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#7 函館港での一幕

久々に主人公が登場します。一瞬ですけど。

※この作品に登場する同名の実際の団体、組織、企業、事件とは一切関係はありません。

※この作品には長期連載および不定期更新が予測されます。ご了承ください。

※この作品には過度な著者の自己満足が含まれています。ご了承ください。

※この作品には誤った情報、解釈、認識、価値観が含まれています。ご了承ください。

「にゃあ」


 微かに潮の香りを携えた風が、頬を撫で、白息を運んで行く。

 とても年季の入った犬小屋には、二匹の猫が丸まって寝ていた。元々の主は既に他界しているのか、付近に犬の姿は無かった。

 人間の気配に気が付いた猫が目を覚まし、覗き込んでいた少女をじっと見つめる。

 ポスターケースを傍らに携えた少女、滑川 桃華は挨拶の意味を込めて鳴きまねをしたが、猫は全く反応を示さず、暫く古奈を見つめた後、害は無いと判断したのか再び目を瞑った。

 桃華は一人、港町を探索していた。

 三十分ほど前、ひょっとこの男の元を発った二人は青森に渡るために函館港に向かっていたのだが、鬼村は港の外れに桃華を下ろすと、「一時間くらいしたら迎えに来るから」と言い残して一人で何処かに行ってしまった。取り残された桃華は見つからない方が良いと思い、ひとまず護岸近くの廃工場で隠れるように座って海を見つめていたが、二十分ほどすると壮絶な暇に襲われ、逃れるように周辺の探索を始めたのである。

 ふらふらと気まぐれに枝道に入ったり、垣根からそっと中の様子を窺ってみたり、特に目ぼしい発見などは無かったが、その当然の如く存在する自分の知らない時代の景色の中を、まるで白昼夢でも見ているような非現実的な得も言われぬ感情に苛まれながら桃華は歩いていた。

今見ているこの風景は私の時代にはほとんど残っていないものだ。それは至極当然のことで仕方のないことではあるが、この風景の何もかもが何れ死んでしまうのだと思うと、とてもノスタルジックに感じられ、感傷に浸る余韻を欲しく思ったりもするが、私の居た現代だって同じように美しく、掛け替えの無いものなのだ。ただ、その美しさに気が付くのは、この風景が消えたように、決まって失ってからなのである。

 桃華は四半世紀も生きていない自分がそのようなことを考えていることを可笑しく思い、心の中で笑った。どうやらこの場所は人を詩人にさせるようだった。それなら今度、明治村にでも行ってみようか。そんなことを考えていると、行く道の先に見覚えのある建物があることに気が付いた。煉瓦作りの建物で正面に曲尺に森の屋号が描かれていた。それは金森赤レンガ倉庫だった。中学校の時分、ショッピングに訪れたこともあったが、今は本来の目的である倉庫として使われているようだ。薄汚れた姿に観光スポットとしての面影は無い。

 別れた場所に戻る途中、自分を探していたのであろう鬼村に出会った。その身一つの軽装備である。


「あれ、あのオートバイは?それにバックパックも、どうしたのですか」

「ああ、バイクは先に置いてきたよ」

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