犬
とても香ばしい匂いを漂わせながら、ももたろうは歩きます。
野を越え山を越え……と、その時、御婆さんお手製のキビダンゴの匂いに誘われ、一匹の犬が姿を現しました!
「わん! そこを行く旅の人。どこに向かわれているのですか?」
犬はセントバーナード。
超デカイです。ももたろうくらいの子なら乗れてしまいそうなくらいです。
突然犬に話しかけられ、ももたろうは困惑します。
「……犬が喋ってる……」
いや! まあ、そこは置いておきましょう!
今どき犬が喋るなんて珍しい事でも無いですし! たぶん……。
「わん! その通り。犬が喋るなど、もはやテンプレ。そんなことよりも……御一人でどこに向かわれているのですか?」
妙に丁寧な口調で犬は喋ります。
ももたろうは、犬へと鬼ヶ島へ向かっている、と説明しました。
「私は鬼を退治しに行くのです、犬さん。もし良かったら、着いて来てもらえませんか?」
犬はクンクン鼻を鳴らしながら、ももたろうの腰に装備されたお弁当箱を見つめます。
「わん! いいでしょう。しかしながら、この世の中はギブアンドテイク。その御腰に着けられたキビダンゴ、一つ私に下さるなら、お供しましょう」
言いながら超大型犬のセントバーナードはももたろうへと迫ります!
ももたろうは緊張しつつ、腰からお弁当箱を取り出しました!
そしてゆっくりと……御婆さんお手製のきびだんごを……
「……ナニコレ……」
ももたろうは、お弁当箱に入れられた四つのハンバーグ、そしてご飯を見つめます。
「あのババァ……やっぱりキビダンゴ知らなかったんじゃねえか……」
「わん! こらこら、言葉が過ぎますぞ。折角作ってくださったのに。ジュル……」
どうやら犬はハンバーグがお気に召したようです。
ヨダレを垂らしながら見つめています。
「キビダンゴじゃないけど……いいですか、犬さん」
「わん! 構わなくてよ」
【注意!:ワンちゃんに玉ねぎ入りのハンバーグは”絶対”に食べさせないでください!】
何故かオネエっぽい口調の犬。
ももたろうはハンバーグを摘まむと、犬の口へと運びました。
ハフハフと美味しそうに食べる犬。
ハンバーグ冷めて無かったんですね。まあその辺りは童話ってことで……
「わん! 中々のお手並み。いいでしょう、鬼ヶ島でもどこでもついて行きます。ぁ、ご飯も少し貰っても?」
ももたろうは、どうぞ……と犬の口にご飯を運びます。
手を舐めまわされ、微妙にももたろうの顔は引きつりますが、犬なので仕方ありません。
「では行きましょうぞ、ももたろう殿」
何故名乗っても居ないのに名前を知ってるんでしょうか。
まあ……その辺りも童話なので……ツッコミは無しでお願いします。




