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13 満天の☆空

「ヒイッ、化け物!」


 不可解な傷の修復を見た盗賊の一人が慌てて逃げ出す。

 足裏に爆発を起こして加速し、即座に追いかける。


「はい残念」


 逃げ道を設置してあった魔法陣の炎で塞ぐ。


「助け」

「問答無用」


 炎を纏った拳骨を鳩尾(みぞおち)に叩き込み気絶させ、残る盗賊達の方へ振り返る。


(化け物、かあ……)


 やっぱり面と向かって言われるのは辛い。

 しかし、その感情を見せることはない。


「わ、わかった!もうお前は襲わない!だからこの通り!」

「私は盗賊が憎いわけじゃあないんだ。私も宿無しの身、食い繋ぐ為の日銭を稼ぐことに文句を付けようとは思わない。火事場泥棒しただけだったらな」

「だったら見逃してくれ!」

「私がもう少し後から話を聞いてれば見逃しただろうな。残念だ」


 ただの盗賊なら捕えようとはしなかった。本当に残念だ。


「頼む!」

「浅ましいな、反吐が出る。……猿共にも分かりやすく貴様らの罪を教えてやろう。一つ、お前達は依頼を受けてしまった。山を焼く依頼をだ。貴様らは依頼を断る事も突っ撥ねる事もせず、大量殺人の依頼を受けたという事だ。大量殺人のな!」

「そ、そんなつもりじゃない!何もそんなに沢山殺すつもりは」

「火事と死者が結びつけられない程の低脳なのか?二つ、お前達は己の起こした火事を陽動として私欲に走りコソ泥を働いた。依頼の内容は引火だけのはずだ、少しでも罪の意識があるなら消火でも手伝っていれば良かったものを」

「ぐっ……」

「三つ……これが一番大事だ。そうだ、クイズをしよう。当てた奴は見逃してやるぞ?」


 これを答えられたなら、少なくとも見逃すだけの慈悲はかけようと思った。


「な……アレか!?お前の親があの火事で死んじまったとかか!?」

「違う。私の親はとっくの昔に私が焼いて死んだ」

「ヒッ……!?じゃ、じゃあダチとかか!?」

「確かに被害を受けた友人はいる。だが答えはそれじゃない」

「か、金か!?何か大事な物が焼けちまったのか!?」

「違う。宿無しだと言っただろう。ヒントだ、お前達のさっきの会話を思い出してみろ」

「わ、分かった!何でも出す!望むもの何でも出す!だから見逃してくれ!」

「……」


「△◯×⬜︎*%€!△◯×⬜︎*%€!」


 何やら喚いているが、聞く価値も無さそうだ。自分の頭を冷やせるかとも思ったが、浅ましい言動が次々と燃料として注がれるので冷える事は無かった。


「……時間切れ。答えなしか、残念だ。……三つ、貴様らは仲間に全ての罪を押し付けて逃げた。最後まで共犯者の存在を隠し通した仲間をだ。ここまではいい。しかし、それに飽きたるどころか、貴様らはそいつを侮辱した!あまつさえ、貴様らを助けた恩人を、かつては生き延びる為協力したであろうお前達の仲間をだ!!!貴様らの軽率な言行が貴様らを討ち滅ぼさんと私に決意させた!!!」


 彼等は、自分達を庇って死んだ仲間を嗤った。生き延びる為でもなく、報酬目当てでもなく、純粋な愉悦の為だけに恩人を侮辱した。

 それが一番、癇に障った。


「はあ!?そいつとお前に何の関係が!?」

「何も?顔すら知らん。だが……その顔すら知らん奴のために怒りを振るう事は出来る!」



 ★★★★★★★★★★★



「こいつら、どうしよう……」


 纏めて縛り上げたところまでは良かったけど、その後どうするかを考えていなかった。

 大の大人十人程を引っ張っていくのは流石に骨が折れる。ちなみに足の骨は片足ずつ折っておいた。


「あーもう、私のバカバカバカ!後先考えないで行動してばっかり!いつもこう!」

「なんだこいつ……(ドン引き)」


 ついさっきまで炎のパンチで殴ってた盗賊の一人からドン引きされる。

 うん、側からみれば炎の大魔王みたいな奴、しかも捕まえた相手の骨を念入りに折ってきた恐ろしい奴がぶりっ子しているとしか見えないし、私も落差があり過ぎるのは分かってる。


