キジ
犬と共に旅を続けるももたろう。
なんだか並んで歩いてると微笑ましいですね。下手をするとセントバーナードの影に隠れてももたろうが見えなくなってしまいます。
「わん! ところでももたろう殿。こんなうわさをご存知か?」
「……? どんな噂ですか、犬さん」
犬はももたろうへと話します。
今向かっている鬼ヶ島に関する噂のようでした。
「わん! なんでも、鬼達は若い娘ばかりを狙って攫っているとか」
「……若い娘……」
ももたろうは、その噂は知っていました。
御爺さんと御婆さんに聞いたのです。だからこそ、女の子でありながら、ももたろうという名前を付けられたわけですが。
「わん! なにやつ!」
突然、なんの脈絡も無しに犬が空に向かって叫びます。
ももたろうも驚き、犬と一緒に空を見上げました。
「何も居ませんが……」
「わん! 太陽の光に隠れています!」
ももたろうは太陽へと目を向けます。
眩しい光を手で遮りながら観察すると、黒い影が確かに見えました。
その黒い影はどんどん迫ってきます。
「わん! あれは……もしかして……キジ!」
「き、キジ? キジって……キジ?」
キジです。
太陽の光の中から飛び出し、空を滑空する影。
「ケーン! いい匂いがするゼ! そこな犬と人間! いいもの持ってるナ!」
キジは勢いよく大地へと降り立ちます!
「ケーン! 人間! お前のその腰の物! 俺様によこセ!」
堂々とカツアゲを実行するキジ!
しかしももたろうと犬は、大地に降り立ったキジを見下ろしていました。
「ケーン! な、なんだ、言いたい事があるなら言えヨ!」
「わん! いや、キジって思ったより小さいんだな……って……」
種類にも寄りますが、キジは大きい物で八十センチくらいです。
確かにセントバーナードからすれば小さいかもしれません。
しかし小さいからって舐めていると怪我をしますよ!
「ケーン! その通りよ! さあ人間! 怪我をしたく無くば腰の物を俺によこセ!」
「まあ、いいですけど……」
ももたろうは素直にお弁当箱を広げます。
そしてハンバーグを一つ取り出すと、キジへと差し出しました。
「ケーン! ふむ、肉の塊か。香ばしいな。頂くゼ」
キジはハンバーグをくちばしで咥えると、そのまま一気飲みしました。
「ケーン! っぐ……の、のどに……つま……っタ……」
「わん! なんて間抜けな奴……! ももたろう! 急いで水を!」
「は、はい! どうぞ、キジさん」
ももたろうは水筒のフタに水を注ぎつつ、キジへと飲ませます。
ゴクゴクと水を飲むキジ。
「ケーン! た、助かったゼ。命の恩人ヨ! 俺に出来る事があったら何でもいってくレ!」
「わん! ならキジ殿も行くか? 鬼ヶ島へ」
「ケーン! 鬼退治? そういえば先代のキジも……まあ、行くんだったら行くぜ!」
こうして、旅の仲間にキジが加わりました!
ももたろうの旅は順調です。




