きっかけ
正義が消えたわけじゃない
だけど人生は苦しいから
つい忘れてしまう。
情熱にくべてしまった若さが
夢も明日も
灰にするわけじゃないのに
どこまでも
どこまでも
青い空に
心、鳥のように
解き放つことができない
なぜ?
誰も憎みたくて
生まれたわけじゃない
誰も傷つけたくて
生きてるわけじゃない
皆、誰かの笑顔を見たいだけ
「【ユニークスタイルオンライン】? なんだそれ?」
俺、飯田元輝は夏休みの初日に自宅突撃サプライズをかました親友の青木緋登美にヘッドロックをかけながら聞き返した。
「ギブッ! ギブッ! ごめんなさい!! 許して!」
さらに締め上げてきっちり落としたところで再びの質問タイム。
「で、そのユニークなんちゃらっていうのは何だ?」
「お前は人の話を上の空で聞いているからそうなるんだろうが。半年前に俺と青ちゃんがβテスターに選ばれたVRゲームの最新作だよ。一週間後に正式稼働だ」
そう話すのは、俺の兄貴である飯田昂太郎だ。そういえばそんなことを聞いたような気がするが、いかんせん廃ゲーマー二人がβテスターになるのはしょっちゅうのために聞き流していた。
「でも、VRゲームなんか最近は珍しくないだろう?」
「いや、確かにVR自体は珍しくなくなってきたが、今回の《Unique Style Online》は日本初のVRMMORPGになるんだ。映像や感覚なんかも超リアルで、口コミなんかもあって初回生産分は3か月前に予約締切で、店頭販売も一日で終了したんだ。もちろんβテスターの俺達には正式版がすでに配られている」
「それに、俺が何の関係があるんだ?」
「βテスターには特典があって、成績によっていろいろ貰えるんだ。その中で俺たちは追加で、正式版一式を2人分ゲットしたわけだ。そこでお前達にも参加してもらおうと思ってな」
「売ればいいじゃん。いま通常価格の五、六倍になってるって聞いたよ?」
発言したのは妹の飯田智明である。俺とは違いちゃんとβテスターの話は覚えていたようで、調べていた。
「たしかに売れば金になるかもしれない。だが、俺の心が叫んでいるんだ。『このゲームにお前たちを参加させねばならない!』とな」
「本音は?」
「顔も知らん奴に楽しませるよりは、身内と一緒に楽しみたい!!」
ゲームの中でも人見知りかよ。
「まあ、さっき言ったことも嘘じゃない。第六感ってやつかな」
「ぜひとも、2人に【ユニ・スタ】の世界を楽しんでほしいのさ」
復活した緋登美もそう言って笑った。そして正式版一式としてゴーグルとカセットと本体を渡してきた。
まあ、夏休みの予定も[こいつらのせいで]がら空きだからいいけど。
智明もツンデレ気味に兄貴から一式をもらっている。というか結局は遠距離恋愛中の彼氏に会いたくて始めようと思っていたらしい。
が、予約が間に合わず諦めていたようだ。ちなみに彼氏は兄貴の親友でβテスターも一緒にやっていたと聞く。だから【ゆにすた?】を調べていたのか。 素直じゃない奴だな。
そして最後に緋登美が騒ぎだした。
「元輝! 課金でウエディングドレスを買ったんだ! ログインしたら一足早く式を挙げようね!もちろん私と元輝で!!」
俺は無言、緋登美にフロントチョークを決めた。
「じゃ、アカウントを登録しておこう。その方がスムーズにスタートができる」
兄貴の仕切りでこの日は登録だけして解散になった。
Unique・Style・Online