みんなのニュース
━━━世界から取り残された私達は黒い点を潜り抜けてコンビニまでやって来た。
昼間なのに誰も居ない。
客も店員も………。
店内を歩き冷蔵庫からぬるいコーラを取り出すと私はカウンターに150円置いて店外へ出た。
「こんな時でも律儀にお金払うんですね。お姉ちゃん」
「………こんな時だから………だよ」
ぬるいコーラが喉を通る。
甘味がネットリと絡み少し焼ける痛みを残した。
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『みんなのニュース』はまとめサイトとしては良質な記事を扱っている。
ただしアングラな内容が多く扱っているのでネタサイトとして一部に熱狂的な信者をつくっているらしい。
その編集部へ『神隠し』について聞く為に、午後にアポを取っている。
しかし私達は途中寄り道をして事件現場を見てから事務所へ行くことにした。
例の子供の片腕を持ち歩く母親を発見した場所には花束やお菓子が供えられていて傍目からは花壇の様でお菓子やサッカーボール等のお供えが世間の認識を表している。
「事件から大分経つけどまだ人が多いね」
「信号機近くだからね。………あんまりノンビリもしてられないから行こうか」
来た道を少し戻って一本脇に反れた場所に『みんなのニュース』の看板があった。
狭い階段を上がって二階にオフィスがあり入室前ににノックをしたが返事も無く鍵は空いていた。
「入りますよ~」
「失礼しま~す」
視認出来る範囲では職員は不在だった。
左右は衝立で壁が出来ていて幾つかの部屋を作っている。
入口近くにカウンターがありテーブルの上には受付の三角形のプラステックがポツンと置かれているだけで無用心だが人の気配が無い。
バックを抱えてアクセサリーの時計を見る。予定の時間だった。
カウンターテーブルを叩く。コンコンと鳴る。
「もぉ……だぁあれぇ?」
今起きましたとばかりの妙に声に艶のある女性の声が衝立を挟んだ奥からした。
「メールで午後に面談予約を取りました者ですが、編集長はご不在でしょうかぁ?」
「………ん~居るよぉ。こっち来てぇ」
衝立はパーティションの様に成っていて部屋の奥に区切りが切れており手前の衝立に『応接室』と書かれた100円SHOPで買えそうなプラ板が張り付けてある。
衝立は然程高い物では無いが私達二人背伸びをしても中は窺えるものでは無い。
肩車でもすれば見えないことも無いのだろけど私が上でも彼女が上でも間違いなくマチガイしか起きないだろう。故に却下。
奥側にある区切りは内側にL字に曲がっていてドア無しでも中の様子を直接的に見ることが出来ない。
クランクを抜けて中に入ると三畳くらいのスペースが確保されていてローテーブルを中心に二人掛けソファーが挟む様に配置されている。
片側のソファーをベッド代わりにしていたのかYシャツのみを着用した眼鏡姿の女性が胡座をかいて座っていた。
女性は見た目は私より少し上の様に見えた。
Yシャツのボタンは弾け飛び上三つが外れていて褐色の豊満な乳房がぶるんっと揺れて自己主張している。
そして胡座をかく脚の間には………生足でYシャツの隙間から覗く大人の艶香。
「初対面で言うのもなんですが、服を着ていただけませんか」
「Yシャツ着てるよぉ?」
えぇい不思議そうに見るな天然か?!
「ん~残念だけど編集長は外に出ちゃって~それから誰か来るって聞いてたけどぉ~可愛い娘で~お姉さん嬉しい~ぞっ!そだコレ~」
ローテーブルに名刺が置かれる。このゆるふあな人副編集長なんだ。
「あ~ワタシの肩書きで不信感持ったっしょ!アタシそう言うの慣れっこだしぃ」
「いえ………」
「でもね。編集長の一番近くにいて表情から色々読み取って指示を出すのぉ。副編集長ってコレでも楽なポジションなのよ」
「………そうなんですか」
不安はあるが先に進まない。
「あの………」
「黒い穴の話よねぇ?」
「ええ」
テーブルの上に四つ五センチ前後の女性の胸像を副編集長は並べる。
胸像のどれも背中から鳥のような羽がある。
「情報は情報で~売ってあげるぅ」
ただで教えて貰えると思っていただけ甘かった。
「情報ってどんなやつですか?」
「えっと。みんなが欲しがる物かな」
正直話題に成るようなネタなんか持ってない。
隣に目を向けるが小さく首を横に振るだけだ。
「そぉだと思って……ジャーン!コレの調査の手伝いして欲しいの」
「コレって人形ですか?」
「正確にはカプセルトイのトレーディングフィギアなんだけどねぇ。ナカヤマ玩具の女神シリーズの噂知ってる?」
カプセルトイ業界でヒットを出すのはかなり難しい。
