鬼ヶ島5
先代桃太郎と同じく、黄金色の鎧に包まれ巨大化した”ももたろう”
その姿は先代桃太郎に引けを取らない威圧感を放っていました!
『貴様……何が分かっただと!』
先代桃太郎は刀を振りかざし、斬りかかってきます!
しかし、ももたろうは同じく刀で軽く弾き返してしまいます。
「貴方は十年前、犬、猿、キジと共にこの鬼ヶ島へとやってきました。勿論、鬼を退治する為です。しかしその時、この鬼ヶ島には今とは比べ物にならない程の強さを持つ鬼が無数にいた」
先代桃太郎は、ももたろうの言葉に震えます。
十年前、何があったのかを思いだしたのです。
忘れようとしていた、あの悲劇を。
「貴方達は勇猛果敢に戦いました。でも、三匹の動物達は戦いの途中、貴方を守って命を落としていった」
『黙れ……』
「貴方は恨んだ。敵である鬼、臆病な人間、そして弱い自分自身を」
『黙れぇ!』
再び先代桃太郎は斬りかかります。
しかし再び打ち返され、鬼達との戦いで既に満身創痍の先代桃太郎は膝を突いてしまいます。
「そして怒りに我を忘れ戦い続けるも、ついには力尽き……止めを刺される寸前、三匹達の……自分を信じて着いて来てくれた仲間達が貴方を再び助けました。それがその力です。貴方はその力を使い、鬼達を支配し人間にも復讐を試みた。ひたすら怒り、ひたすら恨み……それが貴方の原動力になっていった」
先代桃太郎はいつのまにか泣いていました。
自分を信じて着いて来てくれた三匹の仲間達。
彼らの屍を抱きしめ、ただひたすら泣き叫んだ記憶が蘇ってきたのです。
『貴様……貴様に何が分かる……!』
先代桃太郎は新たに日本刀を顕現させます。
両手にそれぞれ持ち、二刀流でももたろうへと襲い掛かります!
「わかりますよ……! 私は貴方だ! 貴方は願っていた! 自分を止めてくれる人間が現れる事を!」
『何を……言っている!』
先代桃太郎は二刀流を駆使し、ももたろうを追いつめます!
明らかに先代桃太郎の力は増していました。
ももたろうは受けるのが精一杯の状態です!
「貴方は分かっていたでしょう?! 自分を信じて着いて来てくれた仲間が……今の貴方を望んでいる筈が無いと!」
『黙れ……黙れ黙れ黙れぇ!』
先代桃太郎の猛攻は続きます!
ももたろうはついに受けきれなくなり、斬撃をまともに受けます。
黄金色の鎧が切り裂かれ、先代桃太郎の周り蹴りで突き飛ばされてしまします!
『望んでいようがいまいが……俺は俺の道を行く!』
「っく……いいえ……貴方は分かっていたんです……だから私が生まれた……。貴方から零れ落ちた感情が桃に宿り、私はその化身として生を受けた……。私は、貴方を止める為に……ここに居る!」
ももたろうは立ち上がります。
負けるわけにはいかない。今、ここで絶対に負けるわけにはいかないのです。
「絶対助ける……貴方も、貴方を信じてついてきてくれた仲間達も!」
その瞬間、再びももたろうの体から眩い光が放たれました!
思わず光から目を背ける先代桃太郎。
『馬鹿な……こいつ、まだ……』
「犬さん……キジさん……ゴリラさん……少しだけ……私のワガママに付き合って下さい!」
巨大な力の奔流がももたろうへと流れ込みます!
その力は先代桃太郎の力を遥に凌ぐ物でした。
『何故……何故だ! 何故貴様にそんな力が……!』
光の中から現れたももたろう。
その姿は真っ白な着物に身を包んだ少女。
「今、教えてあげます……!」
ももたろうは手の平から光を解き放つと、その衝撃で先代桃太郎を吹き飛ばし岩へと叩きつけました!
しかし先代桃太郎はそれでも立ち上がります。
『貴様も……貴様も俺の一部なら分かっているだろう! あの絶望を……! 俺を信じてついてきた仲間を失った悲しみを!』
ももたろうは光を解き放ち続け、先代桃太郎を抑え込み続けます。
しかし先代桃太郎は、それでも前に進み続けます。
『犬、キジ、猿……皆目の前で……俺を守って死んでいった! 脆弱な俺を守って……死んでいった!』
溢れる涙
怒り、悲しみ、そして憎しみに捕らわれた桃太郎
「ええ、それが人間です! 誰しも感情には逆らえません! 乗り越えるなんて出来ない! 結局は背負い続けるしかない!」
ももたろうは力を振り絞り光を解き放ち続けます。
『ならば……ならば何故だ! 何故お前は抗う! 何故そうまでして俺の前に立ちはだかる!』
「何故?! 貴方が……貴方が助けを求めたから! だから私は助ける! 乗り越える事は出来なくても! 背負い続けるしかなくても! 一緒に……少しだけでも一緒に背負ってあげたいから……!」
ももたろうの力は増します!
「一緒に泣いて、一緒に笑って、一緒に喜んで……これからは……一緒に!」
鬼ヶ島を揺るがす程の力を、ももたろうは一気に解き放ちます!
『ぐ……お前は……』
力の奔流が天へと上り、雲を掻き分け空高く打ち上げられました。
鬼ヶ島の上空に漂っていた黒い雲は消えてなくなり、激しい戦闘が噓のような静寂に包まれます。
「ぐっ……馬鹿な……この俺が……小娘なんぞに……」
先代桃太郎は地面に倒れ、体が動かない状態でした。
そこにももたろうが歩み寄ります。
「どうぞ……食べてください。貴方の分です」
ももたろうは先代桃太郎の口元へと、御婆さんの作ってくれたハンバーグを運びます。
「哀れみのつもりか……そんなものは……」
「いいからさっさと食え! 話進まないだろ!」
無理やり先代桃太郎の口へと突っ込むももたろう。
先代桃太郎は喉に詰まらせながらも、なんとか団子状のハンバーグを食べます。
「ぐっ……美味い……」
先代桃太郎は、ハンバーグを食べると満足そうな笑みを浮かべます。
そのまま、白い着物に包まれたももたろうの顔を眺め
「お前も……きびだんごでは無くハンバーグを持たされたのか……。俺の婆さんもそうだった……。きびだんごとリクエストしたハズなのに、出てきたのはハンバーグだった」
「そうだったんですか……」
先代桃太郎は、懐かしむように自分の過去を喋りはじめました。
「旅に出て……全部自分で食っちまってなぁ……あの三匹とも喧嘩になったが、熱い戦いの末……俺達は確かな絆で結ばれたんだ。でもあの時……キビダンゴだったら……どうなってたんだろうな……」
なんということでしょう。
あまりの美味しさに自分でハンバーグ食べてしまったんですね。
「だがもう心残りは無い……もうお前の好きにしろ……俺はもう疲れた……」
光に包まれ、先代桃太郎はゆっくりと霧散していきます。
「好きにしろって言われても……」
「わん! 好きにしろと言われたんだ。好きにすればいい」
「あぁ、そうですね、犬さ……ん?!」
完