「うーん投げたら死ぬし爆発で飛ばしても死ぬよねえ……引き摺っても死ぬなあ……」

「物騒な運び方しかないのか!?」


 抵抗の意思を無くした者を連行中に殺しては意味がない。どうしたものか……



「彼等は私共が回収致します」


 突如、茂みからパンジーさんとローズさんが現れた。


「な……」

「逃げた盗賊を確実に仕留められるように隠れてたの。その必要は無かったけどね☆」


 一体、いつから見られていたの……?冷汗が背中を伝う。


「……目立ちたくない理由があるのね?」

「……この力を知られたくないです。怖がられるので」


 盗賊を捕らえられる子供。不気味な存在でしかない。


「でしたら、貴方が通報して私共が捕えたという形にする事も出来ます。私共の力はそれなりに知られているので、不自然は無いでしょう。貴方がその形でよろしければ」

「それでお願い……」

「そこの盗賊共、分かっているな?余計な事を言うと口を()うぞ」

「分かりました!分かりましたよ!」


 口裏合わせが終わり、二人は連行準備を始める。大きな魔法陣を描いてその上に布を敷き、そこに盗賊達を座らせた。


「……何してるんですか?」

「空を飛ばして運ぶわ☆」

「空!?」


 空を飛べるのは、一部の風に愛された魔術師くらいのはず。

 それでも殆どは自身の体のみ、一部の人は追加で軽い荷物が運べるといった程度のもので、大人数を運ぶなど歴史に残るほどの大魔術師しか出来ないはずだ。*


「フッフッフ、驚いてるわね☆秘伝の技術よ☆」

「そんな秘伝聞いた事無いです!」

「そりゃあ私とローズが初代だもの☆」

「何ですかそれ!」


 本当に訳が分からない。空から運ぶなどと(のたま)った事も、

 ……魔力炎で大火傷をしたというのに、私の炎の魔力を見て怯えていない事も。


「……パンジーさんは」

「?」

「パンジーさんは、私が怖くないんですか。私のこの、炎の力が」


 酷い火傷を負っているのに、炎が怖くないなんて思えない。


「あら、あの火事の炎とあなたの炎は何も関係無いじゃない。あなたの魔力のコントロール技術で何を心配する事があるのかしら?」


 火事の炎とこの炎が別というのは、ただの理屈だ。

 理屈を説けば怖がられないで済むのなら、私は隠れる事などしていない。


「私の体は人より遥かに熱いんです。水が茹だる程。怖くないんですか」


 そのような人体はありえない。


「くっつくとあったかそうね☆」

「私の体は、こんな風に常に光っているんです」


 人体が決して発する事はない、不気味な光。


「ピカピカしててカッコいいわ☆」

「……青と赤の血が透けて見えます」

「エロくていいとおmいったいローズ殴らないで!!!今いいとこだったでしょ!!!」

「いいとこだったから殴ったんですよ何良い雰囲気にセクハラを混ぜ込もうとしているんですかこのセクハラ女」

「酷い!ギャーギャーギャーギャー」


「ゴ、ゴホン!と、とにかく!」

「?」

「……私達があなたを怖がる事は無いわ☆」

「え……」

「あなたは、私と、私が助けた人達と、仲間の為全ての放火の罪を被って死んだあの罪人のために怒ってくれたんでしょう?……すごく嬉しかったわ。私が命を懸けて救い出した人達のために」


 パンジーさんは、身を挺して救助活動を行なっていたと聞いた。


「それに、実行犯の事まで思いやる事が出来た。状況証拠から絶対に盗賊仲間がいるのに、そいつらの為絶対に口を割らなかった彼を殺すのは私達も忍びなかったわ。せめて苦しまぬよう、火刑にかける前に首を吊らせるよう執行人に頼み込んだの」


 同じ事をこの二人も思っていたらしい。


「あなたは……とっても優しくて、とっても思いやりのある子よ☆あなたがどんな力を持っていようと、あなたは素敵な人間だわ☆」


 そんな事、言われた事は無かった。

 ずっと恐ろしい力と不気味な体を恐れられて、遠ざけられてばっかりだった。


「……怖いんです。私はまた置いていかれるんじゃないか、私はまた嫌われるんじゃないかって」

「無理に信じろとは言わないわ。だったら、あなたが安心出来るまで、私達のそばにいればいい」

「……いいんですか」

「ええ!……そうだわ!私の屋敷に来る!?何ヶ月でも、何年でもいていいわよ☆」


 まだ、信じられたわけでも、安心出来たわけでもない。

 でも、暗い森の中で、一人寂しく空腹を満たすより。誰かと食卓を囲んで、おいしいご飯を食べたかった。


「……行きます。お腹減りました」

「じゃあ乗って!私の屋敷まで一っ飛びよ!」


 私達を乗せて布が飛び上がる。

 空から眺めた街の景色は、満天の星空と窓から覗く薄い光がとっても綺麗だった。

*ローズ達の前世では二度の世界大戦によって魔導飛行技術が飛躍的に進歩したため、二人の自力と合わせて大量運搬が可能。

当然この世界では二人が初代。

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