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クピド―~太陽のように笑う君~  作者: 夏目 碧央
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恋文


 今朝、ラブレターは四月から三通目だと薫に言ったけれど、実は三月には五通もらっていた。そのうちの四通は電車や駅などで女子からもらったものだが、一通だけ、学校の下駄箱に入れられていたものがある。そこにはシンプルに、

「僕は、矢木沢君の事が好きです。」

と書いてあった。差出人の名前は書いていなかった。うちの高校は男子校だし、僕は、と書いているのだから差出人は男だろう。それを見て少し驚いたけれど、俺は何だかジーンときた。いたずらという事もないことはないが、このひっそりとした感じと、誠実な文字からは本気を感じた。好意を寄せてくれる女子は、電車や駅で見かけるだけの俺を好きになっているわけで、要するに見た目だけで好きだと言っているのだ。だが、校内の男子は、そんなもんじゃなくて、俺の事を知った上で、よっぽど覚悟をしてこれを書いたに違いない。なんだか感動するじゃないか。だが、この名無しの男子を探そうとは思わなかった。まさか男と付き合おうとは思っていなかったから。薫と出会うまでは。

 今、寝ようとしてベッドに入り、下校時の薫の姿を思い出した。こぶしで胸を押さえていたのはなぜだろう。そういえば彰二が、俺は男にもモテると言ったけれど、俺はラブレターの事は話していない。なぜ彰二がそう言ったのか、考えてみると不思議だ。何か知っているのだろうか。薫が俺を好きになってくれる可能性はあるだろうか。俺と付き合ったら得をするとしたら、付き合ってくれるだろうか。そうだ、生徒会長になったら、少しはお得感から付き合ってやってもいいかな、とか・・・そんな単純なものじゃないか。


 翌朝、薫は普段通りに笑顔でおはようと言ってくれた。ほっとした。変な事して悪かったと謝ろうかとも思ったが、なんだか言い出せなかった。俺は、彰二を教室の後ろの隅に連れて行って、夕べ疑問に思った事を聞いてみた。

「彰二、お前俺が男にモテると言ったよな?なぜそう思うんだ。何か知ってるのか?」

彰二はちょっと顔色を変えた。が、すぐにいつもの顔に戻った。

「まあ、いろいろ聞いてんだよ。キューピット頼まれたこともあるしね。」

「はあ?」

「断ったよ。お前がそっちの趣味があるとは思ってなかったから。それと、俺がお前と仲がいいとかって、妬まれたこともある。先輩から呼び出されて脅されたこともある。」

俺は自分でもわかるくらい、顔が青くなった、と思う。こいつに、そんな苦労を掛けていたとは。俺は思わず彰二の肩を抱いた。

「悪かったよ、彰二。お前をそんな目に遭わせてたなんて。俺に一言も言わないで。」

「あははは、泣くなよ京一。お前には勉強教えてもらったり、怖い先輩からかばってもらったり、彼女とくっつけてもらったり、いろいろ世話になってんだから。」

そうだ、彰二には彼女がいる。中学卒業の直前に彼女を俺が呼び出してやったんだ。あの女子はなかなかいい奴だ。見た目とかじゃなくて、中身を見ている感じに好感が持てる。

「泣いてないだろ。」

俺はそう言って腕を離した。

「脅したの、誰だよ?」

俺はちょっと睨みつけるように彰二を見た。彰二は目を反らして素知らぬふりを決め込んだが、

「生徒会役員か?」

と聞くと、パッと俺の目を見た。そしてすぐに目を泳がせた。お前こそわかりやすいんだよ。

「まさか、秋元さん?」

俺は違うと思ったけれど、カマをかけてみた。生徒会長の名前を挙げてみたのだ。すると彰二は、

「そうだよ。よくわかってんじゃん。」

と言った。

「うっそだろー?」

「俺はね、生徒会長様に呼び出されて、それはそれはびっくりしたんだよ。でもまあ、誤解も解けて今は何も関係ないけどな。」

誤解?つまり、俺と彰二ができてると思ったってわけか?訳が分からん。

「あいつには気をつけろよ。けっこう本気っぽいぞ。」

「信じられん・・・。」

俺は、首をゆっくり振りながら自分の席についた。


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