プロローグ
シリアスな内容です。お気をつけて。
豪奢な継承台の上で少年は剣を構えた。それに合わせてシスターの祈りが始まり、周りの群衆は無秩序に声を上げる。
一帯は騒がしい祭りのようになっていた。
そんな中、少女は僅かな自我で内に秘めたる化け物を抑え込もうとしていた。
(今から私はさっき会ったばかりのこの子に殺される)
この子。そう言いたくなるほどに小さな少年だった。その少年を前にして少女は震えていた。ただし、震えているのは彼女だけではない。
(今から僕はさっき会ったばかりのこの人を殺さないといけない)
祈りが終わるのと同時に継承前夜の儀が行われた。
恐怖で震えた剣先は、2度目でやっと心臓を捕らえるのだった。
(――今から私は弟のように可愛がってきたこの子に殺される)
(今から僕は姉のように慕ってきたこの人を殺す)
4年前と同様に、祈りの終了と同時に継承前夜の儀が行われた。
躊躇いを捨て去った剣先は1度目で正確に心臓を捕らえるのだった。
(――今から私は彼に殺される)
(今から俺は彼女を殺す)
8年前、4年前――否、300年前から踏襲され続けている手順で継承前夜の儀が行われようとしている。
上から吊るされた手枷に両手を頭上で拘束され、弱々しく跪く少女。格好は上下共に黒の下着だけ。
そんな憐れな少女を少年は冷たく見下ろした。その目からは恐怖や躊躇いなどは一切感じられない。
剣もそれに連動していた。剣先はぶれることなく、ただただ一点を向いている。
「はぁ、はぁ……はぁぁぁあああ!」
目の前の殺気、確定された死に反応したのか、狂剣士が目を覚ます。激しく手枷を振り、鎖が波を描いた。警戒した周りの騎士が抜刀しようとするが、少年がそれらを制止する。
「アスベリオンの怨念よ、静けさを知れ。眠りを知れ」
少年の詠唱で鎖を引きちぎろうとする力が一気に抜ける。
「はぁ、はぁ、はぁ、ウィン…………きて――」
次の瞬間、呪われた聖剣――アスベリオンは英雄剣士の心臓を貫いた。
沈黙の中、笑みを浮かべた少女の骸はゆっくりと聖剣に吸い込まれていく。
継承台には、彼女が着ていた下着だけが無残に残された。
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