犬、人間と会う。
ビーッビーッビーッビーッ
うるさい…。何、この変な声は。いつの間に寝ていたのだろうか。辺りは森。確かあの動物らしき生物から逃げて…っ。居ないよね!?またアレに襲われたら今度は絶対殺される。安全な所を探さなきゃ。動こうと体に力を入れた瞬間、脇腹辺りから強烈な痛みが走った。
「ギャウッ!」
痛い痛い痛いっ!これはあの動物からやられた傷。ちゃんと消毒して無かった、これでは細菌などが入ってしまう。もう、入っているのかもしれないけど。
一応舐めておこう。痛みが更にますが何もしないよりは良いだろう。身体を起こす際の痛みに耐えながら舐める時の痛みにも耐えて私の気力はぐんと減っただろう。
取り敢えず動けない今は周りを見て警戒する事だ。仮に敵がきたら傷なんて無視に逃げる。命の方が優先だ。
あ、木の根本辺りにどでかい虫がいる。食べれないかな、昨日からなのか何も食べてないこの私の思考は空腹に侵食されている。
ぐーぎゅるるる…
「…くぅん」
自分で食べ物を用意する事も出来ず親も見つけられない挙句に怪我を負うなんて情けない。
こんなんで生きていけるのか。死ぬっていう訳にもいかん。あの神様と顔を合わせたく無い、絶対。ぶん殴ってしまう。
あ、目の前が真っ黒になりそう…。まだ、私は生きなきゃいかんのに。もう、この地面に生えてる草を食うか。でも口に力が入ら無い。諦めるもんか、私は前世で食い意地は凄かったんだ。あ、お寿司食べたい…いや、鍋も良いな。
お腹空いたな。
目がもう、閉じてしまいそうだ。何か周りに黒い影が見える。幻覚まで見えてるのか。
「うわっ!めっちゃ魔物いるじゃん。これは倒しがいがありますな」
……え。誰?人間だ。ってか日本語だ。ここ地球かあ。物騒な言葉が聞こえたような気がしたけど。
ぼんやりと見える視界の中で懐かしい黒髪が見えた。高校生ぐらいだろうか、その男の子は周りにいた黒い影達を風でも払うかのように消し去っていた。
「あれ、あんまり抵抗しなかったな?何か群がってたけど何かあるの…っ!い、犬!え、しかもゴールデンレトリバー!?何で異世界に!?って死にそうじゃん!!やばいやばい!治さなきゃ、『ヒール』」
慌てながら喋る日本語に懐かしいなーと思いながら瞼を閉じかけた時、温かい光の様な物に包まれた。温かい。あ、死んじゃったか。ごめんね犬。頑張って生きてたのに。ごめん。
私の意識はそこで消えた。