犬、名前をつけてもらう。
う、うう…。最近、気を失う事が多い。あれ?脇腹痛く無い。
あんなに痛かったのに。でも、気を失う直前なんか、黒っぽい何かを見たような……思い出した。変な黒い生き物&地球人(日本人)を見たのか。
同郷の人がいたのは嬉しいのだが、私は犬。言語なんて話せない。
私も元人間で日本人だった事とか、ここは何処なのか、あの黒い生き物は…とか。
せめて、せめて。この世界の事を教えてくれたら良かったのに…あの神様。私の脳内ではフルボッコにされてるところだよ。
ってここ何処。今更だけど。
ベッドの上に居る事は分かる、嫌な匂いがしない事も分かる。爽やかな匂いがする。うん、この匂いいいね。
…決して匂いフェチでは無いよ?犬だから嗅覚が強いっていう訳で匂いには敏感なだけだ。
周りを見る限り、木造の家って感じがする。ベッド、棚、本、机、荷物らしき物が端に置いてあった。
うん。質素だ。
独り頷いていたら下の方から足音が聴こえた。誰かが来る?少し身構えて、ドアを見つめてると黒髪の少年が入って来た。手には小さめの鍋を持っていた。
「お!起きたか、お腹空いてないか?ドッグフード無かったから人間用の食べ物だけど食べれる?」
「わふっ!?」
な、何だと、ご飯!?ドッグフードじゃなくて良いよ!めっちゃお腹空いてたんだよ、久しぶりに見るご飯…!
しかも、これはお腹に優しそうな野菜スープ、中にはベーコンの様な肉も入っている。思わずゴクリとなる。
ぐーぎゅるるる…
あ、お腹なった、涎も出てきた。これは我慢しなくてもいいんだよね。待て、なんて言われて無いし。
差し出された鍋に顔を突っ込み食べようとして止める。
本能が食べて良いのか、と訴えかけてる。見た限り玉ねぎとかは入ってないけど。
だが、精神的には人間な私は食べたい、と訴えかけてる。固まってしまった私に少年は声をあげた。
「あはははっ!犬がお腹鳴らすなんて初めて聞いたよ、っぷく、くく。…あ、涎。食べていーよ、毒とか入って無いから!」
…!この人は私の心の中を読めてるのか!?ドストライクだよ、有難くいただきます!
本能は飢餓のせいか少し警戒する程度に収まった。
舌を少し出し舐めた。
ー美味しい。ずっと何も食べてなかった。なんでもいいから食べたかった。
あれ、目から鱗が…。犬も泣くのか…。
ハグハグ食べてる私は頭の上から手が降ってくるのに気付かなかった。
……ぽすっ。
頭の上に手が、乗せられた。
温かい。まるで壊れ物でも扱うかのように優しく撫でてる。その気持ちよに思わず目を細めた。
「お前さ、名前あるの?」
名前、そういえば全く考えてい無かったなー。
首を横に振れば黒髪の少年は少し驚いた顔をした。え?驚くような事あったの?
「賢いなー!人の言葉分かるのか、じゃあ、俺が名前つけても良い?」
あちゃー、そゆことか。
私、頭脳は人間、身体は犬だからね。あのフレーズを使う時が来たよ…。
意識がどこか遠くにいきそうだったのを何とか戻して頷いた。
「へぇ、まぐれじゃないね。ちゃんと分かってる、んー。だったら俺も自己紹介しないと!俺の名前は柴田 圭。んじゃ、お前の名前はーーポチ。良し!今日からお前はポチだ!!」
彼のネーミングセンスは低かった。
にぃと笑った顔で誤魔化していたが、一瞬悲しそうな顔をしていたのを私は見た。
後に知る事になる。彼の表情の意味を。
これは、神様のイタズラだ。