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料理係シリーズ

もと料理係と異国の行事

七夕あわせのSSです。勢いで書きました、すみません。

「ふんふんふ〜ン」


 思わず鼻歌を歌ってしまいました。お行儀悪いってマナーの先生に怒られそうです。


 皆さん、ご無沙汰しています。ピアです。今私はお部屋の飾り付けをしています。なんの飾り付けかっていうとーーーー


 コンコン。

 ノックの音がしました。


「ピア」

「アラステア様!」


 アラステア様がいらっしゃいました。私は手にヒラヒラのテープを持ったまま駆け寄ります。


「これは何をしているんだい?」


 アラステア様が部屋を見回します。そうですよね、不思議ですよね。

 部屋には大きな木が一本。それにいろとりどりの紙テープなんかで飾り付けしてあります。


「異国のお祭りなんだそうですよ、兄上」


 私と一緒に飾り付けを手伝ってくださっていたニールが天使の笑顔で付け加えます。


「異国?」

「はい、なんでもその国ではササという木に飾り付けをして、願い事を書いた札をぶら下げるんだそうです」

「へえ」

「タナ・バターという祭りだそうです」


 えっへん、と胸を貼ります。


「なんでも神様の娘とその恋人の悲恋の話で、神様の怒りに触れた二人が大河の両岸に別れて暮らさなきゃいけなくなるんですよ。で、年に一度だけ、このタナ・バターの日だけ逢えるんだそうです」

「へえ〜、義姉上は物知りですね! それで、二人はどうやって会うのですか?」


 ニールがキラキラした目で聞いてきます。これは頑張って話さなきゃ!


「ええ、白い大きな鳥に乗って会いに行くんですけどね、ええと」


 そこで私のおしゃべりはピタッと止まります。


 あれ? どうなるんだっけ? 白い鳥が出てくるのは思い出したんだけど……


 ああそうだ、まずはゲットしなきゃね。


「は、はい、まずは白い鳥を捕まえるために男の人が旅に出るのでどうでしょう?」

「旅に?」

「彼は彼女に会いたい一心で、大河の源流に向かいます。そこは頂上に雪をいただくような高い山で」


 必死に頭の中で話を考えます。後で思えば「あら忘れちゃった」ですませればよかったんですが、何だかこの時は必死に話を繋げていました。アラステア様はにこにこと聞いていて、ニールは早く続きを、とせかしてきます。


「彼は源流を探すんです。途中で仲間をゲットして、襲い来る魔物を退治しながら進むんです」

「魔法使いは? ねえ、仲間に魔法使いと騎士はいるの?」

「もちろんですよニール。そして旅の仲間たちは苦難の末に源流を見つけるのです。そこに待ち受けていたのは巨大な魔物の王でした」


 うわあ、と物語に興奮しきりのニール。そこから魔物の王との戦いを身振り手振りを交えて熱演してしまいましたよ。


「――――そして彼はついに魔物の王に追い詰められてしまいます。逃げ込んだ先は厨房でした。

 後がなくなった男は、背後にある棚に手を伸ばします。たまたまそこにあったバターを思いっきり投げつけました。ところが、なんと、魔物の王の弱点はバターだったのです!」


 いや弱点に当たるものを城に置いておくなよ、とアラステア様の無言の抗議が聞こえてきそうですが、ニールは興奮しきって身を乗り出しています。


「そして男は魔物の王を倒し、世界の危機を救ったのです。それから勇者と呼ばれるようになりました。

 勇者が魔物の王を倒した日はその逸話から『タナ・バターの日』として祝われるようになりました。

 そして魔物退治のご褒美として、神様から姫に会う許可をもぎとるのです。二人は結ばれ、末永く幸せに暮らしましたとさ、おしまい」


 わーーーっ、とニールが拍手してくれました。頑張ったかいがありますね!


「面白かったです義姉上! またお話してくださいね」


 お勉強の時間になったニールはにこにこと部屋を出て行きました。私は思わずおおきなため息を一つついてしまいました。


 けれどにこやかにアラステア様が言いました。


「で、ピア、白い鳥はどうなったんだい?」

「ぐっ」


 鋭いツッコミです、アラステア様! そのあたりは忘れておいて下さい! 私の創作なんですから。そうそうあちこちに穴がありますよね。年に一回しか会えないって話なのに「末永く幸せに暮らしました」とかないでしょう、私。


「はあ。わからないならわからないって言えばいいのに」

「すみません、あんまりニールが楽しそうだったのでつい……あとでちゃんとニールに謝ってきます。正しいタナ・バターの伝説が載っている本でも持って」

「タナ・バターじゃなくて七夕だからね? 棚にバターがあったわけじゃないんだよ?」


 なんか今日のアラステア様は容赦がないです! その割になんだかがっちりと抱き寄せられてるんですけど、これはどう解釈したらいいんでしょうか?


「うん、おしおきだね」


まってーーー! と叫ぶ間もなくアラステア様の腕に閉じ込められてキスでとろんとろんにされてしまった私でした。






 あとになってから、ニールと二人っきりで楽しく飾り付けしてたのに焼きもち焼いてたことがわかりました。アラステア様、ニールはまだ10歳ですよ!!






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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちはー! 相変わらず面白いですねっo(^▽^)o ……だがしかし! [一言] うわあああん!ポカポカポカー☆(なんか自分でも分からないけど憤りのあまり手をグーにしてひかるさんにポカポ…
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