリ開かれキラリと輝くエメラルド色の瞳、低い身長と華奢な四肢、その身に纏う蒼と金色のグラデーションが美しいドレスと、誰が見ても麗しの美少女にしか見えないサリックス・ウィロー皇太子は事もなげにそう言った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 予想以上に斜め上だけど傑物の匂いがすげぇ! もう胆力どころかクソ度胸がやべーやつだよ!!! なんだこいつ最高か? めっちゃワクワクしてきました。
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