何かのタイアップなら確実に数字を叩けるのだけどオリジナルだとそうはいかない。
ネット掲示板のガチャガチャ板でナカヤマ玩具や女神スレがちょこちょこ立っている。
メジャーでも無い資本が一千万以下の中小企業に出た噂。
女神シリーズのレアには通し番号が割り振ってあり五種類同ロッドコンプすると何かが起こるとマニアの間では割りと有名な話。
有りがちな都市伝説だった。
「つまりぃこのぉ『女神シリーズ』の噂の検証をしてほしいなぁって」
「検証って言ってもガチャマシンって全国何台有ると思ってるのですか!それに神隠しとは関係無いですよね?」
「確かに関係ぇ無いけどぉ情報はウチに席を置いたらぁ集まるよぉ」
隣に座る少女はフィギアの一つを手に様々な角度を回しながら眺めている。
「神隠しの調査が終わるまで此処に来ます」
「ソッチの子はぁどーするぅ?」
「お姉ちゃんがヤるなら私も頑張るよ」
「そっ。よろー」
ガチャマシンは電気を使わなくて済むのと故障の少なさでデパートや小売店の商業施設やカプセルトイ専門の無人店舗等の幅広いフィールドで活躍するプライスマシンである。
中が見えない造りが多い為当たり外れが明確化されている。
その為子供から大人まで楽しめるギャンブル性の高い物に成っている。
一回に使う金額も最低額20円~で上は5000円なんて物も存在する。
金額が上がれば商品も高額になりポータブルのゲーム機やブランド物のバッグもある。
「今回のぉ『女神シリーズ』は一回500円の比較的にリーズナブルなぁ物だけどね。ただこのシリーズ専用機なのよねぇ」
「専用機?」
「そっシールデルやファイルですの様に通常のカプセルと違うタイプなのぉ」
「つまり専用機の情報を得れば女神にたどり着けるって話?」
「お姉ちゃん!仮にたどり着けても同ロッドのレアが入っているとは限らないんじゃないかなぁ?」
マシンが仮に稼働していたとして残数などの関係でレアを引けるとは限らないのだ。
そう考えると本当に対価なのだろうかと考えてしまう。
「だからぁここに有るの持ってって良いよん」
「いや持っていても確実性無いのでは意味をなさなのでは?」
「チョッと待って本当に持ち歩いても良いんですよね?」
「大丈夫よん。編集長に許可は貰ってあるからぁ」
「なら貸出証明書いてもらえます?万が一オカルトが事実だった場合に備えてなんですけどね♪」
少し首を傾げてフィギアを副編集長は見つめる。
「おぉ~っそうだね。モチロン書くよ~」
「間違ってもウルトラ怪獣は描かないでくださいね」
「あっはっはぁ。新潟県は関係無いよぉ」
私は隣に座る彼女を肘でツツく。
「………なんで臼型怪獣なんて知ってんのよ」
「お姉ちゃんこそ臼型怪獣がモチロンだって知ってるのかなぁ?」
コイツこんなキャラだったっけ?
「さぁあね。処で編集長は何処に行かれたのでしょうか?」
「さぁ詳しくはぁ知らなーい」
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雨降りの電車移動は好きになれない、傘が邪魔だから。
たった隣の県に移動しただけなのに雨になるとは想定外だった。
呼び出された地点の最寄り駅には既に何人かの人間が用意されていた。
この雨の中で全く汚れていない足元、そして永久ワックスを掛けた白のセダン。
普通の生き方では無いと一目で解る。
「『みんなのニュース』の編集長ですね」
「だとしたら?」
「お迎えに上がりました」
車の後部ドアが開かれ乗る様に促された。
車の中には黒服でオールバックの威喝い男が待っていた。
男は無理に笑顔を作ったせいで見る側として酷く気持ち悪い。
「班長。御手数掛けます」
「こんな紙切れ一枚で私を呼び出すなんて偉くなったな」
目の前の黒服姿のオールバックの男は見た目の威喝さを活かせずに借りてきた猫の様に大人しくしている。
「そう畏まるな。私はもう組織の人間では無いし貴様の上司でも無い只のニュース記者さ!」
「では、これから話す事は内密にお願いします」
どうにもコイツは警察官としての自覚が足りない。
民間に情報を提供する負担を考えない。
「で、その情報を聞いた私に何をさせるつもりだい?」
「班長に戻って来て………」
「イッパシの冗談言える様になったな」
飛びっきりの笑顔で一発男の肩を殴った。
「冗談じゃ無いんですけどね……班長まだあの時の事件追いかけているんですよね?」
「…ん?」
「実は留置場内で不可解な事が………」
私は胸ポケットに仕舞ったボールペン型録音機のスイッチを入れた。
お待たせしました第2話です。
登場人物に名前が有りませんが大丈夫ですか?
次回もユックリ進行です。
ノンビリお付き合い下さいm(__)m