ももたろうの冒険
助けて、と
誰かの声が聞こえた
鬼ヶ島が、私を呼んでいる
「御婆さん、私は鬼ヶ島へ鬼を退治しに行きます。なので”きびだんご”を作ってください。お弁当にします」
昔々、あるところに、ももたろうという可愛い女の子が居ました。
女の子なのに、ももたろうと名付けられたのには理由があります。
「はえー、鬼退治? 悪い事はいわん、やめとき」
おばあさんは、首を横に振りながら、ももたろうを止めようとします。
鬼はとても恐ろしい者達だからです。
女の子なのに”ももたろう”と名付けられたのも、鬼達の目から隠す為でした。
ももたろうはとても可愛いらしい女の子で、鬼達に攫われないようにと、御爺さんと御婆さんは男の子の名前を付けたのです。
しかし、ももたろうはそんな鬼達の元へと自分から行くと言い出しました。
御婆さんは困り果てた様子です。
「何故にいきなり鬼退治……いや、それよりも……きびだんごってなんじゃ……」
御婆さんは困ります。
きびだんごって何? と。
そんな御婆さんに、ももたろうは追い打ちを掛けます
「御婆さん……もしかして、きびだんご知らないんじゃ……私でも知ってるのに……」
御婆さんは、生意気なももたろうをギラっと睨みつけました。
鬼の形相です。ここにも鬼が居ました。
「何を言うか! 知っとるに決まっとるじゃろうが! まっとき! すぐに作ったるわ!」
御婆さんはシステムキッチンへと走り、すぐに作業へと取り掛かります。
まず御婆さんが冷蔵庫から取り出したのは牛のステーキ肉!
はい、御婆さん最初から間違えてますね。
「きびだんご……きびだんご……きびの……だんご……」
正解を口にしているのにも関わらず、御婆さんはステーキ肉を包丁で細かく切りはじめました。
なんという事でしょう、ステーキ肉をひき肉状にしているのです。勿体ない。
「ふぅ……」
なにやら、やりきった顔の御婆さん。いや、完全に間違ってますからね、貴方。
「次は……」
御婆さんはボウルの中に挽き肉状にした牛ステーキ肉を入れ、卵を投入。
そのまま練り込ませるように手でかき混ぜます。
おや? これってもしかして……
「味付けは……」
御婆さんは、冷蔵庫の中からニンニク、タマネギ、ピーマンを取り出します。
そしてそれを、ベトベトの手で包丁を握りみじん切りに……
いや、普通その作業最初にしませんか?
今手がベトベトじゃないですか。滑って怪我しないでくださいね。
「儂は構わん!」
何を言ってるんですか。
そのまま御婆さんは、みじん切りにした野菜をボウルの中に投入。
再び手でかき混ぜながら揉み込みながら、塩、コショウで味付けします。
あぁ、やっぱりこれって……あれですよね、ハンバーグですよね?
御婆さん、キビダンゴ分からないからって、ももたろうの大好物で誤魔化そうって魂胆ですね?
「そんなワケ……」
いえいえ、バレバレですから。
さてさて、御婆さんはボウルから取り出したお肉を、御団子のように丸くしはじめました。
ぁ、そこは御団子みたいにするんですね。
御団子にしたハンバーグを、御婆さんはフライパンで焼き始めます。
こんな時代でもIHコンロはあるのです。
「よし……っ」
何が「よし」なのか分かりませんが、とても美味しそうなハンバーグが出来上がりました!
御婆さんは自信満々に、お弁当箱にご飯と一緒にハンバーグを入れます。
そのまま風呂敷で包み、ももたろうへと持っていく御婆さん。
「ももたろうや、出来たぞえ」
「……? なんか凄い香ばしい匂いがしますね。御婆さん」
ももたろうは風呂敷に包まれたお弁当箱の匂いを嗅ぎつつ、とてもいい匂いの”きびだんご”に感服します。
「流石御婆さん! 私の大好きなハンバーグ風味にしてくれるなんて!」
ハンバーグ風味?!
なにそれ怖い。
無事に? きびだんごを受け取ったももたろうは鬼ヶ島へと旅に出ます。
御婆さんは心配そうな顔をしていました。
それはそうでしょう、これから怖い鬼を退治しに行くと言うのですから……。
「どうか……ハンバーグだとバレませんように……」
そっち?!
っていうか絶対バレますって!




