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19 恐怖!主人公補正

 ポプラ帝国軍が敗走していく。

 魔導爆撃機はゆっくり減速し、高度を落としていく。飛行中の上下に投げ飛ばされるような感覚も楽しかったが、このフワッと浮くような感覚もバレットには好奇心のときめくものだった。

 あっウォルさん完全にダウンしてる。ローズさんから教わった、ナムアミダブツというおまじないを気休めだけど唱えておく。あっこれって死んだ人用だっけ?まあいっか。


「爆撃機、すごいです!あんな一方的な攻撃、ズルですよズル!」

「ふふふ☆航空戦力の暴力性が伝わったようね☆」

「内部に埋め込まれた、この半球を介して魔力を込めると術式を半自動化してくれる機構もすごいです!魔導杖を大型化したような機構ですかね?ある程度以上の手動の術式の練度には敵いませんけど、操縦しながらの攻撃や物量優先の大量断続発射、低練度の魔導師でも安定した魔力効率を出せるのは素晴らしいです!」

「……うん?」

「この速さとこの高度なら、防衛線を無視して首都攻撃なんて事も出来ますよね!国サイズの射程の攻城砲みたいなものです!」

「……バレット、あなた実は生まれる前の記憶があったりしな〜い?☆」

「ほえ?」


 パンジーは肝が冷えるような思いだった。

 航空戦力の対地優位性、大型術式補助ユニットの特性と利点、戦略爆撃への言及。一度乗っただけで前世知識無しでこれがスラスラと出てくるとは……バレット、恐ろしい子!

 絶対に敵に回したくないわ……



 ★★★★★★★★★★★



 減速し揚力を失った爆撃機は魔力による浮遊に移行。ローズを随伴し、ドシンと砂煙を立てて着地。


 リデル軍兵士達に遠巻きに囲まれていた。パンジー一行を迎えたのは感謝と歓声だった。そりゃそうだ、無関係にも関わらず負け戦から救ってくれた大恩人である。

 帝国軍撤退を聞き安堵して出てきた民間人達も加わっている。


「バレット、この人達が私達とあなたで助けた人達よ☆」

「……!」


 怖がられてばっかりだった自分の力が、明確に他者の役に立った瞬間だった。

 バレットの瞳には嬉し涙が浮かんだ。


「礼がしたい!何でも言ってくれ!」

「そうね☆無事な馬でいいから、なるべく速い馬でお父様のお城に『防衛成功』と書を送って☆それを別々の馬で別々の道を通って三つ、私が署名するわ☆」

「お安い御用です!」

「あとは……治癒魔法と……おみずと……ごはん……ライスがいいわ……もうヘトヘト……朝から何も食べてないの……」

「た……ただちに!」


 補給を要請すると、ただちに三人はその場に倒れ込む。ウォルナットは既に酔いで突っ伏していた。


 緑の竜を間近で見てみようと、次第に人だかりが濃くなってくる。


「ああ、その子我が国の国家機密だから☆それに……噛みついちゃうかもしれないわ☆」


 近くで見るとあまり生物っぽくはないようにも思えるが、未だ正体不明の存在である緑の竜だ。先程の攻撃を見ていた上、噛みつかれるかもとか言われてしまうと流石に近寄れない。

 すぐに人々は爆撃機から離れた。

 パンジーは小声で囁く。


「食事を取ったら再出発するわよ☆」

「「えっ」」


 このようなパターンでの動きを予め聞いていたローズは動じない。

 ウォルがものすごい絶望の表情を浮かべている。そんな顔をされるとさすがに心が痛む。


「こ、今度は飛んで降りるだけだから……帝国軍が最も近いトーグ城に帰投する前に、先回りして占拠するわ☆この子の戦略的優位性を知らしめるためにはいつでも遠くを突然襲える事を示しておくべきよ☆侵略者への威嚇なら正当性も十分だわ☆お父様には『防衛成功』と私から報告が来たら救援兵をそっちに送るように伝えているわ☆」

「えっ……それって……」

「そう!バレットが言った都市攻撃の類型よ!見せ場先に取っちゃって!」



 ★★★★★★★★★★★



「ローズ」

「何でしょう?」


 トーグ城に向かう空路の中でお嬢様が呼びかけてきた。

 ウォルさんはグロッキーで今にも吐きそうでありバレットさんが背中をさすっている。


「奇襲の後、降伏を勧告したそうね」

「……」

「打ち合わせ通りにするなら、追撃の正当性が薄まる降伏を誘うべきではなかったわ」

「……」

「あなたは、自分の事を優しくない人間だって思っているようだけど。正反対よ。あなたは、優し過ぎる」



 ★★★★★★★★★★★



 出発の時間差の間に惨敗が伝令されていたのか、トーグ城はちょっと撃つとすぐに降伏した。

 敗走するノロノロ軍隊より無傷の軍隊の方が移動が速く、帝国軍が着いた時にはトーグ城はエルムント兵に占拠され完全武装でパンジーの支配下になっていた。

 当然、降伏以外の選択肢は無かった。生き残った約4000の帝国兵ほぼ全てがエルムント家とリデル家の捕虜となった。


 いつでも首都を襲える……その可能性を孕んだ未知の兵力を携えるエルムント家との関係が悪化する事を危惧した帝国は、慌てて相互不可侵条約の締結を持ちかけてきた。勿論、騒動の当事者であるリデル家も同席している。


 ローズ達はその条件に驚愕した。


「「「マジ?」」」


 司令官であったサリックス・ウィロー第二皇太子をケジメとして人質としてこちらに引き渡す。捕虜を全て返してもお釣りが来る内容であった。

 そして、その条件を持ってきた人こそがサリックス・ウィロー第二皇太子その人だった。

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[一言] 腐っても相手も胆力あるなあ
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