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17 突撃お前のドテッ腹

 なぜ僕がこんな辺境の地を攻めなきゃいけないんだ。

 どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。


 ポプラ帝国第二皇太子サリックス・ウィローはその紅く長い髪を掻き乱し、仮司令部で一人憂鬱に浸っていた。

 臣下共の権力闘争に担がれこんな僻地で侵略戦争の旗印ごっこなど、億劫で仕方がない。


「殿下、御指示を」

「あ゛?そこのドルフ大臣に聞けと言っただろう」


 指揮を取るつもりもないから副司令官に作戦は丸投げだ。

 最も、皇太子として極めて平穏で文化的な生活をしている9歳の子供の僕よりも、本職であるドルフ軍大臣が指揮した方が良いのは明白だ。ドルフには最初からそう伝えてある。

 これでドルフの権力稼ぎに利用されるのは癪だが……わざわざ面倒事を買って出てまで無様を晒すよりはマシだ。


「相手は小国で、しかも辺境伯は不在ときた。兵力もまるで足りない。勝ちは決まったな」


 そんな事を僕の前で堂々と口に出来るのは僕自身のみだが、事実それが参謀から一兵卒に至るまでの共通認識だった。それほどまでに彼我の戦力差は明白だった。

 そう思っていた。



 ★★★★★★★★★★★



《交戦中の目標を発見。敵勢力約5000。航空勢力は魔導師約30、ドラゴン2》

「そのまま距離を取って待機。合図したら加速突撃して好きなのを落として」

《了解》


 ()()()()()()()()敵地に向かっていたローズから、念話水晶と共振石を応用した通信機で敵勢力が告げられる。


「「ドラゴン!?」」


 食物連鎖の頂点、空の王の名に、ウォルとバレットが驚愕する。


「安心しなさい☆ローズはあれより強いわ☆特に空ならね☆」

「ドラゴンに、空で!?」


 全生物最強の種族に、その生物の最大の得意分野で勝つ。それが意味するのは、ただただ理不尽なまでの強さだ。


「この高さでこれより速く飛んだり、ドラゴンに空で勝てるって言われたり、訳が分かりませんよ……その揚力?っていうのは翼の無いローズさんには関係ないんですよね?」

「ええ☆私も空中戦に持ち込まれたら相討ちに出来なかったわ☆」

「何の話です?」

「ちょっとしたイタズラの話よ☆」


 前世では、あちらが多くの部下を引き連れていたのに対しこちらが殿(しんがり)で一人だけだったという違いこそあれど、こちらが遙かに格上にも関わらず無人対空砲火で得意の地上戦に持ち込まなければ時間が稼げなかった。

 人の身でありながら最高速度マッハ1.5、対航空機撃墜数287、対航空魔導師撃墜数1052。被撃墜18。付いた異名は【ライフル弾】だ。

 自身に働く力のベクトルを変えられる彼女は重力を利用して横にも上にも加速する事が可能であり、空力特性を変える事で音の壁も超える。

 速度ベクトルに干渉しつつ耐Gにも応用出来るため旋回性能は10Gを超える。

 これほど空戦に向いた魔術はほとんどない。

 山火事以降魔力の大量放出訓練を繰り返してきたため、魔術痙攣の恐れもない。


「実戦、見せてもらうわ☆」


 私を殺した相手の真価、見せてもらおうか。



 ★★★★★★★★★★★



 視認出来る距離にパンジー様達の搭乗している爆撃機が迫ってきた。そろそろのはずだ。


「【緋弾】」


 ローズは構え、自身を取り囲むように魔力で形成された矢印を発生させる。

 その赤黒い矢印は幾重にも積み重なり、先端を尖らせるように配列。回転することで殺傷力を上げる。

 まさしくライフル弾のような防殻が出来上がった。


《今よ!突撃!》

「了解、突撃!目標、木偶の坊(ドラゴン)!」



 ★★★★★★★★★★★



「撃つだけなんて味気ねえなあ」


 魔導師の一人がそうこぼす。


「こら、聞かれるぞ」


 隣の魔導師が咎める。

 攻撃担当二人に防御担当一人の基本の三人編成が十個、極めて堅実な構成の空魔導小隊だ。

 浮遊しているため、機動力こそ落ちるが届く攻撃を魔術攻撃と銃撃に限定出来る。集中力の要る高威力魔術攻撃を、防御と攻撃の分担によって実現している。

 ……防御を抜ける程の対空火力がそもそも相手に備わっていなかったが。


「ドラゴンも暇だとよ」


 好戦的な個体であるこの2匹は、あまりに反撃が返ってこないので不満そうにしていた。このままだと降りて肉弾戦をしはじめかねないが、その巨体で暴れられると味方が巻き込まれる。大人しく一撃離脱を繰り返してもらうしかない。


「おーい、戻ってこーい。お前の好きな骨付き肉だぞー」


 収納魔法から取り出された大好物の匂いに、一匹が戻ってくる。ちょっと威厳が無い気がするが、素直に指示を聞いてくれるのはありがたい。


 戻ってきたドラゴンが涎を垂らし、肉にかぶりつこうとしたその瞬間。


 真紅の弾丸が背後からドラゴンの腹を貫き、餌をやろうとしていた魔導師ごとドラゴンを両断した。


「──な、」

「敵襲!!!敵襲!!!」


 その巨大弾丸はそのまま回転しながら地上を掠め、それを形成していた矢印を分散させて攻撃し地上部隊を混乱させる。

 慌てて構えた空魔導小隊に対し、防殻を解いた敵魔導師が有り得ない高速で向かってくる。


「敵魔導師、一体!速い!」


 迎撃するも、ドラゴンより速い人間サイズの標的にマトモに攻撃が当たるはずもない。

 防御担当が張った障壁をものともせず、攻撃担当に魔力を纏った拳が炸裂する。哀れな被害者はそのまま地上に墜落した。


「遅い」

「速過ぎる……!」


 浮遊に大きな出力を割かなければいけない空中戦では機動力が落ちるため、接近に魔力を使って術式が疎かになった方が敗北する。そのため、遠距離からの撃ち合い以外の戦闘は発生しない。空中戦闘の基本中の基本だ。

 その常識ではありえない、空中での高速肉弾戦という不可解なものを挑まれていた。

 突進を喰らえば即撃墜されると理解した魔導師達は回避なり受け流すなりで何とかやり過ごす。しかしこれではジリ貧だ。


「防御は無意味だ!分散して総攻撃!」


 理解の範疇の外にある高速肉弾戦法に対し、それでも有効な戦法を選択する。

 防御をブチ抜いてくる人間鉄砲玉に対しては、的を散らしてやられる前にやるべきだ。


「……残念だが、セオリー外れの相手にはセオリー通りにやるだけだ」


 敵魔導師は減速して回避に移行すると、大量の魔法陣を展開。赤黒い矢印の弾幕が放たれる。


「さっきの奴はこれか……!」


 気付いた時にはもう遅い。自力で防御出来た防御担当と精鋭の攻撃担当一人を除き攻撃担当18人が脱落した。

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