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クピド―~太陽のように笑う君~  作者: 夏目 碧央
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新学期


 ああ、神様、ありがとうございます。俺の普段の行いがよっぽど良かったに違いない。俺のこの一カ月間の祈りが通じたのだ。

 四月八日。めでたく高校二年生に進級した俺は、クラス発表の掲示板の前に立ち尽くしていた。

 俺は約一年前、この県下一の名門、県立K高校に晴れて合格したわけだが、あの合格発表の掲示板に自分の受験番号を見出した時以上の喜びを今、かみしめている。俺の名前は二年一組の最後尾に書いてある。

 俺の名前は矢木沢京一なので、いつも出席番号は後ろから一、二番といったところだ。だからいつも後ろから数人見て次へ進むわけだ。今日もクラス発表の掲示板を、一組の後ろから見ていった。と思ったら真っ先に自分の名前を見つけたのだ。

「またもや一組ですか。」

そうつぶやいた途端、その一組にかの麗しのあの人がいるだろうかと考え、鼓動が早鐘のように鳴り出した。

 そして、その同じ一組の名前の群れの中に、見つけたのだ、滝川薫を。そして、何の因果か森村彰二の名前までそこに記されてあった。


 「でもさ、京一。お前、まさか薫君と同じクラスになれるとは思ってなかっただろ。」

教室に入って適当に座りながら、彰二がこんなことを言いだす。

「なんで?」

「だってさ、俺とお前は理科選択も芸術選択も同じだから、再び同じクラスになるのはさほど難しいことではないだろ。だけどさ、理科はともかく芸術はさ、薫君は音楽を選択すると考えるのが普通じゃないか。だから、そうなるとお前と薫君は同じクラスにはなれないだろ。」

そうだ、俺は何を考えていたのだろう。いや、なぜ何も考えていなかったのだろう。同じクラスになんてなれるはずがなかった。三月にはもう選択教科の希望は出してしまっていたのだ。

「ところがだ。なぜ一組がそうなるのかは知らないが、このクラスは美術選択と音楽選択が半々。そういうクラスに入れたというのは、うーん。強運の持ち主だね、君は。」

彰二がすまし顔でそんなことを言っている。俺は再び深い感動に浸っていた。

 その時、教室に薫が入って来た。俺がビクッとして振り向いたからか、彼も俺の方を見た。

 目が離せない。なんて大きな瞳。その瞳は少し潤んでいてキラキラしている。

「京一。」

「え?」

「そんなに見つめられたら、薫君が困るだろうが。」

彰二に小声で言われて俺は思わず視線をさまよわせた。薫はすぐに俺から遠く離れた席へと歩いて行った。

「ふーん、脈ありかな。」

彰二はニヤニヤしながらそう言ったが、どこをどう解釈すればそうなるのだろう。俺がジロジロ見るから困っていただけだ。しかもすぐにプイっと向こうに行ってしまったではないか。俺の事きっと変に思ってる。

「まあ、お前の事を知らない奴はいないわけだし。そうだな、お前に惚れられてなんとも思わない奴は男であろうといないんじゃねえの?」

「よく言うよ。」

「ホントだって。」

「じゃあお前もそうだって言うのか?」

「惚れてくれればね。」

「ふん、食えねえ奴。」


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