石の心 その四
(四)
電車は走る。次第に大きな建築物が見えなくなり、駅と駅の間の人家も疎らになる。人間の密度が薄れて行く。それはそのまま、彼の日常からの解離を意味していた。
路線の終点で下車した。ホームには誰もいない。降りるのは彼だけである。また別の行き先の電車に乗り換え、何も考えずにずっと乗っていた。小さな町を過ぎ田畑や小さな山がどこまでも続く。段々人が少なくなる。その繰り返しを見るともなく眺めていた。
途中で寝ていた様だ。寝たり、はっと目覚めて、また先前と変わらぬ曇天に安堵と疲労の入り交じるため息を漏らし、また目を閉じ、また窓の外を眺めていた。
人が殆ど見当たらぬ。
不安よりも今は安堵が大きかった。
何処へでも良い。何処かへ逃げたい。何処かへ去りたい。
夜もかなり深くなり、最早乗り換えるべき電車もない。
彼は虚ろな心のまま、それでも朝のあのどうしょうもない絶望感からは大分立ち直りつつある自分を認識していた。
とにかく今日は何処かで泊まりだ。明日の事は今は考えられない。
そこそこ寝た筈なのに、体が怠い。
車窓には疲れた暗闇に鈍い街路灯が点在している景色が続く。窓に映る顔が酷く醜く、目を逸らしたい気持ちだった。
やがて彼を乗せた電車は終着駅に辿り着く。誰もいないホームに降り、初めての駅の改札をくぐる。
駅前には冷たい闇がただひたすらに広がっているだけだった。




