15 スクランブルガン見
「何事ですか」
ローズさんが呆れながら尋ねる。
「今お父様から急使があったわ。リデル辺境伯領がポプラ帝国から侵攻を受けたって。ありあわせの兵力では一日保つかも怪しいわ」
「!……まずいですね、外遊中を狙って……!辺境伯領は帝国とメイプル大公国の緩衝地帯。ここが陥落すると二国が直に接してしまいます。加えて交通の要所でもありますから我が国の流通にも影響が出ます」
顔色を変えたローズさんが何やらよく分からないことを話している。何を話しているかはよく分からないが、侵攻とか陥落とか物騒な単語が聞こえて来る。
「直ぐに支援に向かうわよ。辺境伯とは早いうちにパイプを作っておきたいし、何よりあそこは人口が多くて被害が大きくなってしまう……何よその顔、バレット」
パンジー様のいつになく真剣な表情に混乱していたが、そういえばそうだった、パンジー様は一応伯爵令嬢だった。本人がちゃらんぽらんだったので忘れていた。
「いえ、そういえばお嬢様伯爵令嬢だったなって……」
「あ〜らこの侍女結構毒舌ね〜☆まあいいわ。最近の評判を聞いたお父様からある程度の軍事指揮権は渡されてるけど……今回は時間が足りないから少数で急行よ。ローズ、この前作った魔導爆撃機を引っ張ってきて頂戴。まだ性能は低いけど我慢するしかないわ。ローズは別働で遊撃に回るとして……ウォルが防御に回るから……バレット、あなたにも来てもらいたいわ。私が指示するから魔術攻撃を担当してほしい」
「え?ど……どういうことですか?」
話している内容はよく分からないけど、どうやら私が戦地に同行する事を頼まれているように感じる。
「この前布に乗って飛んだでしょ?あれより速く高く飛べる乗り物を使って、帝国軍を魔法のほとんど届かない高空から攻撃する」
「……4人で軍隊を相手するなんて無茶ですよ!?私は嫌です!」
いくらパンジー様達が不思議な事が出来るからといって、いくら少数精鋭だからといって、数のあまりに違う相手に勝てるとは思えない。
死ににいくようなものだ。
「あ、安全……とは言わないけどほぼ確実に上手くいくから!お願い!」
「そんな事言われても……」
事態が急過ぎて、実感が湧かなくてどうしたら良いのか分からない。侵攻?陥落?遠いお上の世界の言葉だと思っていたものを突然聞かされても、ついこの前まで宿無しの生活をしていた私には実感が湧かなかった。何より、怖い。
「お嬢様は交渉が下手糞です。変わってください」
「ほぎゃんぬ!」
ローズさんがパンジー様を蹴り飛ばした。
「私への扱いが雑になってきてない!?」
「黙っててください。この人はその口説き方じゃ動きませんよ」
「口説っ!?」
騒ぐパンジー様を無視してローズさんは私に向き直る。うん、確かに雑だ。
「……バレットさん、この戦いはこの国を、そしてこの国の隣人達を守る為の戦いです」
「……」
「平和を守る為の戦いに、あなたの力が必要です。どうか力を貸してください」
「……私の力が必要……」
ローズさんは私でも分かるように翻訳してくれた。私がどうして混乱してたのかをすぐに察して、分かるように言い換えてくれた。
……人をよく見ている。優しくないだなんて嘘だと思うな……
「……平和を守る為に、私のこの炎の力が必要なら、協力します。人の役に立ちたいです」
「バレットさんならそう答えてくれると思ってました」
怖がられてばっかりだった、私のこの力が人の役に立てるなら。怖くっても、平和の為に勇気を持って踏み出そうと思った。
「一つだけ聞かせてください。私と友達になったのは、私の力目当てじゃなかったんですよね」
「ええ☆あなたが面白そうで、一緒に遊びたかったから誘ったのよ☆」
そう答えるパンジー様は、口調はいつも通りの捉えどころのないものなのに、まるでこちらを見透かすような、試すような、見守っているような、不思議な笑みを私に向けていた。
……ちょっと、ドキドキした。